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「脇が締まる」スイングと「脇を締める」スイングの違い
先日、雑誌「野球小僧」編集部の安藤さんとライターの大利さんのお二人に「武術を応用したバッティング」についての取材をしていただきました。全国を飛び回って野球関係者を取材されているとのことで、たいへん楽しいということでした。取材の内容は、体の構造を勘違いしてスイングしている人が多いのですが、その問題について実演を交えてお話させていただきました。8月10に発売予定の「中学野球小僧」に掲載されるそうで間違いの修正方法やそのための練習方法などもご紹介していますので是非ご覧になってください。
取材も終わり編集部の安藤さんが「スイングを見てください」とおっしゃるので見せていただきました。安藤さんは中学、高校と野球を続けて、今は草野球で活躍されているということでした。右投げ左打ちの安藤さんは打率が今ひとつで、どこが問題なのか見て欲しいということでした。私は彼のスイングを観た瞬間、「手打ちだな。スイングがドアスイングだ。首に力が入ってスイングが窮屈だな。下半身が全然使えていないな。右投げ左打ち打者のスイングでキャッチャー寄りの腕が全然使えていないな」と心の中で思いました。
私は開口一番「ドアスイングだね」といいました。安藤さんは「自分はドアスイングだといわれたことはありません」とのことでした。一見してドアスイングには見えませんが安藤さんの体の中の構造から見ると明らかにドアスイングでした。確かめるために左腕だけでトスバッティングをしてもらいました。思ったとおり、ボールが正面に飛びません。外からあおるように(ドアスイング)打球は脇にそれてしまいました。(写真1)
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右投げ左打ちの選手の特徴でキャッチャー寄りの腕(左腕)の背中側の筋肉が動いていません。(使えていない)ですから右投げ左打ちの選手は内角低目が弱点の選手が大変多いのです。(写真2)
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背中側の筋肉(肩甲骨の可動)が使えないとバットのヘッドは遅れてこないで、あおるようなドアスイングの軌道になってしまいます。それを修正しようと無理やりに脇を締めるようにすればスイングが窮屈になりスピードが落ちます。(写真3)
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脇の筋肉、前鋸筋を働かせないでスイングしている事になり、肩甲骨の動きを抑制しスイングそのものの動きにブレーキをかけることになるのです。(図1)
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方から手までだけの筋肉でスイングをしているのです。いわゆる手打ちです。このような場合の修正方法としてキャッチャー寄りの腕でのネットスロー(サイドスロー)をすすめています。(写真4)
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正確なサイドスローは背中側の筋肉を使いきった脇が自然に締まる、ヘッドが遅れてくるスイングの軌道そのものなのです。いつもお世話になっている日本大学野球部鈴木博識監督は現役当時、アンダースローの名投手でした。鈴木監督は「アンダースローもサイドスローも上から投げる」といいます。アンダースローもサイドスローもオーバースローと同じだということです。(オーバースローの応用である)私は監督と話すときによく「ベイスターズの小さなホームランバッター村田選手(日大出身)のキャッチャー寄りの腕の動きは鈴木監督がアンダースローの投手だったからみについたんですよね。」といいます。監督はよくキャッチャー寄りの腕のスイングの入り方をアンダースローのようなゼスチャーで説明しています。実は最近よく聞くキャッチャー寄りの腕の「押し込み」は「アンダースローもサイドスローも上から投げる」の中にあるのです。
ではキャッチャー寄りの腕の脇の締まりや腕の押し込み、ボールの内側を打つ、ヘッドを遅らせるなどの動きについて説明しようと思います。まず投げるにしても打つにしても腕のどの部位から動きを始めるかということがポイントになります。一般の選手は肩関節から動こうとします。一流選手は肩甲骨(背中側の筋肉)から動こうとします。肩甲骨から動くと腕は外旋しながら動き、肩関節から動くとこの動きは起こりません。(写真5)
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この腕の外旋が起こらないと「アンダースローもサイドスローも上から投げる」ということは実行できないし理解もできません。(写真6)
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バッティングの場合はサイドスローの腕が外旋する動きを使います。サイドスローの腕が外旋するような動きでスイングした場合は腕が体に近づく(脇が締まる)動きをしてからインパクトに向けて肘が伸びる運動に変わります。(写真7)
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肩関節をスイング始動の基点として行った場合、まず力の入った肩関節の筋肉はその場所でこていされていて肘を伸ばすための上腕三頭筋が働きます。(図2)
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そうしますと腕は体から遠ざかる方向に働きます。(写真8)
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そしてこの動きを修正しようと胴体を無理矢理速く回転させてスイングをしようとします。このスイングが形だけの脇の締まったスイングとなります。わたしは、このスイングをかくれドアスイングと呼んでいます。こういうふうに腕を使っていると片腕でのトスバッティングがまったくできないのです。ボールを「運ぶ」「押し込む」といった感覚はまったくわからなくなります。まずはバットの重さを感じることが大切です。重さを感じるという事はリラックスするということです。体が緊張して筋肉に力が入っていたら重さを感じるという事はできません。腕の各関節で重さを感じるイメージで行ってください。肩甲骨、胸鎖関節、肩鎖関節、肩関節、肘関節、手首関節、手の関節すべてで感じるのです。(写真9)
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そして肩甲骨の回旋運動と首の付根(胸鎖関節ライン)を連動させて片腕スイングをします。(写真10)
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この時に気をつけることは肩甲骨の回旋だけできても胸鎖関節ラインが動かないと方がさがってしまうのです。(写真11)
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この動きをサイドスローのネットスローで身につけてください。また肩甲骨周辺がコリ固まっている場合が多くあります。このサイドスローのネットスローと肩甲骨周辺のストレッチを並行して行うことをおすすめします。ある程度ネットスローができるようになったら片腕のティーバッティング、また戻ってネットスロー、そしてストレッチと何度も繰り返して練習してください。この動きが本当にできるようになると片腕のトスバッティングで柔らかくバットにボールをのせるような打球が打てるようになります。こうなったらプロ野球のバッターが言う、押し込むように打つ感覚がわかってくるのです。この時、脇は自然に締まる状態になりバットは最短距離でインパクトに向かう軌道になるのです。
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