今日新たに知ったことですが、どうもネトウヨ界隈では、「サンフランシスコ講和会議でセイロン(スリランカ)代表が日本を分割統治から救ってくれた」という話が信じられているらしいです。

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ShounanTK‏@shounantのツイート

検索してみたら、「日本を分割占領案から守ってくれたセイロン(現スリランカ)代表の名演説」という動画がいくつも見つかり、これが拡散されているようです。

日本の分割統治案があったことは有名な話ですが、セイロン代表の演説がその危機から日本を救ってくれたとは、初耳でした。へー、サンフランシスコ講和会議のセイロン代表の演説で…。サンフラン……。

サンフランシスコ講和会議!!??

1951年じゃねーか!!!!

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サンフランシスコ講和会議は、約6年に及ぶGHQ(実質は米軍)による占領が終了し、日本が主権を回復した時のものです。つまり、これは占領統治終結の際の会議です。なんで1951年の占領統治終結の会議での演説が、1945年の分割統治を食い止めることができるんだよ!! 時空がねじ曲がってるよ!

言うまでもなく、分割統治案が実行されなかったからこそ、日本本土は米軍による単独統治になったわけです。『オールカラーでわかりやすい!太平洋戦争』(西東社)という本によれば、この分割統治案は、「終戦直後の8月16日から1か月ほどしか検討俎上に上がらず、立ち消えにな」ったらしいです。1951年のサンフランシスコ講和会議が関係あるわけがないですね。

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(↑『オールカラーでわかりやすい!太平洋戦争』(西東社、2015年、244頁

このスリランカ代表のサンフランシスコ講和会議での演説はこちらで読めますが、「分割統治に反対」なんて内容は、当たり前ですが全く出てきません。唯一出てくるのが、沖縄、小笠原、南樺太、千島列島の話です。ここの占領の話を伝言ゲームか何かで勘違いしたんじゃないですかね?

サンフランシスコ講和会議がどういう会議か知っていれば、まさか「サンフランシスコ講和会議でのセイロン代表の演説のおかげで、分割統治案が廃案になった」なんて話を信じるわけがないんですが、こんな話を信じている人は、サンフランシスコ講和会議が何かを知らないんでしょうね。

このShounanTKという人、「学校やマスコミが教えない情報を拡散」などとプロフィールに書いていますが、学校やマスコミが教えない情報を拡散する前に、学校やマスコミが教えてくれる情報ぐらい頭に入れてほしいものです。「ネットde真実」もいい加減にしてほしいですね。

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↑まず教科書の内容を知りましょう。

これがこのようなネットの不勉強な人だけが信じるならまだしも、政治家でも信じるこまったちゃんがいます。元衆議院議員の川条しか氏など、この内容を自分のブログで取り上げ、さらに「大東亜戦争があと2年長ければ、アフリカの独立はもっと早かった」などと全く意味不明などうしようもない発言をしています。もちろん自民党です。

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↑素晴らしく不勉強なうえ妄想をぶちまける自民党もと衆議院議員。これで東大卒? 嘘だろ?

愛国カルト(ネトウヨ)さんたちは、この演説を自分に都合がいいようにデタラメな解釈をします。例えば、youtubeで動画を挙げているKSM WORLDという愛国カルトさんの動画では、この演説をこんな風に解説しています。(愛国カルトさんの宣伝をしたくないのでリンクは貼りません)

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>>この演説の内容が重要なのは、
>>分割統治をただやめろと言っているのではありません。


そもそも分割統治やめろなんて言ってないから!!

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>>ジャヤワルダナ氏は明確に日本がアジアのリーダーとして立ち
>>東南アジア諸国が独立するための力となった。
>>つまり、大東亜共栄圏構想は間違いではなかったという事を
>>伝えているのです。


大嘘です!

