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 結婚に伴って姓を変え、不便、不利益、アイデンティティーの喪失を感じる人は今後も絶えることはないでしょう。「夫婦は同姓」を合憲とした最高裁判決の先、私たちが考えなければならないのは何か。2回目のアンケートに寄せられた4千に迫るみなさんの意見から、改めて「夫婦の姓」とどう向き合っていくべきかを考えました。

■大阪市の団体職員・山下文さん(59)

 20年ほど前に離婚した際、元夫の姓のままでいる選択をしました。

 当時、娘は2歳。親権を争って自分が取ったこともあり、さらに波風を立てたくありませんでした。幼いとはいえ娘にはなじみのない姓に変えさせるのも抵抗がありました。

 ただ、元夫の家族から連絡があったときなどに、まだその「家」の一員と見られていると感じることがありました。友人からは「別れた夫に未練があるから姓を変えていないの」と聞かれたことも。違和感が募っていきました。

 娘が22歳で結婚したのを機に、昨年旧姓に戻しました。事前に娘に相談すると「お母さんがそうしたいならいいよ」。改姓には家庭裁判所の許可が必要です。出生以来のすべての戸籍謄本を求められ、有給休暇を使い役所に通いました。面談を経て2カ月後に改姓が認められました。

 さらに1週間ほど休みをとり、住民票、運転免許証、銀行口座、マンションの名義変更と手続きを進めました。最後にフェイスブックの登録名も何とか変えて「改姓しました」と宣言しました。ようやく過去を切り離し自分に戻ったと感じました。

 印象的だったのは職場での反応です。朝礼で姓が変わったと自ら伝え、メールアドレスも変わるため、関係先へのメールに「名字が変更になり、アドレスも変わっています」と書き添えました。すると、年齢が年齢なので「どっちですか」などと聞かれます。結婚ではなく、離婚も今したわけではなく、説明するのはやっかいでした。

 改姓したと伝えて「そうですか」で済むことはまずありません。クレジットカードの名義変更でも「結婚ですか」と聞かれます。プライベートの変化を探られ、説明を求められ、さらされます。

 結婚した当時は夫の姓に合わせることに疑問はありませんでした。でも今は、なぜ結婚や離婚でこれほど面倒が伴うのかとつくづく思います。すべての負担は姓を変えた側にかかります。姓が変わらなければ、結婚、離婚をむやみに知られることもありません。

 これから結婚する世代には仕事の都合などで姓が変わると困る人も多いでしょう。夫婦同姓は「合憲」とした最高裁の判決は、旧姓を通称で使う人や事実婚を選んだ人、本当は旧姓のままでいたかった人の不利益や苦痛に応えておらず、残念でした。国会でも、「家族の絆」を理由に選択的夫婦別姓の導入は先送りされるのでしょうか。どんなことで困っている人たちがいるのかを知り、社会全体で考えていければいいと思います。(聞き手・田中陽子)

■新潟県の自営業・本間邦彦さん(54)

 30代で結婚し、長男ですが相手の姓に改姓しました。事実婚の選択肢もありましたが、子どもができたときのことを考え、同姓の方がいいと思いました。

 当時勤めていた会社でも新しい姓を使いました。運転免許証や銀行などの変更手続きは面倒でしたが、姓を変えてつらかったことは特になかったです。その後、離婚。旧姓に戻す手続きはやはり大変でした。

 私には子どもはいませんが、選択的夫婦別姓制度で懸念があるのは子どものことです。親と名字が違うことで陰口をたたかれたり、いじめにつながったりしないか。別姓という文化が社会に根付くには長い時間がかかると感じています。

 結婚で全く新しい「第3の姓」に夫婦でなる選択肢もあっていいのでは。改姓の負担は男女一緒だし、子どもの姓の懸念もありません。(聞き手・津田六平)

■兵庫県の男子大学生(22)

