2015.12.29 TUE
2016年、ヒトに勝つ人工知能を生み出したいなら読むべきSF小説8冊(選:松原仁)
そろそろ面白い小説ですら人工知能が書きそうな気がする2015年。そんな未来を引き寄せるべく「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」を率いる松原仁が選んだ8冊のSF小説。そして、自身のプロジェクトに込める思いとは。(雑誌『WIRED』VOL.20より転載)
TEXT BY HITOSHI MATSUBARA
PHOTOGRAPHS BY KOTARO WASHIZAKI
1/8 『アイの物語 』 山本 弘
AI であるアイビスが語るいくつかの短編で構成されており、それぞれが短編小説であると同時に全体がひとつの長編小説になっている。本書における人間とAI のあたたかな関係はわれわれが目指しているものであり、 その意味でアイビスの実現がこれからのAI 研究の目標である。
2/8 『月は無慈悲な夜の女王 』 ロバート・A・ハインライン
AI をテーマとした古典としては『2001 年宇宙の旅』が有名であるが、同じ 1960 年代に書かれた名作。『2001 年~』の HAL9000 に相当するのがマイクである。この時代にマイクのような自意識をもつ AI 像を描けたのは驚きである。その後の AI 研究はマイクを実現しようとしてきたといえる。
3/8 『未来の二つの顔 』 ジェイムズ・P・ホーガン
AI と人間は共存できるのか、AI と人間は敵対するのか、という現在のシンギュラリティの議論を 30 年以上前に先取りした小説。AI 専門家からみても十分にありえる設定になっている。また原作とは異なる星野之 宣の漫画版のラストも秀逸で、原作者も高く評価しているそうである。
4/8 『デカルトの密室 』 瀬名秀明
AI におけるフレーム問題や記号接地問題などの研究課題は、その意味を理解するのがかなりむずかしい。瀬名は小説のなかで AI の研究課題を正面から取り上げている。これらの研究課題の説明は AI 専門家よりも瀬名の記述の方がわかりやすいと認めざるをえない。
5/8 『あなたのための物語 』 長谷敏司
著者自身も認めているようにグレッグ・イーガンの影響を受けているが、 日本人にとってはイーガンより長谷の世界観の方が受け入れやすいと思う。AI の研究も欧米はイーガン的であり、日本は長谷的である。イーガンの『ディアスポラ』と比べて日欧のAI の違いを認識してほしい。
6/8 『know 』 野崎まど
AI はそれ単独で知能をもつのではなく、人間の知能を増幅するのに使われるかもしれない。そんな知能増幅(intelligence amplifier)の可能性をテーマにした小説である。最近読んだ SFのなかでは最も面白かった。著者は業界(?)人ではないかと想像する。
7/8 『ソラリス 』 スタニスワフ・レム
AI 研究の本当の目的は人間のような AI をつくることではなく、知能とは何かを理解することである。この小説は知能に対する新しい見方を示している。ある年齢以上のAI 研究者はみんな読んでいる。地球外の知能を地球の知能は理解することはできるのだろうか?
