業界動向
Access Accepted第483回:海外ゲーム通ならプレイしておくべき2015年のタイトル10選
2015年の本連載も,この記事が最後。年齢を重ねるにつれて時間の経つスピードがずいぶん速くなった気もするが,今週は昨年同様,2015年の欧米ゲーム業界に新しい風を吹き込んだゲームを10作,紹介して今年を締めたい。今回紹介した作品の中で,もしあなたがまだプレイしていないというタイトルがあれば,2015年のゲーム市場を読み解くためにも,遊んでおこう。
筆者が選ぶ2015年の海外の注目タイトル10選
2015年の欧米ゲーム市場については,12月21日に掲載した本連載の第482回,「2015年の欧米ゲーム業界を振り返る」であらかた書いてしまったので,あまり付け足すことはない。好調なPlayStation 4と,それを追うXbox One,そして活気が増してきたPCゲーム市場がとりわけ印象的な1年だった。モバイルゲームでも「Monument Valley」や「Lumino City」といった個性的なタイトルのほか,「Fallout Shelter」「Lara Croft Go」「Vainglory」,さらには麓 旺次郎氏が1人で作り上げた「Downwell」など,面白いものが次々にリリースされ,ゲーマーにとってはかなり“遊びごたえのある年”になった。
さて今週は,昨年同様,「海外ゲーム通ならプレイしておくべき2015年のタイトル10選」と題して,2015年リリースされたタイトルの中から,筆者が読者の皆さんにオススメしたい10タイトルを選んでみた。選考基準は,あくまで個人的なもので,「筆者を深く考え込ませたゲーム」だったり,「ゲーム業界の新たな基準になりそうなゲームシステムや制作過程」を採っていたり,「新しい切り口のゲーム」だったりする。
読者10万人が選んだとか,そういった権威や説得力はまるでないし,以上のような選考基準なので,必ずしも万人受けするようなタイトルが選ばれるわけでもない。その点をご了承のうえ,年末年始のひとときにプレイするゲーム選びの参考にしてもらえれば幸いだ。
4Gamerではもっぱら海外ニュースを担当する筆者だけに,たいていの新作はリリース前からその情報を追っている……はずなのだが,今回選んだ10作の中には,筆者がニュースにしていない作品が3作もあったりする。
大きく宣伝されなかったり,グラフィックスの印象があまり良くなかったりというのがその理由,というか言い訳なのだが,インディーズゲームが大きな比重を占めるようになった現在の欧米ゲーム市場では,以前にも増して多くの開発者達が,さまざまなプラットフォームに向け,多種多様なゲームアイデアを生み出している。それだけに,筆者としてもアンテナの感度をさらに上げていく必要性を感じている。
掲載した各作品については,前回同様,最低限の説明にとどめているので,詳しく知りたいという人は,4Gamerの過去記事をチェックしたり,公式サイトなどを調べたりしてほしい。もちろん,紹介した当人としては,この10作品が2015年を飾る記念碑的作品であることを強く確信しているので,「Steam」などのセールで見つけたら,ぜひ手に入れてプレイしてほしい。
■The Witcher 3: Wild Hunt
発売元:CD Projekt RED
開発元:CD Projekt RED
公式サイト:http://www.spike-chunsoft.co.jp/witcher3/
欧米各メディアが,「ゲーム・オブ・ザ・イヤー 2015」の最有力候補としているのが,この「The Witcher 3: Wild Hunt」だ。本作が,後世に伝えられるべきマイルストーンにふさわしいことは,プレイしてみればすぐに分かるはず。広大な世界の表現からゲームシステムまで,シリーズ従来作に比べて大きくパワーアップしており,また,大手パブリッシャの専売特許だと思われていたハイレベルなゲームエンジンを自分達の手で完成させたことも特筆できるだろう。
ヒットしたシリーズだけに,続編を作るための伏線や引きなどを用意しそうなものだが,本作にそれはなく,ゲラルトの最後の物語を語るにふさわしい作品に仕上げようという,CD Projekt REDの高い意識が伝わってくる。
■Everybody's Gone to the Rapture
発売元:The Chinese Room
開発元:The Chinese Room
公式サイト:http://www.thechineseroom.co.uk/games/everybodys-gone-to-the-rapture/
「Dear Esther」の開発で知られるイギリスのゲームメーカー,The Chinese Roomは,この「Everybody's Gone to the Rapture」を,“ウォーキングシミュレータ”と銘打っている。プレイヤーはゲーム世界を歩き回り,NPCと会話したり,オブジェクトを扱ったりすることでストーリーを進めていくのだが,敵は出てこないし,攻撃を受けて死んだりすることもない。その安心感が,ゲームの世界にプレイヤーをうまく引き込む理由になっていると思う。
一人称視点で誰もいない世界を歩き回るという作品は,「Dear Esther」や「Gone Home」など,今までにも存在したが,「Everybody’s Gone to the Rapture」の面白いところは,地球上のほとんどの人がいなくなったという大きな事件を,小さな村を舞台に描いている点だろう。
