世間を震撼させた二つの事件
今年6月に出版された、一冊の本が世間を震撼させた。”元少年A”の『絶歌』である。その内容についてはもちろんのこと、「なぜ”元少年A”なのか。実名で出版すべきだ」という議論が起こった。
遡って今年2月。川崎市で中学校一年生の男子生徒が、18歳の少年らに惨殺される事件が発生。「これほどの凶悪事件で、なぜ加害者の素性が隠されるのか」という声が上がった。
少年法の見直しが叫ばれるなか、『「少年A」被害者遺族の慟哭』(小学館新書)を著したノンフィクションライターの藤井誠二氏が、「少年犯罪と実名報道」の問題に斬り込む。
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「少年A」の由来
私が『「少年A」被害者遺族の慟哭』を緊急に書き下ろしたのは、統計やデータにはあらわれない加害少年らの「謝罪」や「賠償」の現実がどうなっているのかを社会へ伝えたいと思ったからだ。
少年「凶悪」犯罪はたしかに減少傾向にあるが、神戸連続児童殺傷事件の加害者が手記を出版したとき(2015年6月)、遺族が「裏切られた」、「二度、殺されたようなものだ」と悲憤を表明したことが、数字にはあらわれない現実を記録すべきだと私の背中を押した。
被害者遺族─加害者家族・加害者という二者間で、ひっそりと続けられてきた「謝罪」。それをいきなり、何の予告もなしに加害者が反故にしたのはどうしてなのだろう。他のケースはどうなのだろう。
私は長年おつきあいのあった少年事件の被害者遺族の方々に、それぞれの加害者の「事件後」を聞いてまわった。どのようにして「償って」いるのか、あるいは逃げ得状態になっているのか、はたして遺族の言葉は加害少年やその親(保護者)たちに届いているのかどうか。そういったことを最終的に七家族から聞き取り、編んだ。
その唖然とするしかない現実については、ぜひ本書を繙いていただき、知っていただきたい。少年法を含む日本の少年保護行政のシステムを、犯罪・非行少年を立ち直らせると信じている人々はこの現実をどうとらえるのか、ぜひ意見をお聞きしてみたいものだ。
同時に本書では、これまで4度の改正を施された少年法の「今」も記録したかった。被害者遺族にとってどのような改正だったのか、遺族が望んだような変化はおとずれたのかどうか。そしてさらなる改正は必要なのか──。
その中の大きな柱は少年法61条に規定された、いわゆる「本人が推知される報道の禁止について」である。
少年法第61条は、〔家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であること推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない〕という、表現の自由に配慮した、罰則なしの規定である。この規定が「少年A」の由来である。
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