最近、増えている親が応援するAV女優。「カラダを売る仕事」をめぐる社会の価値観、親子の関係はどのように変化しているのか? 今回は、父親は賛成しているものの、母親からは反対され続けているというアイドルAV女優。母の気持ちを理解しつつも、「AVは天職」だと話す彼女だが――。
<今回の女優>
さとう心愛(さとう ここあ=仮名)
27歳 群馬県出身
父、母、兄2人の5人家族
身長 155センチ スリーサイズ:B85 (E) W58 H84
AV女優歴3年目の人気単体女優
アイドルAV女優にとって親公認は当たり前
「私、自分の周りを見ると親がこの仕事知ってる女優さんばっかりだし、逆に親に言ってない子ってどうやってるのかなって思いながらこのコラム、読んでいますよ。あ、ミカン食べます? ファンが一箱送ってくれたんです、なかなか甘いですよ〜」
サバサバした様子でさとう心愛は語る。12月とはいえまだ暖かな日差しが心地よい昼下がり、ミカンを剥きながら私は心愛と向かい合ってその話を聞いていた。今回、取材を快く引き受けてくれた心愛は、女優歴3年、正統派アイドル顏の売れっ子女優だ。月1回の撮影はもちろんのこと、ライブや地上波のバラエティ番組にも登場し、土日はほぼ毎週、サイン会で全国各地を行脚する。数ヶ月に1回は海外のイベントにも呼ばれ、この冬には台湾にも行くという。
そんなアイドル女優の彼女の周りには同じようなアイドル女優が集まる。彼女たちにとっては「親がこの仕事を知っている」というのは当たり前のことのようだ。前回取材した新人企画女優とはまた違った仕事環境である。親に打ち明けた、親にバレた、というのはひょっとしたら「AV女優」から「セクシータレント」と呼ばれるための通過儀礼なのかもしれない。
ただ心愛の場合、両親で意見が分かれている。
「父親は認めてくれているけど、母親は未だにダメなんです。これで親公認って言えるかわからないけど、両方の立場からのお話ができると思います」
こちらの取材意図を汲んだ心愛の冷静な言葉よって手際よく取材が開始された。
「私、デビュー前にお兄ちゃんと両親に自分から話したんですよ。ネットで情報解禁される前に言っておこうと思って。3つ上と5つ上のお兄ちゃんとはすごい仲がいいので、二人とも最初はビックリしてたけど『え、どこのメーカーからデビューするの?』『あ、そのメーカーなら昔、DVD借りたことあるわ』なんて笑いながら話していました。話の流れでデビュー作の写メを見せたら『え?何これ? お前って言われなかったら俺、絶対に買ってるんだけど!』とか。兄たちとはもともと下ネタも話す感じだし、反対することはなかったですね。ただ一番上の兄から『とりあえずお母さんには早めに言ったほうがいいよ』とアドバイスがあったので母親に電話したんですよ。兄と私は『お母さんも結構サバけているから大丈夫でしょ』って楽観視してましたね」
淀みなく心愛は話す。確か以前、取材したときは確か中年男性ウケのよいお色気エピソードだった。親との話もそれとまったく同じテンションだ。そんなことを思いながら私はミカンをまた一房、口に入れた。
母は激怒り。父はアッサリ賛成
「とはいえ私も結構緊張して電話したんです。『すみません、お話があるんですけど…本当に申し訳ありません、AV出ます』って言いました。そしたら超無言で。しばらく経ったらたった一言『娘はいなかったことにさせてください』とだけ言われて、電話を切られました。お母さん、激おこなわけですよ。超ブルーでどうしようと思ってソッコーお兄ちゃんに電話しました。そしたらお兄ちゃんは『最初はダメでも根気強く説明してみな』って。で、すぐに『私はとにかく有名になりたい、迷惑かけないようにするし、いつか自慢できるような女優になるから認めてください』っていう内容の長文メールを打ったんです。でもお母さんは『ちゃんと考えなさい』の一点張りで認めてくれることはなかったんです。でもまあ一旦言ったし、ちょっと時間をおいてみようと思って今度はお父さんに電話しました」
今年66歳になる父親の反応は2つ年下の母親とは真逆のものだった。
