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文科省は国立大をどこに持っていくのか

2015/12/27付
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 相次ぐ指示への対応に追われ、教育・研究にじっくり取り組む環境が損なわれる一方だ――。

 文部科学省の大学行政をめぐって、国立大の間にこんな不安が広がっている。たしかにこの1年、同省が矢継ぎ早に示した方針には疑念が少なくない。文科省は国立大をどこに持っていくのか。

 大学関係者からの批判がとりわけ強いのは、全国の国立大にあてた6月の通知だ。文科省は教員養成系学部や人文社会科学系学部について「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組む」よう求めた。

 不用意に「廃止」にまで言及した通知に、「文系つぶし」だという反発が巻き起こったのは当然だろう。経団連も「産業界はそうしたことを求めてはいない」と突き放している。

 文科省は「誤解を招く内容だった」と釈明しているが、通知自体は撤回していない。10月に就任した馳浩文科相は、この文書を「32点くらい」と評した。そこまで問題の多い通知を、なぜいまだに撤回しないのか。それとも「文系つぶし」が本音なのだろうか。

 同省は来年度から国立大を「世界トップ水準を目指す」「特定の分野で拠点となる」「人材育成や研究で地域に貢献する」――の3つの類型に分け、その枠ごとに取り組みを評価して補助金を傾斜配分する仕組みも導入する。これについても効果より弊害が大きくならないか、疑問が残る。

 もちろん、国立大にも一定の役割分担はあろう。税金を使うからには資金配分にメリハリも大切だ。とはいえ、すべての国立大を単純に類型化するのでは大学の持つさまざまな可能性を摘み、序列化を強めかねない。地方での地道な研究からもノーベル賞学者が生まれることを考えてほしい。

 収入の大半を占める運営費交付金の減額も、国立大の大きな悩みだ。来年度予算ではとりあえず据え置きとなったが、2017年度からは毎年約0.5%ずつ減らすという。将来は授業料などにはね返る心配がある。

 国立大にも自助努力は必要だが、おのずと限界はある。高齢者向けに偏った歳出を見直し、若年層向けの予算へのシフトを図るなかで大学予算の充実を検討したいものだ。文科省は教育・研究の中身に口を出して大学を萎縮させるのは慎み、もっと金を出せる仕組みづくりに注力すべきである。

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