やめてよ、その雑なキャラクター
今野浩喜(以下今野) だから、ここで何を連載するんだって聞いてんの。なにもわかんないまま、とうとう最後の回になっちゃったよ。
高橋健一(以下高橋) 貝のこと書くんだよ。
今野 インタビュー形式じゃなくて?
高橋 そう、書くの。
今野 へえー。そんなに貝って種類いる? シジミで50回くらい書くの?
高橋 そんな無理無理無理無理。シジミは2回。
今野 2回はいけるんだ。……これは、人気が出るよ。(ゆっくりと)これは、人気がでるよ。
高橋 くそー、全然思ってない。絵も描くんだよ。
今野 あ、こいつ絵は上手いから。藤子不二雄っぽいタッチで。
高橋 いや、ほんと子どもの頃に好きな漫画マネしたようなレベルなんだけど。大喜利とかで絵を描くとき、魚だけ細かく描き込んだりしてしまう。鱗の感じとか、エラのしわの感じとか。そうすると、こいつがすごい笑うんだけど。でも、貝の絵は描いたことないなあ。
今野 カラー?
高橋 決めてない。色つけたことないし、やりかたもわかんない。
今野 油絵油絵ー。
高橋 油絵はない。工藤静香じゃねえんだから。
今野 どういう貝の絵だろう。あ、擬人化だ。「貝くん」でしょ?
高橋 やめてよ、その雑なキャラクター。回ごとに題材になる貝の絵を描くよ。
こんなホンビノスノ貝はイヤだ
今野 えー「貝くん4コマ」ででいいんじゃない。
高橋 イヤだよ。貝くんが食パンくわえて、慌てて走んのかよ。
今野 あーいいじゃん。「こんな貝はイヤだ」。
高橋 たけしメモじゃん。
今野 「こんなホンビノスノ貝はイヤだ」。高橋さん!
高橋 えーと「内側の紫の部分が多い」!(笑)。まず、みんな、ホンビノス貝にピンと来てないでしょ。そこに答え出してもわかんないよ。
今野 3歩くらい先いっちゃってる。
高橋「やけにツルツルしている」!……誰にもわかんない。
今野 いろんな貝の使い方はどう?「枕にする」とか。
高橋 やだよ。絶対寝にくいよ。
今野 足で踏んでみたら? 気持ちよさそうじゃん。
高橋 それだったらホンビノス貝より北寄貝だな、殻がじょうぶだから。
今野 いいね。「踏んでみて、気持ちよさそうな貝ランキング、第一位は?」。高橋さん!
高橋 北寄貝! 丸くて踏みやすそう。あ、ちょっと待って。
今野 どうした?
高橋 (足下のビニール袋から貝を取り出しテーブルに置いていく)。ほら、これが北寄貝。
今野 ああ、なるほど、気持ちよさそうな形。
高橋 いいよねえ。やっぱ、サザエ(並べて)は踏んじゃダメでしょ。
今野 確かに。でも、健康な人だと逆にこのくらいが効く。
高橋 いや、まず割れると思う。
今野 そこはなしにしようよ。
高橋 でも新連載はじまってみてさ「踏んでみて、気持ちよさそうな貝ランキング」だったらもう読まなくなるんじゃないかなあ。
今野 そうかなあ。面白いと思うけど。
高橋 「オレは青竹だな」って思うんじゃない?
今野 それを言ったらダメじゃない。
高橋 でも、北寄貝はほんとに頑丈なんだよ。ちっちゃい鍋としても使える。ミル貝とか貝殻が薄いじゃん? だから、これに入れて焼いたりする。でね、最近気づいたんだけど北寄貝の黒ずんだところを剥がしてくとね、すごーくホンビノス貝に似てるんだよ。
今野 は?
