小頭症児急増…蚊媒介感染症、妊婦は渡航自粛を
ブラジルで蚊が媒介する感染症「ジカ熱」が流行し、脳の発育が不十分で知能や運動機能に障害が出る「小頭症」の新生児が急増している。ブラジル保健省は11月、妊婦の感染が胎児に影響していると見て国家緊急事態宣言を出した。来年はリオデジャネイロ五輪が開催されるため、日本の専門家は妊婦の流行地への渡航自粛を呼びかけるとともに、蚊が媒介するデング熱が国内でも流行したことから、「対岸の火事ではない」と対策の徹底を訴える。
ジカ熱はジカウイルスによる感染症で、発熱、発疹、頭痛などの症状が出る。軽症ですむことが多い。
欧州疾病対策センター(ECDC)などによると、今年5月にブラジル北東部でジカ熱の最初の国内感染患者が報告された。その後、全国に広がり、これまでに44万〜130万人の国内感染者が発生したと推計される。ブラジル保健省は10月、小頭症の新生児の増加を世界保健機関(WHO)に報告。今月12日までに、2010〜14年の10倍以上となる計2401人の小頭症の新生児が確認され、そのうち29人が死亡した。現在も流行は続いているという。
同省の調査の結果、少なくとも小頭症の新生児の母親2人の羊水から、ジカウイルスが見つかり、母親は妊娠中にジカ熱のような症状があった。同省は一層の調査を進めるため、国家緊急事態宣言を出した。
ブラジルでウイルスを媒介しているのはネッタイシマカだが、日本に生息するヒトスジシマカも媒介する。国内では13、14年に海外から帰国した計3人が発症したが、拡大はなかった。
国立国際医療研究センター国際感染症センターの忽那賢志(くつなさとし)医師は「妊婦が風疹などにかかると小頭症の子が生まれる例があり、ジカ熱との関連性は十分考えられる。デング熱のように国内でジカ熱が流行する可能性はあり、流行地への渡航時は蚊に刺されないようにし、国内の蚊の発生対策を徹底することも必要だ」と話す。【藤野基文】
ジカ熱◇
ジカウイルスを持つ蚊に刺されると、10日以内の潜伏期間後に発症する。発疹や風邪のような症状が約1週間続く。ワクチンや特効薬はない。1968年にナイジェリアで初めて感染者が見つかり、アフリカ、東南アジア、オセアニアなどで感染者が出ている。2007年と13〜14年にオセアニアで大流行があったが、それ以外は小規模にとどまり、未解明の部分が多い。