古谷祐伸=スラウェシ島、稲田清英
2015年12月28日10時56分
日本と韓国の国交正常化から50年。経済、産業の関わりも大きく変わった。韓国が日本を追う構図から次第に「並走」へ。激しい競争、時には摩擦も起きる一方、連携や融合も深みを増す。その最前線を追った。
赤道直下、インドネシア中部のスラウェシ島。海岸沿いにある人口1千人のウソ村の一角に、巨大なタンクや大小の配管が入り組んだ設備が広がる。煙突からは炎が上がっていた。
「我々がここで作る液化天然ガス(LNG)が10日に1回のペースで、日本と韓国などへ輸出されています」とドンギ・スノロLNG社の坂口雄一・取締役補佐(42)。10月以降、日韓への輸出が始まった。
同社は、坂口氏の出身元の三菱商事と韓国ガス公社が、インドネシア企業と組む形で2007年末にインドネシアで設立。350ヘクタールの敷地に3千億円を投じてプラントを建てた。三つのガス田で取れた天然ガスからLNGを年200万トン作り、中部電力と九州電力、韓国ガスに売る。
濃紺の海を見渡すように広がるプラント。11月、青い制服を来た日本や韓国、インドネシアの職員たちが主要制御室に並ぶ計器を見守っていた。その日朝、日本向けのLNGを載せた船が出たばかり。計器の一つは、炎天下に立つ冷却塔で零下162度に冷やしたLNGが既に、容量17万立方メートルの巨大タンクの3割までたまったことを示していた。
LNGプラントとしては小規模だが、特徴がある。世界の資源市場を実質支配するシェルやBPなど欧米の「メジャー」が出資していないことだ。LNG輸入量で世界1位の日本と2位の韓国が主役で取り組む初のケース。BPの統計(14年)によると、日本は世界で取引されるLNGの36%、韓国は15%を買う。2大消費国を結びつけたのは、ガス市場での発言力を増し、安定供給につなげたいという共通の思いだ。
ドンギ・スノロ社で副社長を務める三菱商事出身の川端徹さん(48)は期待する。「消費国同士が買い付けで競うだけでは、資源国を利するだけ。日本と韓国が生産に乗り出せば、ビジネスの幅は広がる」
天然ガスを供給する三つのガス田は、1990年代にインドネシア国営企業が発見したが規模が小さいため放置されてきた。三菱商事が名乗りを上げて韓国ガスを誘った。「欧米企業が運営するプラントに参加を試みてきたが、資本参加しか受け入れてもらえなかった」。韓国ガス出身の李琴雨・取締役(52)は喜ぶ。
「文化的にも、日韓は共通点が多い。三菱商事の仲間になんでも相談しろ、と韓国の上司から言われている」と李氏は話す。プラントは飲酒禁止だが、日韓のスタッフが、本社があるジャカルタを訪れると、韓国で「爆弾酒」と呼ばれるウイスキーとビールのカクテルで乾杯。互いの距離を縮めてきた。
LNGは6日間ほどの航海を経て日本に着く。12月初め。北九州市の埠頭(ふとう)にはインドネシアから四つの丸いタンクでLNGを運んだ運搬船が停まっていた。九州電力の火力発電所で使うLNGの搬入を終え、またインドネシアへと戻っていく。
三菱商事の西村智昌・インドネシア天然ガス事業部長は「韓国ガスは世界最大級のLNGの買い手で発言力もあり、プラント運営の技術者も多い」と話す。ノウハウを生かしさらに他国での協業も視野に入れる。
日韓は産業構造が似通い競争関係にある。一方でここ数年は日韓以外の地域で手を組み、互いの強みを生かして事業を進める例も増えている。日韓経済協会によると、第三国で日韓企業が進める共同事業は全世界で40件を超える。資源開発や発電所の建設などに商社やメーカー、建設会社などが参加。地域もアジアや南米、中東など幅広い。「すべて順調とは言いがたい」(日本の通商関係者)との指摘もあるが、日韓の次代の可能性を示す新たな潮流でもある。
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