【北京=永井央紀】中国のテロ対策を強化する反テロ法が27日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会で可決、成立した。2016年1月1日に施行される。テロ対策のために企業に対する情報提供の義務付けや報道規制の強化などが盛り込まれており、中国に進出した外資系企業も対象になる。米国など国際社会からは不安視する声も上がる。
同法を担当する安衛星・国家反テロ弁公室副主任兼公安省反テロ局局長は27日、記者会見で「中国はあらゆる形式のテロに反対する。関係部門が反テロ法を徹底的に実行し、対策を強化していく」と述べた。
同法はテロについて「暴力、破壊、脅迫などの手段で社会をパニックに陥れ、公共の安全を脅かし、人身・財産を侵害し、国家や国際組織を脅迫し、その政治目的を実現する主張と行為を指す」と定義。テロ行為として組織的な人への攻撃や公共設備の破壊、テロの扇動、情報や資金の支援などを列挙したが、その中には「その他のテロ行為」との曖昧な項目を入れた。何をテロ行為と認定するかには当局の裁量の余地を残した。
具体的なテロ対策の手段としてはインターネットに関する規制を盛り込んだ。当局のテロ防止措置や調査への協力として、プロバイダー事業者などに通信に施す暗号の提供などを義務付けた。テロに関する情報を見つけた場合には直ちに転送を止め、関連情報を記録して当局に報告することも規定した。
報道規制については、「模倣される可能性のあるテロの詳細を報道してはならない。テロ事件の対応中は反テロ活動機関の承認を得ずに対応状況などを報道してはならない」などとした。
米国務省の報道官は22日、「反テロ法で表現の自由や信教の自由がさらに制限される」と懸念を表明した。
27日に記者会見した李寿偉・全人代刑法室副主任は「ネットはテロリストの重要なツールになっている」と指摘したうえで、米国や欧州連合(EU)にもネット事業者に協力を求める規定があると反論した。国際社会の懸念を考慮してか、同法には信仰の自由や民族の慣習を尊重するとの規定も盛り込んだ。
同法は14年3月に雲南省昆明市で多数が死傷したウイグル族によるとみられる襲撃事件などを受けて起草した。中国の法律は通常3回の審議を経て正式に公布、実施される。第1回審議は14年10月、第2回審議は15年2月に行われたが、3回目の審議までは約10カ月の間が空いた。今回のタイミングで審議した背景には、パリ同時テロ事件で国際的にテロ対策の重要性が高まり、国内外の理解を得やすくなったと判断した可能性がある。
中国は7月に国家の安全に関する取り締まりを強化するための包括的な方針を定めた「国家安全法」を制定。海外の非政府組織(NGO)の活動を規制する法律も全人代の審議にかかっているほか、昨年秋には反スパイ法を制定。安全対策として社会統制を強化している。
反テロ法、中国