大人の動画をスムーズに動かすためだけにCPUに過激な負荷をかけた男たち『87CLOCKER』 『のだめ』の二宮先生が描くPCの速度を競うニッチ競技と恋愛のゆくえ
PCを選ぶときに少しでもCPUやメモリを気にしたことがある人は今回紹介するマンガはすごくワクワクするはずです。例えるなら、ルールはわからないけれどラグビーや囲碁が面白い!ような感覚を味わえます!
Windows95からパソコンが爆発的に広まりパソコンは使えて当たり前の時代でしたが、現代の中高生はパソコンを使わずにスマホで殆どのことを済ませてしまうようです。キーボードの使い方を知らない人も大勢いるとか。私が学生の頃はE6600が出て自作PCも盛んで、私の周囲もお年玉を叩いてPCゲームに勤しんでいました。しかし、今やPCのスペックが格段に向上し、わざわざ自作を組むインセンティブも低くなり、重い処理をしなければ、大したパソコンがいらないという人も増えて来ました。
(『87CLOCKER』より)
秋葉原の老舗PCパーツ屋もドス◯パラやらに変わってどんどん潰れていってしまう。そんな時代に合わせて、自作erたちは単純にスペックをもとめるのではなく、自分のPCの秘められた能力を開花させる術、すなわちオーバークロックに目覚めていったのです。
さて、今回ご紹介するマンガは『のだめカンタービレ』の作者でも有名な二ノ宮知子先生が描く、恋愛オーバークロックマンガです。「PC」というデジタルの権化と「恋愛」というアナログ入出力の権化、両極端にあるものを組み合わせることで新しいジャンルを生み出そうとする、意欲的なマンガになっています。
ストーリーはまさに王道で、音大になんとなく進学した主人公が、ヒロインに一目惚れします。そして、そのヒロインの想っている人がオーバクロックをやっています。いやーそれは主人公オーバークロック始めるしかないよね。うん。そして、探り探りオーバークロックの道にハマっていきます。そして、音大で培ったあるちからが、主人公のオーバークロック人生に大いに生きてきて…という話です。恋愛マンガとしての面白さは他のレビューに譲るとして、というかそこはのだめで折り紙つきなので、オーバークロックの話をしましょう。
オーバークロック?なにそれ?という人たちのために簡単に解説をしておくと,PCの設定を変えることで、通常よりもPCを速く動作させることです。よく車に例えられます。車をより早く走らせるためにはエンジンに大きな負荷をかけなければなりません。しかし、エンジンに負荷をかけ過ぎるとオーバーヒートしてしまいます。
PCも同じで、設定を変更することでPCのエンジンともいえるCPUなどを通常より負荷をかけ速く動作させることができます。それをオーバーヒートしないように冷やしたり、設定を変えたりして目的に沿って動作するようにするのがオーバークロックです。(オーバークロックにも少しコスパよくPCを速くしたり〜ギネス記録を狙ったりと色々な種類がありますが、「今回は2位じゃだめなんです、1位じゃないとだめなんです。」的なオーバークロックについて書きます。)近年ではPCパーツメーカーがスポンサーになって、世界大会なども行われています。いわゆる、エクストリームスポーツとして人気になっています。
このマンガの肝は普段はあまり描かれないオーバークロックの裏側まで緻密に取材をして、描き切っているところです。電脳世界のF1と呼べるのがオーバークロックです。
(『87CLOCKER』より)
大会こそ華やかですが、やることは地味なんで、素人が見ても何をしているかわかりません。「どんだけ早くなるんだー」というワクワクさせる展開で、読者はいつの間にか「オーバークロック」を理解できるようになっています。囲碁を知らなくても、『ヒカルの碁』が楽しめるように、このマンガもオーバークロックを知らなくても楽しめます。
OCには大きく分けて3つの段階があります。後半に行くほどお金がかかります。「空冷=空気で冷やす」「水冷=水で冷やす」「極冷=液体窒素(ドライアイス)で冷やす」という方法が主ですが、最初は軽い気持ちで空冷から、少し凝り始めると水冷、色々投げ売ると極冷と気がつくと高みまできていいる人が多いです。
大会では液体窒素が使われ、CPU、メモリ、電源、はたまたOSに至るまで細かい設定が行われます。様々な数字を見極めながらPCの限界を探る職人芸が見られるのがオーバークロックの世界なのです。PCが正常で作動するための温度を探りながら、電圧やクロック数の調整、液体窒素などで結露しないようにするための養生、パーツの個体差や状態を加味した機材選びと組み合わせの研究などなど、それらを最後までやり抜いて初めてオーバークロックは成功します。7巻まで刊行されている中で、1つ1つ主人公が課題を解決していきます。最新巻では、極冷でも難なくこなすオーバークロッカーになるのです。
(『87CLOCKER』より)
PCが普通に動くようになってきて、十分なスペックをもってくると人はもっと別の何かを求めてオーバークロックを行うようになってきました。今後オキュラスを中心としたVRが普及するにつれて再度自作の波が来るのでは?というかきたら面白いなーと漠然と願っています。快適にVRで遊ぶために、GTX980が…
王道の恋愛の中に、緻密な取材に基づいたオーバークロックのかっこよさが描かれていて、
PCが苦手な人でも、「おおおおおおーーーーなんかわからないけど、オーバクロックかっこいい!」というヒカルの碁現象が間違いなく生じます!ぜひ、こたつの中で極冷の世界を体験してみて下さい!
素人が調子に乗ってやり過ぎるとこんな風になりますので、ご注意を…
(『87CLOCKER』より)
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