首都・東京へ向かう人の流れが止まらない。東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)は昨年、11万人近い転入超過となった。転入超過は19年連続だ。

 安倍政権は地方創生を掲げ、東京一極集中の是正を目標とする。ただ、政府機関の地方移転が尻すぼみの兆しを見せるなど、本気度には疑問符がつく。

 20年の五輪を前に、都心ではさまざまな開発が進む。地方から人が集まり、東京は日本の成長エンジンであり続ける。人々が信じていても無理はない。

 だが忍び寄る高齢化が、東京の競争力を奪う恐れが出てきている。地方との共倒れを防ぐためにも、行き過ぎた一極集中に歯止めをかけていくべきだ。

 ■東京に迫る危機

 五輪が終わった後、東京の高齢者の数はさらに増える。

 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば、1都3県では10年から25年までの15年間で、65歳以上の高齢者が計223万人増える。一方、15~64歳の生産年齢人口は、なお東京への流入が続くことを前提にしても、計195万人減る。

 「東京圏の経済成長率は25年を境に急速に低下する」。人口問題に詳しい松谷明彦・政策研究大学院大名誉教授はみる。

 すでに高齢化が進んでいる地方に比べ、高齢者の増え方が急激だ。「東京は相対的に貧しくなり、高齢者福祉のコストが財政を悪化させる。公共インフラの維持も難しくなる」と松谷さんは警鐘を鳴らす。

 東京のもう一つの問題は出生率の低さだ。1人の女性が生涯に産む子の数を示す合計特殊出生率は全国最低の1・15(昨年)。子育て環境の厳しさが言われて久しい。

 東京が若い世代を吸い寄せ、日本の人口減少が加速する。民間研究機関「日本創成会議」は「人口のブラックホール現象」と指摘した。

 時間がない。東京の危機をいま一度認識し、国を挙げて対策を講じていくべきだ。

 ■伝わらぬ覚悟

 政府が昨年末に決定した地方創生戦略には、「地方に30万人の雇用を創出する」「地方から東京圏への転入を6万人減らし、転出を4万人増やす」といった数値目標が盛られた。

 目指す方向に異論はない。ただ、当の政府が、どれほどの覚悟を持って取り組んでいるか。

 典型例が政府機関の地方移転だ。仕事と人の好循環を促すとして、今年3月から東京圏以外の自治体に提案を呼びかけた。

 中小企業が多い大阪府が中小企業庁を、京都府が文化庁の誘致に名乗りを挙げるなど、計69機関が対象に上がった。

 だが各省庁は「行政機能が下がる」「国会答弁に支障が出る」と反発した。政府は今月、検討対象を34機関に絞り込んだ。7省庁も候補には残ったものの、議論は先送りされた。

 高齢者の移住を促す政府方針も波紋を呼んでいる。元気な時に入居し、必要に応じて医療・介護が受けられる共同体をつくる構想が柱で、263自治体が受け入れに前向きだという。

 東京の高齢化の速度を抑える効果はあるかもしれない。ただ地方の人口構造を乱し、財政負担を転嫁する恐れはないか。制度設計は慎重に進めるべきだ。

 ■地方都市を拠点に

 一極集中の是正に向けては、地方の力を相対的に強くしていくことが必要だ。

 東京を除く46道府県と96%の市町村が地方交付税に頼る。この体質が変わらぬ限り、政府がことあるごとに「あめ」をばらまいても、格差解消は遠い。

 地方創生も、中央集権の色合いは相変わらずだ。国の構造をどう変えるか。分権の方向性を打ち出すべきではないか。

 東京一極ではなく、地方の大都市を拠点にした多極型に――。格差研究で知られる橘木俊詔(たちばなきとしあき)・京都女子大客員教授はこう提唱している。大阪や名古屋、札幌、福岡などの政令指定都市を核と位置づけ、東京の機能を分散していくとの主張だ。

 現実的な道だろう。政府機関の移転も、国がまず全体的なビジョンを示し、自治体と議論を詰めていくほうがいい。

 ただ、大都市が「ミニ東京」となるだけでは意味がない。多極化の効果が周辺全体に及び、新たな産業育成につながっていくような形が望ましい。

 そのためには、自治体が真の自主性を発揮できる仕組みが必要だ。税源と権限の配分を抜本的に見直していくべきだ。

 東京の華やかさに目を奪われがちな若い世代に、「地方で暮らす」という選択肢の魅力を示していくことも大切だろう。

 福井県は先月、「ふくい暮らしライフデザイン設計書」を公表した。福井と東京で23~60歳を過ごす場合の家計収支を比べると、手元に残るお金は福井が3千万円多い、と試算した。

 地方の持ち味である住みやすさを、各地がもっと競い合う。そうなれば、東京一辺倒の人の流れも変わってこよう。