俺の名は悟(さとる)。独身だ。彼女もいない。それなのに、毎日のように、お隣さんであるかわいいマキちゃんと晩飯を食べている。食後も一緒にテレビを見たりと変な付き合い方をしている。でも、残念なことにまだ彼氏彼女の関係ではない。
マキちゃん「なんか年末近くなるとテレビも特番ばかりでつまらないね?」
悟「うん。そうだね。使いまわしの映像ばかりだしね。」
マキちゃん「悟は今の人生、楽しい?別の人生を歩んでみたいと思ったことない?」
悟「俺?もちろんあるよ。小さいころは今頃、普通に結婚して子供がいると思っていたしね。周りが結婚したという話を聞くと正直つらいものがあるよ。俺も家族がほしいなぁと思うよ。」
マキちゃん「よし、家族作ろうか?」
なんとー!ついにその時が来たのか!俺にも春、いや夏が来たのか?
悟「聞き間違いではないですよね?今、家族を作るとおっしゃいましたよね?」
マキちゃん「なになに?どうしたの?あらたまっちゃって。」
悟「えっ、だって、それって…」
マキちゃん「やるよね?」
悟「よろしくお願いします!」
マキちゃん「おお、なんか気合入ってんね?よし、そうと決まったら準備するか!」
マキちゃんはそう言うと、俺の部屋を出て自分の部屋に戻っていった。
マキちゃん、部屋に取りにいかなくても、俺はいつでも準備万端だよ?枕元にいつも潜ませているのだから。サガミオリジナル 0.01が…。
マキちゃん「ただいま!持ってきたよ!」
マキちゃんは満面の笑みで両手を突き出して大きめの箱をこれでもかというぐらい見せつける。
マキちゃん「家族で楽しめるボードゲーム!その名も人生ゲーム!」
マキちゃん、それ知ってる。超有名なゲームだから、そんなに自慢するほどマイナーなもんじゃないから。確かに、家族は作れるね。別の人生を歩めるね。
でも、違うでしょー!
大人の男女が二人っきりなのに、なんでそれになるんですか?
悟「ああ、人生ゲームね、人生ゲーム…。」
マキちゃん「どうした?さっきのテンションはどこ行った?夜は長いぞ!」
悟「夜は長い?どういう意味?」
マキちゃん「私、明日休みだから、今日は11時まで居座るよ!」
悟「マジで?でも、お風呂は?まだお風呂入っていないでしょ?寝る前だと風邪ひくよ?それとも、もうお風呂入ったの?お風呂の匂いしないけど…。」
マキちゃん「お風呂はまだだよ。私、髪長いからね。お風呂入って髪乾かしてからだと、ご飯に間に合わないし、それに化粧落ちちゃうでしょ?だから、帰ってから入るよ。」
悟「マキちゃんならすっぴんでもかわいいでしょ?」
マキちゃん「悟は現実知らないな?そんなんだから独身なんだよ。女は化粧を落とすと女じゃなくなるんだよ?」
マジで?そんなに変わるの?こんなにかわいいマキちゃんでも?
悟「そうなの?マキちゃんでも?」
マキちゃん「マキちゃんはどうでしょうね?変わるかな?変わらないかな?さあ、どっち?」
聞いたの俺だよー!というか、本当にどっち?できれば、変わらないでほしいんですけどー!
マキちゃん「まあ、それは永遠の謎として残すことにしておきましょう!」
結局、教えてくれないのかい!とツッコミを入れたくなるが、真実を知るのも怖いので我慢しよう。
悟「分かった。じゃあ、人生ゲームやろうか?」
マキちゃん「あっ、でも、もう9時半だね。悟、お風呂の時間過ぎているよ?悟は明日も仕事でしょ?お風呂入ってきたら?」
悟「えっ?なんで俺の風呂の時間知ってんの?」
マキちゃん「うん。だって、私がお風呂に入っている時、隣から歌声が聞こえるもん。私が帰ったらすぐに入っているでしょ?私もすぐ入るから。換気口通じてなのかな?悟の歌が毎日、聞こえてくるんだよ?」
恥ずかしい…。あれ全部聞こえていたの?早く言ってよ!
悟「恥ずかしい…。」
マキちゃん「なんで?いい歌声だよ?悟の歌声、甘いよね。いつも湯船につかって聞き惚れているよ。」
悟「マジで?」
マキちゃん「マジ!」
悟「お風呂沸かしてきます!」
マキちゃん「行ってらっしゃ~い!」
俺は風呂を沸かしながら、色々思い出した。確か、歌いながらマキちゃん愛していると歌ったことがあったはずだ。独り言も色々と言っていたが、あれも聞かれていたのか?
蛇口から流れ出るお湯を眺めながら考えていたら、いつの間にか風呂が沸いていた。
悟「マキちゃん、風呂入るわ!」
マキちゃん「あいよー!」
「あいよー!」という返事は久しぶりに聞いた。今時使う人がいるとは。このタイミングで「あいよー!」と言われると「愛よ!」にしか聞こえない。わざとか?わざとなのか?俺の考えすぎか?
正直、風呂に浸かっても癒されない。色々意識して落ち着かない。
しばらくして、浴室ドアの向こうから話し声が聞こえるのに気付いた。マキちゃんが誰かと話しているみたいだ。友達だろうか?聞き耳を立ててみたがよく聞こえない。よし、風呂から上がろう!別に盗み聞きをするためじゃないぞ。人生ゲームが早くやりたいだけさ。
俺が風呂から上がると、マキちゃんはまだ電話中だった。
マキちゃん「ええ、そうなんですよ。もう、本当に困ったもんで。でも、いいのですか?お邪魔じゃないですか?ではお言葉に甘えさせてもらいます。はい。はい。おやすみなさい。」
どうやら電話が終わったみたいだ。
悟「誰と話していたの?」
マキちゃん「内緒!」
マキちゃんはさっき「お邪魔じゃないのですか?」と言っていた。誰かの家へ行くのだろうか?気になる。
マキちゃん「さて、人生をエンジョイしましょうか!」
悟「おう!」
人生ゲームは思いのほか、楽しかった。でも、さっきの電話が気になる。
マキちゃん「悟、年末、実家に帰るんでしょ?」
悟「ああ、そうだね。どうしようかな?」
マキちゃん「帰りなよ。お盆も帰らなかったんでしょ?」
悟「うん。あれ?なんで知っているの?」
マキちゃん「な・い・しょ!でも、絶対、年末は帰った方がいいよ。マキちゃんの勘が、年末に実家に帰るといいことあると言ってるよ!」
悟「そうなの?分かった。年末、実家帰るわ。でも、マキちゃん一人になるよ?マキちゃんも実家に帰るの?」
マキちゃん「私?私も実家に帰るよ。新しい実家に!」
悟「新しい実家?リフォームしたの?」
マキちゃん「んんにゃ、リフォームはしていないよ。」
悟「どういうこと?」
マキちゃん「さて、マキちゃんは帰るとするかな。まあ、とにかく、これあげるから、実家に持っていって楽しんで。では、ごきげんよう~!」
よく分からんが、マキちゃんから人生ゲームをもらった。年末に家族みんなで人生ゲームもいいかもね。ちょっと楽しみだ。