事業総額1兆8000億円のインド高速鉄道を筆頭に、ここに来て日本製車両の海外輸出が続々と決まっている。ではその逆のルート、つまり、海外製の鉄道車両が日本に輸入されるケースはどうなっているのだろうか。
【写真】日本でも走っている外国製の鉄道技術
日本国内の鉄道車両は現在、川崎重工業や日立製作所といった国内メーカーの独壇場となっている。信号などのインフラ部分も、日本勢ががっちり押さえ込んでいる。
とはいえ、海外メーカーの日本進出がまったくないわけではない。世界の鉄道市場を席巻するドイツのシーメンス、カナダのボンバルディア、フランスのアルストムから成る“ビッグスリー”は、日本市場でもそれなりに活躍している。
■ 広島の路面電車は海外製
広島電鉄はシーメンス製の路面電車を導入しているし、富山ライトレールや熊本市営交通の車両はボンバルディアの技術がベースとなっている。線路工事用車両では、オーストリアのプラッサー&トイラー製の車両がJR各社や私鉄の間で広く活躍している。
部品では、モーター音が「ドレミファ」という音階に聞こえる京浜急行2100形のインバーターがシーメンス製だ。米国のエンジン大手・カミンズのディーゼルエンジンもJR東海などに販売されている。最近では、JR東日本の新幹線E5系、E6系、E7系に独クノール・ブレムゼ社のブレーキが使われている。
ただ、目立った事例はこの程度にとどまる。12月9日までボンバルディア鉄道部門のトップを務めていたルッツ・バートリング氏は、日本市場への販売展開について「難しい」と断言する。どうやら海外から見ると、不可解な販売障壁が日本にはあるらしい。複数の鉄道会社やメーカーに取材した結果、その答えが見えてきた。
「車両に不具合が生じた場合、日本のメーカーは、すぐに担当者が飛んできて調べてくれる。だが海外メーカーだと、まず不具合の原因がそのメーカーにあることを証明しなくてはいけない。また、修理や部品交換も日本のメーカーより時間がかかる」(ある鉄道会社)
日本メーカーであれば、もし当該部品に不具合がある場合、当該部品だけでなく、同じ部品が使われているほかの車両を調べたり、再発防止策を講じるといった対策を取る。
だが海外メーカーだと、原因となった部品を新品に交換しておしまい、というケースも少なくないようだ。そのため、一度は海外メーカーから調達しても、更新時期になるとまた国内メーカーの調達に戻してしまう例が少なくない。
■ 海外メーカーを阻む壁
むろん、海外メーカーにも言い分はある。11月11~13日に幕張メッセで開催された鉄道技術展のために来日したドイツ鉄道産業連合のアンドレアス・ベッカー副会長に、こんな質問をしてみた。
「技術は優れていてもアフターサービスが万全とはいえないのではないか」。これに対する彼の答えは「問題が生じた場合に鉄道会社とメーカーが何をするかルールを決めて、契約書にきちんと明記しておくべき」というものだった。
つまり、日本では鉄道会社とメーカーの関係が曖昧であり、欧米のようにきちんと明確化すべき、というのがベッカー氏の主張だ。
海外メーカーの進出を阻む要因は、慣習だけなく、制度的なものもある。その代表例が世界貿易機関(WTO)の政府調達協定だ。この協定では、政府機関による一定額以上の調達について、外国の業者を国内の業者と同等に扱うよう求めている。ただし、鉄道分野に関しては「運行上の安全にかかわる調達は適用外」という例外規定がある。
従来、JR各社と東京メトロは「政府機関」とされ、上記の規定が適用されていた。JR東日本、JR東海、JR西日本の上場3社は、すでに完全民営化されていることを理由に、調達に制限がかからないよう、政府機関リストからの除外を要望。これに対し、欧州連合(EU)は「JRは国際入札を拒んでいる」と主張し、除外に反対してきた。
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