「父親は『マジか〜!見るわ!』って(笑)。相当サクッと、でした。昔から父は何をやるに対しても頑張れって言ってくれる人で。お金稼げるんだったら別にいいよって。すごい両親でも差が激しいですよね〜あはは」
ちなみに母親はまだ「激おこ」なのだと心愛は語る。AVデビューをしてから母親とは顔を合わせていない。先日、パスポート更新のための必要書類を実家から取り寄せた際には「1日でも早くやめろ」という内容の手紙が同封されていたという。
心愛のAV女優歴は3年であるが、芸歴自体は意外と長く、始まりは6年前に遡る。AVデビュー前、21歳のころからアイドルユニットに所属し、定期的なライブ活動やグラビア撮影をしていたのだ。正直、アイドルには疎い筆者はそのグループ名は知らなかったものの、いわゆる「元芸能人AV女優」と言われるカテゴリーに彼女は属している。
「今の事務所に入るまではアキバのメイドカフェで働いていました。その頃、着エロをやりたい、といったら知り合いが事務所の社長を紹介してくれて。でも(事務所に)入ったらすぐにアイドルのオーディションに応募されて、なぜか受かっちゃってアイドルやることになったんですよね。『アイドルになりたくて事務所に入ったら着エロをしぶしぶやらされた』なんて話がベタだけど、私の場合、真逆ですね(笑)」
メイドカフェからアイドルユニットへ。でも本当は“エロ”をやりたかった
心愛がメイドカフェで働き始めたのは19歳のときだ。
「18歳のときに都内に出てきたばかりのときはアパレルのバイトをしてました。服が好きだし、働いてたら安く買えるしいいか、って感じで。でもしばらくして店長を任されそうになって辞めましたね。もともと時給850円って激安だったし、社員になったらそうそう簡単に辞められないぞって。で、そのタイミングでアパレルを辞めて、メイドカフェで働き始めたんです。メイドって時給にプラスして写真のバック(注)があるから稼げるんですよ。基本、お客さんと話してるだけだからぶっちゃけ楽でしたね、元々アニメ好きだったし、オタクな人もむしろ好きなんでさほど苦じゃなかった。1日5時間、週6日出勤で20万は余裕だったかな」
注:写真のバック…多くのメイド喫茶ではメイド単独、または客がメイドとのツーショットのチェキを記念撮影できる。メイドには、その売り上げに応じたキャッシュバックが行われる。
当時、彼女の同僚にはバイト感覚で働いている子とアイドル予備軍が混在していた。アイドルを夢見る女子にとって聖地アキバのメイド喫茶は単なるバイト先以上の場所だ。
「メイドカフェを辞めて芸能のほうに行く子も多かったし、そういう子がアイドルやっていて『楽しそうじゃん』って見てました。でも私はもっと露出の多い着エロをやりたかったんです。実家にいたときからエロが好きだったから。抵抗? まったくなかったですよ」
着エロ志願兵だったものの、なかば周囲に押されるようにメイドからアイドルユニットの一員になった心愛。傍から見ればどこまでも眩しいエリートコースを邁進していた彼女だが、常に周囲への違和感を感じていた、と語る。
「アイドルやっているとき、周りの子がいつも『お金がない』って愚痴りながら生活してるのを見て『私はこういう風になりたくないな』って思ってました。だってヤバいですよ。だいたいライブ1公演5000円、20回やって月10万もらえたらいいほう。やりくりできないから実家から通っている子が多いし、そうじゃない子は夜、隠れてキャバクラやったり、パパを作って援助してもらってなんとか生活してた」
アイドルは恋愛禁止でも、生活のために愛人になるのはやむを得ないということか。
「そういう子たちを見ていたら『自分には、もうちょっと他にできることがあるんじゃないかな』って思うようになって、次第に『アイドルやってる暇はない!』ってなった。ただ両親は当時、ブログやツイッターを見たり、なにかと応援してくれましたね。お兄ちゃんなんて自分の結婚式の挨拶で『妹は東京でアイドルやってます!』って親戚の前で言っちゃうくらい(笑)。AVはアイドル活動をしているときに、自分からやりたいって事務所に言いました。周囲に説得されたわけじゃない。もうその頃は着エロじゃなくてAVをやりたい一心だったので、ギャラの話も一切、細かいことは気にしてないかったですね」