高橋 (表面をちょっと剥がして)ほら。似てない? 内側の感じとかも、ね? ここの蝶番の感じの、なんていうの、立ってる感じとか似てるじゃない。
今野 うーん。ほかの貝を知らねえから、これが特別に似てるかどうかがわかんねえ。つか、なんでこんな貝殻持ってんだおまえ。
高橋 だって(二枚にわかれた北寄貝をカチっと合わせて)ほら、ピッタリ合うじゃん、ほら! ほら!!
今野 何が?
高橋 貝って、もともとひとつだった同士じゃないとピッタリ合わないんだよ。
今野 へえ。
高橋 夫婦の絆の例えとして使ったりする。
今野 ふーん。
お吸い物の具じゃないの? って
高橋 だから、コンビだって同じだよ。
今野 無理やり繋げなくていいんだよ。
高橋 (合わせた北寄貝をもういちど離して)こういうふうに、こっちだけ「下町ロケット」出ちゃいけないんだよ(笑)。片方がいないのはダメなんだから。
今野 だからよ、今、(コンビの関係性が)こうなっちゃってるからな(北寄貝の片方に小さな貝?を入れる)。
高橋 いや、どっちかっていうと(北寄貝を傾け、小さな貝?を外に落ちそうにして)。オレ今、こういう感じ(笑)。
今野 (小さな貝?を拾って)これは何なの?
高橋 サザエの蓋。壺焼きでみたことない?
今野 ああそうか、フジツボみたい。こんなまじまじ見る機会、絶対ないな。
高橋 子どものころ、これ持って帰らなかった?
今野 どうして?
高橋 民宿とかでこういうの出てくるじゃん。そういう時、絶対持って帰るでしょう。
今野 どうして?
高橋 持って帰ろうとすると、民宿の人に「すいません、これ、次のお客さんも使うんです」って言われてさ、けっこうがっかりして。ってことは、あのサザエ、中身はアカニシ貝だったんだって。今思えばね。アカニシ貝ってサザエの代用品として使ったりするんだよ。(貝を手にとり)ほら、これがアカニシ貝、泥底にいる貝。
今野 綺麗な縞だね。
高橋 そうでしょ綺麗でしょ。内側が蝋を塗ったみたいにつるんってなってる。
今野 ふーん。(手に持ったサザエの蓋を裏返して)あ、こっち側はツルツルしてるんだね
高橋 お、食いついてるね。
今野 これは箸置きになりそう。
高橋 ほんとに箸置きにしてるとこあるよ!
今野 (白い貝殻を手に取って)これとか石鹸入れて洗面所に置けそう。
高橋 牡蠣ね。ちょっと南仏風のイメージある。きれいだけど、ちょっと鼻につく。
今野 どうして?
高橋 なんていうかなあ、なんでこんなに白いんだろうな。
今野 マーメイドが座ってる感じがする?
高橋 そうそうそう! 中から美女が出てきそう。ヴィーナスが誕生するのは違う貝だけど。お姫さまっぽさが僕の貝観と合わない。飾りっぽい感じがイヤなんだよ。
今野 もっと、貝としてしか生きられない感じがいいの?
高橋 なんでこんなの持って来たんだよって思われそうなのがいい。お吸い物の具じゃないの? って。
今野 そういう自覚あって持って来てるの?
高橋 うん。
だからおまえ、ふつうじゃないじゃん
今野 そもそも、なんでこんな貝が好きになっちゃったの? どれから入ったの?
高橋 やっぱり火がついたのは、ホンビノス貝かな。ちょっと前まで日本に全くいなかったのに、急に増えたのが面白いし、ハマグリに形も味も似てて美味しいし。
今野 美味しいから好きってのは理解できるんだよ。そこから貝を集め出すのが、よくわからないよ。
高橋 いや、別に集めてるわけじゃないよ。
今野 集めてるじゃない(笑)。
高橋 たまったのを持ってるだけ。
今野 それを集めてるって言うんだって。
高橋 これは、たまたま家にあった貝を持ってきただけ。集めるってのはもっと本格的だよ。
今野 だって捨てるじゃん。
高橋 ふつうはね。
今野 だからおまえ、ふつうじゃないじゃん、美味しいものを集めないじゃん。
高橋 美味しい?