■Cities: Skylines
発売元:Paradox Interactive
開発元:Colossal Order
公式サイト:http://www.citiesskylines.com/
都市建設シミュレーションと言えば「シムシティ」が元祖であり本家でもあるのだが,2013年にリリースされた「シムシティ」が,オンライン必須であるにもかかわらずサーバーが不安定,などといった問題を抱え,高い評価を得ることができなった。本作は,そんな「シムシティ」の評価を見て作ったという作品だけあり,プレイヤーのやりたいことがきちんとできる,というゲームシステムを大歓迎した都市建設シムファンも多かった。
「Cities: Skylines」にはさまざまなチャレンジ要素があるが,プレイヤーは自分のペースでゲームを進められるうえ,それらのチャレンジがストレスにならず,「楽しい」と思わせてくれる演出が施されている。「Steam Workshop」との連動で,多くのMODが作られている点も見逃せず,プレイヤー視点でゲームを作ることの大切さを,この時代に改めて教えてくれた作品だ。
■Rocket League
発売元:Psyonix
開発元:Psyonix
公式サイト:http://rocketleague.psyonix.com/
移植や下請で得た資金をつぎ込み,2年の開発期間を経て生み出された「Rocket League」は,「デモリッションダービーをサッカー風に楽しむ」という,ある意味,ありがちなコンセプトの対戦型オンラインゲームだ。
しかし,スッキリとまとまったゲームシステムと高い熱中度により,ローンチから1か月でPC版とPlayStation 4版合わせて500万ダウンロードを記録。しかもe-Sportsの競技種目としても選ばれるなどしており,その人気は続いている。
「Rocket League」の魅力は,誰でも分かるゲームシステムと,ついプレイを繰り返してしまうという中毒性の高さにある。プレイし続けることにより物理演算をベースにした車やボールの動きに慣れてくるため,自分が上達したことが分かりやすいというラーニングカーブ設定の巧みさもある。Psyonixにとっては,設立15年めにしてようやく実を結んだ努力の結果といえそうだ。
■The Flock
発売元:Vogelsap
開発元:Vogelsap
公式サイト:http://www.vogelsap.com/theflock/
「非対称型のオンライン対戦」は2015年のちょっとしたブームでもあったが,オランダ生まれの「The Flock」もそんなタイトルの1つだ。特徴的なのは,勝ち抜けたプレイヤーが「昇天する」という設定で,そのためゲーム人口が次第に減っていき,プレイヤー数のカウンターが0になった時点で,ゲームの販売は終了。フィナーレイベントのあと,サービスもシャットダウンするシステムになっていることだ。オンライン専用の対戦ゲームにエンディングを用意する,という壮大な実験作なのだ。
もっとも,世界観がダークというか地味過ぎてプレイヤーに注目されづらく,「ダルマさんが転んだ」式のゲーム内容も,ユニークではあるものの,遊び込むにはやはりパターンが少なすぎる。頻繁なアップデートでDLCが追加されることが求められるが,発売から数週間で過疎化したため,現段階ではエンディングにたどり着けるのかどうかも怪しいところだ。
日本語にも対応しているが,相手になってくれるプレイヤーを見つけることは難しいかもしれない。ただ,この作品の持つ開拓精神について筆者は高く評価しており,今回はあまりうまくいかなかったものの,こうしたプロジェクトの存在こそが未来のゲームを作っていくのだと思っている。
■Life is Strange
発売元:Square Enix
開発元:DONTNOD Entertainment
公式サイト:http://www.jp.square-enix.com/lis/
宇宙人ともゾンビとも戦わず,世界を救うこともない「Life is Strange」は,これまで,ゲームで扱われることの少なかった,ネットいじめや親との確執,クラスでの差別など,普通のティーンエイジャーが成長するにつれて体験していくであろう問題に正面から向き合った作品だ。
「時間を巻き戻す超能力」という,ゲーム的なギミックはあるものの,よくあるステレオタイプのゲームにはしたくないという開発者の意思が伝わってくる。
主人公であるマックスと親友のクローウィのキャラクター造形は,やはりどこかステレオタイプだし,ドラマ部分についても,練り込む余地があったことは確か。しかし,それを勘案してなお,「過去を自由に変えられるけど,そこには代償も付いてくる」ことを,10代の女の子の視点でしっかりと描き上げているストーリーが秀逸だ。
■Star Wars: Battlefront
発売元:Electronic Arts
開発元:EA DICE
公式サイト:http://starwars.ea.com/ja_JP/starwars/battlefront
