関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転を禁じた福井地裁の仮処分決定が取り消された。関電は来月下旬にも再稼働に踏み切る見込みだ。

 だが、司法判断の直前に完了した地元・福井県の同意手続きには問題が多い。このまま再稼働へ進むことには反対だ。

 福井県には廃炉が決まったものも含めて15基の原子炉が集中する。西川一誠知事は同意にあたって五つの条件を掲げ、国と関電に責任の明確化を迫った。

 福島第一原発事故後、原発再稼働に世論は一貫して慎重だ。西川氏は「国民理解の促進」を国に強く求め、安倍首相から「全国各地で説明会を開く」との言質をとった。

 関電には使用済み核燃料の中間貯蔵施設を県外につくる時期の明示を求めた。関電は11月、「20年ごろに場所を決め、30年ごろに操業する」と表明した。

 西川氏は、条件がすべて満たされたとの認識を示した。だがこれらの約束がどれほど内実を伴っているかは疑問だ。

 関電は以前から「中間貯蔵施設は関西に設置したい」と自治体への説明を続けてきた。しかし反発は強く、めどは立たない。結局は「空手形」ではないか、との疑いが否めない。

 一方、西川氏はどこまで自身の責任を果たしたか。

 「原発の安全性や必要性は国や事業者に説明責任がある」とし、県主催の住民説明会は開かなかった。30キロ圏に京都、滋賀両府県を含み、計約18万人が暮らす高浜原発周辺の避難計画は今月まとまったばかり。だが西川氏は「法律上、避難計画は再稼働の条件ではない」と述べ、府県境をまたぐ訓練も待たずに同意に踏み切った。

 地元同意は本来、住民の安全と安心を高めるプロセスのはずだ。だが、九州電力川内原発(鹿児島県)、四国電力伊方原発(愛媛県)に続き、望ましくない「ひな型」がまた一つ増えたのは残念というしかない。

 国の再稼働ありきの姿勢もより露骨だった。林幹雄経済産業相は司法判断の4日前に福井を訪れ西川氏に同意を要請した。

 原発周辺の自治体や住民には、再稼働の判断に関与できないことへの不満が強い。高浜でも京都、滋賀両府県が立地自治体並みの「同意権」を求めたが、関電は応じていない。国も「地元同意は法令上の要件ではない」と静観するばかりだ。

 安倍首相は「原発の重要性に国民理解が得られるよう説明していく」と述べた。それならば「地元」の範囲についても方向性を示すべきではないか。