今野 この貝、美味しいなあ。よし、ずっと取っておこう、とはならないじゃん。
高橋 ずっとはないって。いつかは捨てるかもしれないし。
今野 捨てるの?
高橋 わからない。
今野 捨てねえ。絶対捨てないよ。
高橋 ほんとにコレクションって感覚はないの。まだ捨ててないだけ。なんとなく、捨てたくないっていう。
今野 もう、コレクション始まってると思うけど。
嘘ついちゃだめだから
高橋 これはね(貝を指差して)、前に光浦(靖子)さんたちの舞台(大久保佳代子劇団「村娘」2010年)に出たときに、舞台でハマグリ使いたかったんだけど時期的に全然手に入らなかったんで、僕が夜中に海に行って、ホンビノス貝を採って来たの。
今野 ああ、言ってたよね。
高橋 それに色をつけて、ハマグリっぽく見せた。黄色いインクと、あと、マジックで着色してヤスリかけてツルツルにして。ね、ハマグリに見えるでしょう。
今野 おまえ以外、これはホンビノス貝だからハマグリに見えないぞって気にするひといた?
高橋 いいや。でもぜんぜん違うから。ホンビノスみたいに白いハマグリは絶対ないから。
今野 テレビならまずいってこともあるかもしれないけど、舞台でしょう?
高橋 だって、触ってみ、ホンビノス貝みたいにざらざらしてるハマグリはないんだって。
今野 そんなのお客さんはわかんないよ。
高橋 触ったらわかるよ。
今野 触んないよ、お客さん。
高橋 いや、最前のお客さんが「あれ? 表面がホンビノス貝じゃん、ハマグリじゃないじゃん」って。
今野 なるかなあ。
高橋 嘘ついちゃだめだから。
今野 すごいなあ、おまえって……。
川下によく流れつくのを全部拾っとく
高橋 (足下からカゴを取り出し、改まった口調で)これは、潮干狩りをする時に、貝を入れるものです。
今野 (受けて)なるほど、こちらは、貝を入れるものですね。
高橋 水の上に浮かしておけますから、潮が満ちてるときでもだいじょうぶ。腰に紐で結んでおけば、なくすこともありません。網目から小さい貝は自然に落ちるし、わざわざ選別する必要もありません。
今野 最近は便利なものがありますね。ハンズで売ってるものなんでしょうか。
高橋 全部拾ったもので作りました。(口調戻して)こういうカゴはいくつあってもいい。川下によく流れつくのを全部拾っとく。
今野 もう貝っていう話じゃないよね。とにかくなんでも拾う。
高橋 違う違う違う。だから、こっちはいつか絶対捨てるよ。
今野 だからってなんだ。(諦めて)これは改良重ねた結果こうなったの?
高橋 いや、けっこう雑。よくなくしちゃったりもするし。ほんと超いい加減。落ちてるので作っただけだから、その場で。ヒモだって落ちてるやつだし。
今野 ケイクスさんでグッズつくてもらえよ。
高橋 おまえ、バカにしてんだろ。
今野 そんなことないよ、いいんじゃないの。これ型のストラップとかどう?(笑)。付けとけば、海で携帯沈まないっていうさ。
高橋 あ、それは本当にあるよ。食パン置いとくといいんだよ。
今野 食パン?
高橋 うん、潮干狩りの弁当。ここ(カゴとペットボトルを結びつけた部分)に置いておけば濡れないし。
今野 ……。
くっついてるのみんな牡蠣だよ
高橋 最近は、なかなか潮干狩りには行けてなくて。今の時期は、潮が深く引くのが夜中だからタイミングが難しい。春は、それが昼だから行きやすいんだよ。
今野 逆になるんだ。行くと何が採れるの?
