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ことばウラ・オモテ

スミにおけない話

日本人の生活から「炭」が遠くなったと言われます。

こたつや火鉢、あんかなどが姿を消したり、電気に取って代わられて、炭を使う生活が少なくなったからです。

昔の生活では、給料に「薪炭料」という手当があったり、大きな家では「炭小屋」があったり、身近なところに「炭」がありました。

大昔では、奈良の大仏造営時に大量の炭が使われたという記録もあります(『東大寺要録』)。このときは、奈良近辺から近畿一帯に材料となる木材の調達が行われたそうです。その後も、さまざまな場面で炭が出てきます。

いったんは消えかけた「炭」文化ですが、最近は、焼き鳥、焼き肉などで「備長炭(びんちょうたん)」や「紀州炭」を使うことでお客を呼ぼうという店も現れました。

家庭では、においの吸着や、水のろ過に炭が使われることも増えてきました。家庭では燃料から化学物質へと用途が変わったようです。

「炭」は「たん」「すみ(ずみ)」両方の読み方があります。 いまや「備長炭」は「びんちょうたん」があたりまえですが、辞書によると、「ウバメガシを材料としてつくる良質の白炭。火力が強く、ウナギの蒲焼き用などに用いられる。元禄年間(1688~1704)紀州田辺の備後屋長右衛門が創製。びんちょうたん。びんちょう」と記載され、「びんちょうずみ」が有力ですが「たん」も認めていることになりそうです。

最近、風雅な向きに好まれているのが、竹を材料とした「竹炭」です。

これは、売っているところをのぞいたところ「ちくたん」「たけずみ」両方のふりがながありました。生産組合は「ちくたんせいさんくみあい」と言っていることも分かりました。

では、「炭」が最後に来る語のうち、どういう語が「たん」で「すみ(ずみ)」はどういうものか、調べました。

炭の種類としては、「たん」は石炭関係が多く、亜炭、瀝青(れきせい)炭、活性炭、泥炭、獣炭、石炭、黒炭、白炭、木炭、粘結炭、骨炭、豆炭、粉炭、無煙炭、練炭などがあります。

一方「すみ」と読むものは、毬杖炭(ぎっちょうずみ)、備長炭、浅木炭、櫟炭(くぬぎ)、桐の木炭、菊炭、枝炭、駱駝炭(らくだ)、松炭、粉炭、桜炭、白炭、黒炭などがあります。

これらをみると、「たん」の方は、「石炭」由来のもの、状態を表すものが多く、原材料や、由来、用途を表す場合は「すみ(ずみ)」が多いことが分かります。

「備長炭」は由来を示すわけですから、辞書の通り「ずみ」に軍配をあげた方が良さそうです。「竹炭」も原材料ですから、「桜炭、桐の木炭、松炭」と同等で良さそうです。

しかし、石炭も生活から遠のいた今、これらの区別がゆるんでいるのではないかと考えたくなりました。

(メディア研究部・放送用語 柴田 実)