アイドルがAVデビュー。そんな話を聞くと若い女の子が札束を前に大人に説得される、そんな図が頭に浮かぶが心愛の場合は違ったようだ。
「私、高校生のときから性欲が異様に強くて。尋常じゃないんです。相手は彼氏ヒトリで恋愛は一途なんだけど、一回じゃ足りなくて何回も求めるとか。で、それでも物足りなくて家帰ってから一人でするぐらい。当時から自分でも普通じゃないなって思っていたんです。だからといって誰とでもヤリたいとは思わないタイプなのでますます性欲の行き場がなくなって、AVやおもちゃが増えていったんですよね。兄がいたから隠し持っていたエロ動画を見ながら、ありえない格好で自分でやるとか、飼っていた猫にアソコを舐めさせるとか(笑)。『ホントにバカだな〜』って自分で突っ込みながらも、性的に試していないことがない人生を送りたいって思ってた。それは今でもそれは変わりませんね。テレクラキャノンボールじゃないけど『ヤルかヤラナイかの人生なら、俺はヤル人生を選ぶ』みたいな、あはは。ぶっちゃけAVを選んだ理由もセックスをしたいから。しみけんさん、森林さん、黒田さん…有名男優さんともセックスしたかった。でもそう言ったら引かれるかもしれないから、一応周りには『有名になりたい』ってわかりやすい理由を言っておく、って感じです」
性欲の強さを持て余しつつも、持ち前の明るさで友達も多く、彼氏もいた「リア充」な高校生時代を過ごしていた彼女だが、ある日を境にその生活が変化していった。
父は自分が働けないからAVを反対できない
「私が17歳のときにいきなりお父さんが倒れたんです。脳の血管が切れちゃって。幸いすぐに手術してなんとか一命は取り留めたけど、半身麻痺になってしまって。うち、自営で工場をしていたんですけどそれでお父さん、仕事ができなくなっちゃった」
群馬県にある心愛の実家は祖父の代から町工場を営んでいた。それなりの数の従業員もかかえ、売り上げもよく、子どもの頃から裕福な暮らしをしていた。しかし父親が倒れ、まだ学生だった兄たちが家業を継ぐことはなく、工場は閉鎖した。
「お父さんが倒れてから、お母さんがパートを始めて激やせしちゃったんですよ。それまで専業主婦だったのに慣れない仕事したからなんですかね、ガリガリになっちゃってノイローゼ状態でした。それを見ていたらかわいそうになっちゃて『まだ私は若いし自分で働こう』と思った。それで大学進学は、やめましたね」
思うように体が動かない父、慣れないパートに明け暮れる母。心愛が物心ついたころから夫婦仲が冷めきっていた二人であるが、父の病をきっかけに家の中の空気は殺伐としていった。
「お父さんは体が動かなくてイライラして常にお母さんに当たってました。お母さんもお母さんで、お父さんが杖をついて歩く音が気に触るとかなんとか言ってイライラして…もう家の中、ホントやばかったですね〜。負のオーラが漂っていて『ここにいたらちょっとやばいな』って感じた。私は当時、付き合っていた彼氏が埼玉に住んでいたから、そこに入り浸って半同棲状態、ほとんど家に帰ってませんでした」
高校卒業後、半ば逃げるように心愛は実家から出た。それから27歳になる今まで親に一切頼ることなくアパレル、メイド、アイドル、そしてAV稼業で自ら生計を立て、経済的自立をしてきた。彼女のたくましさに私は「私より若いのにシッカリしてるのはそういうことがあったからなんだね〜」とため息まじりで呟いた。すでにもらったミカンは皮だけになっていった。
すると即座に「シッカリしないと生きてけなかったんですよね」という言葉が返ってきた。
「お父さんが反対しないで認めてくれてるのは、自分が働けない分、私に強く言えない部分はあると思う。負い目…みたいな。この仕事は、それなりのお金がもらえるってわかっているだろうし。私が新聞に出たり雑誌の表紙になったりすると電話で『見たよ!』『俺の娘にしちゃあイイ体、してんじゃねえか〜』な〜んて冗談も言ってきたりしますね」
しかし、母親はそうはいかない。