高橋 だいたいホンビノスかな。あ、牡蠣も採れる、昔、羽田で採れた牡蠣食ったけど、すげえ美味かった。生じゃないよ。いや、一個だけ試しに食べてみたけど、それはさすがに怖いから。
今野 おまえが怖い。
高橋 でも、火を通して、ふつうにおじやにして食ったら、身がぷくっとしてて、親がほんとに美味しいって言ったんだから。なんだこの牡蠣はって。
今野 羽田にいるの?
高橋 そこら中にいるよ。おまえ、知らずに見てるよ。ふつうに海覗いてみ、くっついてるのみんな牡蠣だよ。水質の問題で抵抗があったり、たしかに、ちょっと黄ばんでたりするんだよ身が。
今野 売るほどのものではない、ってことか。
やめろよ、オレの貝で!
高橋 貝って、種類によって食べる部位が違うっていうのが面白くて。北寄貝だと赤いベロの部分、トリ貝だとぴろぴろぴろって黒くなってる部分。あれみんな足なんだけど。
今野 貝って歩くの? ああ、なんか、ぎったんぱっこん(片手をテーブルに立てて動かす)進んでるの見たことある。
高橋 基本的には足で動く。で、ミル貝は水管を食べるじゃん。あのちょっと卑猥なかたちのところをメインに食べる。
今野 それ以外は美味しくないの?
高橋 それがねえ、こないだ、ほぼ全部ちゃんと食べてみたんだけど、やっぱり、美味かった。ホタテも、貝柱以外はあんまり食べないけど美味しい。ウロって呼ばれる黒いところは食べない方がいいって言うけど、あそこも苦みがあって好きなひとは好き。逆にアサリって貝柱なんかほとんど食わないでしょ。
今野 面倒くさい。
高橋 でも、でかいのになると貝柱も食べでがあるよ。マイルドセブンのフィルタくらいあって。今、名前違うのか。
今野 メビウス?
高橋 うん、メビウスのフィルタくらいある。
今野 別に、煙草の、でいいじゃん(笑)。
高橋 牡蠣はまるごと全部食べるじゃん。
今野 うん。
高橋 牡蠣は移動しないから足が退化してほとんどないわけ。アサリとかホンビノスとかはむにむに動く。そういう貝は足を食うね。サザエは内臓が美味しいし、可食部の違いを考えても貝はほんとに面白い。
今野 あ、……鼻血だ。
高橋 ええっ! なんで?
今野 だって、この部屋暑いから。(ティッシュを鼻に詰めて)気にしないで続けて。で、貝のどこを食うって?
高橋 (窓をあけて換気しながら)いや、無理だよ無理だよ、気になるよ。……寒いよ!
今野 しょうがないだろう。
高橋 もしかして、おまえ……エロいこと想像しただろう、貝で。そういう中学生みたいなとこあるからな。やめろよ、オレの貝で!
今野 ないよ!
高橋 おまえのマテ貝がでっかくなっちゃってるんじゃないのか?
今野 アワビはないの?
高橋 そんな高級な貝は持ってないの!
今野 生きてるアワビ。
高橋 最低だなおまえ……。貝の仕事するにあたり、それだけは言うまいと思ってたのに。ほんとにもー、なんで鼻血出す(笑)。
キングオブコメディ
2000年にプロダクション人力舎のお笑い養成所「スクールJCA」同期生の高橋健一と今野浩喜が結成。2005年「第3回お笑いホープ大賞」受賞、2010年「キングオブコント」優勝。サイゾーテレビでトーク番組「ニコニコキングオブコメディ」隔週木曜配信中。 人力舎キングオブコメディページ
今野浩喜
こんの・ひろき 1978年生まれ。TVドラマ「下町ロケット」「三人兄弟」2016年NHK大河ドラマ「真田丸」出演、映画「愛を語れば変態ですか」など、役者としても活躍、高く評価されている。西武ライオンズ・大宮アルディージャの大ファン。