氏の演説のどこをどう読んでも、「大東亜共栄圏構想は間違いでなかった」などと言っていません。

どうもこれは、ジャヤワルダナ氏の演説の、以下の部分だけを意図的に誤読しているように思われます。

 何故アジアの諸国民は、日本は自由であるべきだと切望するのでしょうか。 それは我々の日本との永年に亘るかかわり合いの故であり、又アジア諸国民が日本に対して持っていた高い尊敬の故であり、 日本がアジア緒国民の中でただ一人強く自由であった時、我々は日本を保護者として又友人として仰いでいた時に、日本に対して抱いていた高い尊敬の為でもあります。 

 私は、この前の戦争の最中に起きたことですが、アジアの為の共存共栄のスローガンが今問題となっている諸国民にアピールし、 ビルマ、インド、インドネシアの指導者の或人達がそうすることによって自分達が愛している国が開放されるという希望から日本の仲間入りをした、 という出来事が思い出されます。

ここだけ見ると、あたかも大東亜共栄圏が間違いではなかったと述べているかのように見えるかも知れませんが、ところがこの前後の文章を見てみると、以下のような言葉が見られます。
 
 これ等の諸国の間では又、違った考慮から、条約の実際の条件に関する意見の相違がありました。ある国は新しい軍国主義的日本の台頭を恐れ、他の国は日本の侵略によって生じた災害と恐怖を忘れ兼ねて、意見がわかれました。

 セイロンに於ける我々は、幸い侵略を受けませんでしたが、空襲により引き起された損害、東南アジア司令部に属する大軍の駐屯による損害、並びに我国が連合国こ供出する自然ゴムの唯一の生産国であった時に於ける、我国の主要産物のひとつであるゴムの枯渇的樹液採取によって生じた損害は、損害賠償を要求する資格を我国に与えるものであります。

このように、日本の行為をはっきりと「侵略」と位置付けています。このことを考えれば、先ほどの「日本の仲間入り」というのは、「自国が解放されるという希望から日本の仲間入りをしたが、結局侵略されてしまった」ということでしょう。

そして、大師(ブッダ)の言葉を引用し、このように続けています。

 大師のメッセージ、「憎しみは憎しみによっては止まず、ただ愛によってのみ止む」はアジアの数え切れないほどの人々の生涯(生活)を高尚にしました。仏陀、大師、仏教の元祖のメッセージこそが、人道の波を南アジア、ビルマ、ラオス、カンボジア、シャム、インドネシアそれからセイロンに伝え、そして又北方へはヒマラヤを通ってチベットへ、支那へそして最後には日本へ伝えました。これが我々を数百年もの間、共通の文化と伝統でお互いに結びつけたのであります。この共通文化は未だに在続しています。それを私は先週、この会議に出席する途中日本を訪問した際に見付けました。又日本の指導者達から、大臣の方々からも、市井の人々からも、寺院の僧侶からも、日本の普通の人々は今も尚、平和の大師の影の影響のもとにあり、それに従って行こうと願っているのを見いだしました。我々は日本人に機会を与えて上げねばなりません。

「憎しみは憎しみによっては止まず」ということは、憎しみを持ってはいるのです。しかし、それよりも大きな愛で、日本を救おう、と言っているのであり、「日本は間違っていなかったのだから、制裁を加えてはいけない」などと言っているのではないのです。ジャヤワルダナ氏が、日本の行為がアジア諸国独立の力になったとか、大東亜共栄圏は間違ってなかったと言っているとか、全くとんでもないデタラメ解釈です。

この動画をアップしているKSM WORLDという人のプロフィールを見てみると、こんなことが書いてあります。

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>>内容は正しい日本の歴史、時事問題、
>>大東亜共栄圏の事、中国や韓国のことなどです


サンフランシスコ講和会議がいつ行われたどんな会議かも知らない人が、「正しい日本の歴史」とは実に滑稽です。

日本人は「外国から認められた」という話が好きで、だからこそ『Youは何しに日本へ?』とか『所さんのニッポンの出番』とかの番組がはやるんだと思いますし、私自身もそういう話は好きでよく番組も見ますが、それが偏狭な愛国心と結びつき、「日本の戦争はアジア諸国から認められていた」なんて自己正当化に利用されると、危うさを感じます。

自国に誇りを持ちたい、というのはわかりますが、こんな偽の歴史をで誇りを持とうなど滑稽ですし、どうしてこの手の人は、そんなにデマやデタラメを用いてまで、戦前の日本に誇りを持ちたがるんですかね? 今、現在、目の前にある日本にこそ、誇りを持ちたいものです。今、現在、目の前にある日本が、誇れる日本であってほしいからこそ、私は愛国カルトたちの歪んだ愛国原理主義や、立憲主義をないがしろにしようとする現政権には断固として反対の意思を示していきます。

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