タイトルのとおりステーキハウスが舞台。っていうか本当に舞台劇のようにステーキハウスの中だけでストーリーが展開していく。
凶暴で冷静沈着な極悪人である立浪に、料理の才能を見出されて会員制の高級ステーキハウス「テキサス」の店長となった久慈良彦。
自分の浮気が原因で妻と離婚したために、今は離れて暮らす愛する娘の誕生日に、最高の肉とケーキを用意して閉店後の店内で娘の到着を待っている。
時刻は午前零時。テキサスがあるのは、西麻布の飲食ビルの五階。
そこに突然現れた立浪に、立浪の妻「鏡子」との浮気を疑われた久慈が銃を突きつけられるところから、このドタバタ劇は幕をあける。
この立浪という男の存在感はハンパない。
冒頭の数ページを使って立浪がどんな恐ろしい男であるかの説明がなされていく。
立浪の母親は、ロシア人の船乗りを相手にする娼婦だった。父親は不明だ。立浪の、雪のように白い肌と青みがかった瞳から判断すれば、ロシア人であることは間違いない。そのおかげで、立浪は、日本人離れした強靭な肉体を手に入れた。
小学生1年生の時点で学年で一番背が高く、手のつけられない悪ガキで、同級生からはホッキョクグマよりも恐ろしいと言われた男である。
小学四年生で酒とタバコを覚え、小学五年生で女を覚え、小学六年生で地元のヤクザを半殺しにした。
そのあまりの凶暴さに、小学校を卒業する頃には暴力団と相撲部屋とプロレス団体のスカウトが立浪の元を訪れたほど。
そして、立浪の恐ろしさはその強暴性だけではない。
頭が切れ、揺るがない冷静さを兼ね備えており、バブル景気に乗っかって都会の裏社会でのし上がっていったのである。
そんな立浪から突然、「俺を裏切ったな」と冷静に言われながら眉間に本物の銃を突きつけられているのだから、ステーキハウスの雇われ店長久慈にとっては最大のピンチである。
しかし、久慈は本当に「鏡子」との浮気については身に覚えがない。ただ、アルバイトの女の子に手を出しただけだ。
なんとかしなくてはと必死で取り繕う久慈は、鏡子に確認してくれれば全てはっきりするからと立浪に告げるのだが、立浪は浮気の証拠を見つけたから鏡子を殺してからここに来たと言い放つ。久慈ちゃん絶体絶命。
そこに久慈の娘、久慈の本当の浮気相手であるステーキハウスのバイト店員の彼氏、そして浮気相手であるバイト店員本人までがステーキハウスに次々とやってきて、何がどう転ぶのかわからなくなる登場人物が入り組んだ展開と久慈の内心の叫びのおかしさが合わさって疾走するドタバタ舞台劇の様相となっていく。
作品としてはちゃんとミステリーだし、先の読めない緊張感と裏切りの連続に加え、死人もきっちりと用意されているのだけど、久慈のダメ男さが浮かび上がる内面の叫びや描写が滑稽で思わず笑ってしまうおもしろさ。
ステーキハウスの店内という限られた空間での、ある意味狂気に満ちた一夜を最後まで飽きさせることなく描いているところは素晴らしい。
読み終わって思ったのは、やっぱり女性にはかなわないなってこと。
あの立浪ですら、豹変していく女性キャラたちと比べれば誠実でいい男に見えてくるから不思議なものだ。
まるで喜劇の舞台を観ているような、おもしろくて怖くて笑える疾走感あるミステリー作品だった。
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