 根付いた夫婦同姓を変えるのは簡単ではないと最高裁判決で感じました。僕は夫婦に同姓を強いること、さらには女性が男性の方の姓に変えて当たり前とする風潮に反対です。

 小学校高学年のとき両親が離婚しました。その後も名字は父の姓のままでしたが、高校から母の再婚相手の姓になりました。その人が母に暴力を振るうようになって離婚。大学入試の頃のことで、センター試験は母の離婚前の姓、後期試験は離婚後の姓で受けました。この時だけは姓のことで振り回されたと感じます。

 再婚時、母は不本意ながら相手の姓に合わせたのではないかと思っています。僕はいじめなどに遭ってはいませんが、子どもにとって姓が変わる影響は否定できません。それを避けるためにも、夫婦別姓の選択肢はあっていいと思います。(聞き手・田中陽子)

■寄せられた提案や要望

 「夫婦同姓」に合憲判決が出た後も、アンケートには提案や要望が寄せられました。(抜粋。選択的夫婦別姓の導入への賛否、夫婦同姓・別姓使用などを表記)

●「明日、婚姻届を提出します。選択肢があることと、どちらかが改姓しなければいけない、ということは、大きな違いがあります。婚姻届に、夫の姓、妻の姓、別姓の三つの選択肢に加え、夫+妻の姓(ミドルネームとして旧姓を残す)という選択肢も当たり前の時代がくることに期待します。結婚後は、パートナーの姓になりますが、職場では旧姓、名刺は、『旧姓(新姓)名前』という表記にしたいとおもっています。お互いがきちんと話して選択すべき問題だと思います」(30代女性・賛成・単身)

●「同姓を好む方々だって『法律で決まっているから』ではなく『自分たち夫婦の姓は自分たちの自由意思で選んだのだ』という方がより誇らしく気持ちの良いことではないでしょうか。社会的に既に定着しているからこそ婚姻時姓選択制度にすることに不安はないです。差別を心配してくれている国連にも『安心してください。男女差別ではありません。日本では夫婦同姓が多数派であり、それは各人の自由意思なのです』と胸をはって言えるではありませんか」(40代女性・賛成・既婚で同じ姓)

●「妻の姓を名乗る者が少ないという現状は異常だとは思うが、選択的ではあろうと別姓を認めるということを検討するのであれば姓を廃止することや自由に改姓できること、婚姻時に創姓(どちらとも関係の無い姓を新たに創り名乗る)できるようにすることを同時に検討すべきで、別姓ありきの議論は避けるべき」(20代男性・反対・単身)

●「男性は、逆の立場だったらどうなのか、我が身に置き換えて考えるべきだ。そして女性も、男性の家に入るのが当たり前と思うのではなく、対等な個人同士として、パートナーと、苗字(みょうじ)をどうするか話し合うべきだ」(20代女性・賛成・単身)

●「まず優先されるべきは『誰もが自ら望む形で家族を持つ権利があり、それが従前の婚姻と比べて差のある扱いを受けるべきではない』ということだと思う」(40代男性・賛成・単身)

●「通称が使用できるから合憲だというのなら、免許証、パスポート、国家資格者証も通称で作ってもらいたい。会社の中だけ通称が使えても意味はない。むしろ、会社の外、日本、世界で活動しているからこそ、姓を変える不利益があるわけで、そこが考慮されていない」(40代女性・賛成・既婚で同じ姓)

●「15人中5人が違憲としている現状からも、家族のあり方から深く議論する必要があった問題です」(50代男性・賛成・単身)

■引き続き取材していきます

 「夫婦の姓」の2度のアンケートには計5700件の意見が寄せられました。メール、手紙も350を超えました。夫婦別姓を選べる制度について、それができない現実の体験をもとに多くの賛成意見が集まりました。「日本の伝統」「子どもへの悪影響」を理由にした反対意見も寄せられました。

 私が会った大学生は「親が別姓でも幸せに育った」と語りました。臆測ではなく、実体験に支えられた意見を多く紹介することが大切だと感じました。女性の活躍を社会が目指す上でも、姓をめぐる議論は大切だと感じます。引き続き、取材していきます。(長富由希子)

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 このシリーズは、ほかに今村優莉、大和久将志、杉原里美、永持裕紀、初見翔、村上研志、矢島由利子が担当しました。

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