3月にリリースされた「Evolve」と同様,シングルキャンペーンがないことからパッケージとしての内容の薄さが指摘される「Star Wars: Battlefront」。現実問題として,FPSプレイヤーのほとんどがマルチプレイしかやらないのだが,消費者がFree-to-PlayのオンラインFPSとの違いをシングルキャンペーンに求めるのは仕方ないところだろう。今後,DLCなどでその要求に応えていくことが必要になりそうだ。
それを差し引いてもなお,「スター・ウォーズ」という世界的なIPをうまく使い,大人から子供まで遊べるオンラインゲームを作り出したことは評価されるべきだろう。「Frostbite Engine」にフォトグラメトリー技術を導入して映画そのままのマップを再現し,さらにサウンド効果や爆破シーンなどからも「スター・ウォーズ」に対するリスペクトが感じられる。グラフィックス,オーディオ,インタフェースなど,次世代ゲームの雰囲気がヒシヒシと伝わってくるのだ。
■Prison Architect
発売元:Introversion
開発元:Introversion
公式サイト:https://www.introversion.co.uk/prisonarchitect/
マネジメント系のシミュレーションは筆者の大好物で,これまでさんざんプレイしてきたが,この監獄経営シム「Prison Architect」は傑作だ。プレイヤーは私設刑務所の経営者として,留置場やシャワー,運動場などの施設を建て,警備員や会計士,清掃員などを雇って施設を大きくしていくわけだ。しかし相手も一筋縄ではいかず,ナイフや脱獄用具などをこっそり用意していたりするから注意が必要だ。
キャラクターグラフィックスは極端にデフォルメされているが,それにもかかわらず,囚人の1人1人に愛着が沸いてくる,深みのある作品に仕上がっており,Bullfrog Productions全盛期の作品を思い出す。
2012年のSteamのアーリーアクセスプログラムに選ばれたタイトルでもあり,デベロッパのIntroversionは以来,2015年の発売まで地道に開発を続けてきた。その間の小まめなアップデートや,テスター達とのコミュニケーションなどは,インディーズゲーム開発者にとって良いお手本になるはずで,ゲーム作りという観点からもバリューの高い作品だろう。
■Fallout 4
発売元:Bethesda Softworks
開発元:Bethesda Game Studios
公式サイト:https://www.fallout4.com/
「Fallout 4」の冒頭,シェルターから飛び出してウェイストランドに降り立ったとき,正直,その光景にはややがっかりした。ゲーム世界の雰囲気が,「Fallout 3」そのままだったからだ。
しかし,プレイしてみると,世界の作り込みや物語の練り込みなどがハンパなく,探索やアイテム収集の楽しさといったオープンワールドRPGの定石もしっかりと詰め込まれていた。本作には「自分の街を作り上げる」という規模の大きなクラフト要素も用意されており,ずっと遊んでいられる作品に仕上がっている。付きもののバグはないわけではないが,本作により,「面白いゲームを作るスタジオ」というBethesda Softworksの名声は不動のものになっただろう。
■The Beginner’s Guide
発売元:Everything Unlimited
開発元:Everything Unlimited
公式サイト:http://thebeginnersgui.de/
奇妙な「The Stanley Parable」を生み出したデザイナー,デイヴィー・レデン(Davey Wreden)氏の最新作が,この「The Beginner’s Guide」だ。2008年から2011年にかけて活動していたという架空のアマチュアゲーム開発者,Codaが残した複数の作りかけプロジェクトを1つにつなげ,レデン氏自身の解説や解釈によってゲームを進めていくという,これまた奇妙な作品に仕上がっている。
Codaが投げ出したプロジェクトを追っていくことで,レデン氏がCodaの創作物に意義を見出していくのだが,Codaはその中の1本も完成させることなく,レデン氏にデータを渡してゲーム開発を辞めるまで,誰にも公開することがなかった。
Codaはなぜそれらを作っていたのか。そしてレデン氏はなぜ公開することにしたのか。結論から言えば,そこにはゲーム的な仕掛けもストーリー上のミステリーも存在しない。
大学卒業後,ライターという仕事についたばかりの筆者は,誰にも見られそうもないホームページを作り(当時は,ブログという言葉もなかった),映画のレビューや時事問題の考察などを4年ほど書き込んでいた。ライターとして金銭を得る一方,仕事以外の何かを書きたくて仕方なかったのだろう。「The Beginner’s Guide」のCodaからは,そうした無垢な「創作のための創作」のエネルギーが,生々しく筆者の心に伝わってくる。
説明が難しいのだが,プロであれアマチュアであれ,「物を作る/書く/描く」ことに携わるすべての人にプレイしてもらいたい。英語のハードルは高いが,Steamのコミュニティでは日本語化MODの制作も行われている様子。ともあれ,「The Beginner’s Guide」は,筆者にとって2015年一押しタイトルだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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