8/8 『きまぐれロボット 』 星 新一
真面目なロボットをつくるのはむしろ簡単で、人間のもっている「きまぐれ」さをAIで実現するのがとてもむずかしい。星新一はそのことに気がついていたのかもしれない。本書に出てくるようなショートショートを創作するのが「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」の目標である。
『アイの物語 』 山本 弘
AI であるアイビスが語るいくつかの短編で構成されており、それぞれが短編小説であると同時に全体がひとつの長編小説になっている。本書における人間とAI のあたたかな関係はわれわれが目指しているものであり、 その意味でアイビスの実現がこれからのAI 研究の目標である。
『月は無慈悲な夜の女王 』 ロバート・A・ハインライン
AI をテーマとした古典としては『2001 年宇宙の旅』が有名であるが、同じ 1960 年代に書かれた名作。『2001 年~』の HAL9000 に相当するのがマイクである。この時代にマイクのような自意識をもつ AI 像を描けたのは驚きである。その後の AI 研究はマイクを実現しようとしてきたといえる。
『未来の二つの顔 』 ジェイムズ・P・ホーガン
AI と人間は共存できるのか、AI と人間は敵対するのか、という現在のシンギュラリティの議論を 30 年以上前に先取りした小説。AI 専門家からみても十分にありえる設定になっている。また原作とは異なる星野之 宣の漫画版のラストも秀逸で、原作者も高く評価しているそうである。
『デカルトの密室 』 瀬名秀明
AI におけるフレーム問題や記号接地問題などの研究課題は、その意味を理解するのがかなりむずかしい。瀬名は小説のなかで AI の研究課題を正面から取り上げている。これらの研究課題の説明は AI 専門家よりも瀬名の記述の方がわかりやすいと認めざるをえない。
『あなたのための物語 』 長谷敏司
著者自身も認めているようにグレッグ・イーガンの影響を受けているが、 日本人にとってはイーガンより長谷の世界観の方が受け入れやすいと思う。AI の研究も欧米はイーガン的であり、日本は長谷的である。イーガンの『ディアスポラ』と比べて日欧のAI の違いを認識してほしい。
『know 』 野崎まど
AI はそれ単独で知能をもつのではなく、人間の知能を増幅するのに使われるかもしれない。そんな知能増幅(intelligence amplifier)の可能性をテーマにした小説である。最近読んだ SFのなかでは最も面白かった。著者は業界(?)人ではないかと想像する。
『ソラリス 』 スタニスワフ・レム
AI 研究の本当の目的は人間のような AI をつくることではなく、知能とは何かを理解することである。この小説は知能に対する新しい見方を示している。ある年齢以上のAI 研究者はみんな読んでいる。地球外の知能を地球の知能は理解することはできるのだろうか?
『きまぐれロボット 』 星 新一
真面目なロボットをつくるのはむしろ簡単で、人間のもっている「きまぐれ」さをAIで実現するのがとてもむずかしい。星新一はそのことに気がついていたのかもしれない。本書に出てくるようなショートショートを創作するのが「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」の目標である。
「コンピューターはチェスで永久に人間のチャンピオンに勝てない」。1950年代にAI の研究が始まってしばらくの間こう言われ続けてきた。しかし97年にDeepBlueが世界チャンピオンのガルリ・カスパロフに勝った 。
それ以降も「コンピューターは将棋で永久に人間の名人に勝てない」と言われ続けてきた。しかし2015年にコンピューター将棋の実力は名人を超えた。ちなみに囲碁はまだ人間の方が強いが、いつかはコンピューターが超える。
「コンピューターは○○で永久に人間にかなわない」というセリフはしばしば言われてきたが、そのセリフに科学的な根拠はない。○○でコンピューターに負けたくない人間の単なる希望的観測を述べているにすぎない。
子どもをつくるとか食事をするとかといった生理的なことを除けば、人間にできてコンピューターにできないことは原理的に存在しないはずなのである。いまの時点では、コンピューターが人間よりも苦手なことはまだたくさんある。芸術の創作がそのひとつである。詩や和歌などはなんとか手がかりがあるものの、まともな小説はつくれていない。
われわれは最近AIに小説を創作させる研究を開始した。最初の目標は星新一さんのようなショートショートを書かせることである。予想していた通り、AIに小説を書かせるのはとてもむずかしい。とてもまともな小説が書けるところまではいっていないが、今回の星新一賞 に人間とAIの共同作品を応募した。今回は入賞は無理だが、いつかは人間を感動させる小説ができると信じている。
将来の目標は、一人ひとりにその人向きの違った小説を書いてくれるAIを開発することである。自分が好きな小説をAIに教えれば、自分好みの新しい小説をAIが毎日つくってくれる。読者が1億人いれば、毎日1億の小説ができる。AI研究者はここで取り上げたようなSFの名作を読んで研究のヒントを得ている。AIが創作した作品のなかに、将来のAI研究者を刺激するような名作が含まれていることを期待したい。
松原 仁|HITOSHI MATSUBARA
1959年生まれ。公立はこだて未来大学システム情報科学部情報アーキテクチャ学科教授。ショートショートをAI に書かせる「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ 」を実施している。
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