「お父さんがお母さんを説得することはないんですね。昔から2人は意見が全く違っていたし、だから家族はうまくいっていたんでしょうけど。その都度、私たち子どもはそのどっちかに逃げられるから。お母さんは『親戚の◯◯さんち、また子どもできたんだって〜どんだけセックスしてるのかしら〜』とか私やお兄ちゃんと下ネタ混じりの冗談は言うけど、実はすっごい真面目で頑固な人なんです。だから最初に電話したときにダメって言われた時点で、もう何を言ってもダメだって感じたんですよ。まだ先の話ですけど、今後AVを引退したら、今の経験を活かして自分でなにかビジネスを始めたいな、という思いもあるんですけど、そうなったときに初めて『この仕事していたのも無駄じゃなかった』って納得してくれるかなって思うんです。だから今、現役でAVやってる状態では、なにを言っても無理だし、頑張れば頑張るほどお母さんは嫌な気持ちになるでしょうね」
一息ついて目の前の紅茶を口にした心愛は「ただ…」と少し低い声で続ける。
「娘がそういうことをしてたら、やっぱり嫌だろうなというのは私も分かるんです。私はAV女優の仕事って『偏見があるからこそ』のメリットがあると思う。『偏見を持たないでください』という女優さんの意見はよく聞くし、言いたい気持ちもわかるけど、世間の人が偏見は持つのは当たり前というか仕方ないところもある。偏見があるからこそ他の仕事、それこそアイドルよりも高いお給料をもらってる。私が言うのもなんですけど、セックスというのは誰とでもしていいものではないと思うので。だってどう考えても普通、好きな人としたほうがいいじゃないですか、セックスなんて(笑)。私も結婚願望があるので、娘がもしお金のためにAVやるんだったら止めると思いますね。自分みたいに『セックスしたい』って言われたら、まあ話は別ですけど(笑)」
元カレがAV男優に。母親の気持ちが理解できた
「セックスがしたかった」と言う心愛だが、ここ最近、ある出来事をきっかけにより母親の気持ちがわかるようになった、と言う。
「元彼がいつの間にかAV男優になってんですよ。たまたまサンプル動画を見ていたら、そいつが出ていて。しかも私がよく知ってる女優さんと絡んでいたから『うわっ!』ってなりましたね。超ブルーですよ〜。昔から知ってる人がセックスしているのを見るのっていい気分じゃないんですよね。複雑…いや、それを通り越して怒りすら覚える。『一体、この人はなにをしてるの?』って。本人がカラダ張って頑張っているのはわかるんですけど、ひっぱたきたくなる、みたいな。お母さんは、ひょっとしたらこういう気持ちなのかなってすっごい考えましたね」
自分の仕事に反対する母親の気持ちを理解しつつも心愛は「AVは天職だと思います」とハッキリした口調で語る。その表情には一点の曇りもない。
「今が一番人生で楽しいって言えます、物心ついてからこんなに夢中になることはなかったから。AVはお金のためじゃない、そして私が今、この仕事、この生活をめいっぱい楽しんでいるっていうのがお母さんもわかってはいると思うんですよね」
そう言ったあと、ふと素に戻って心愛が呟いた。
「でもみんな親ってどうしてるんですかね。世間に作品が出たあとでバレちゃったら…」白いモヘアニットの毛先がエアコンの風でフワフワと揺れている。
「私が言うのもなんですけど、世間がちょっとゆるくなりすぎているようにも感じるんです。『親だからわかってくれる!』というより、やっぱり娘のそういう姿は『親だから嫌』だと思うんですよね。私は自分の選択に悔いはない。けど、やっぱりそこまで私、ポジティブになれないですよ」
世間がちょっとゆるくなりすぎている。その言葉にハッとした。この連載を始めるにあたって私が疑問に思っていたことをまさに当事者である心愛がハッキリと代弁してくれた。同時にその言葉を聞いてから、恵比寿マスカッツの「親不孝ベイベー」という曲のワンフレーズが頭を離れなくなった。
心愛が実家に帰る日は、いつだろう。
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