■新型セクハラとはなにか
新型セクハラという言葉を聞いたことはあるだろうか?新型うつはあるが新型セクハラ?という向きも多いのではないかと思う。働くひと達の感じ方が世の中の価値観と共に急速に変化する中、ハラスメントも様々な形態で派生してきている。新型セクハラとは「疑似恋愛型」と呼ばれるものである。一方の強い思い込みにより相手の真意をつかめず、意識のズレが原因で起こるセクハラである。
例えば、一方が「自分に気がある」と思いこんで行動に及ぶが、相手方にはその気は一切なく不快・苦痛を与えてしまうケースである。実体がない性的行動に及ぶ点から「疑似」であり「恋愛」という訳である。自分は相手が気があると思いこんでいるが、実は相手方はそうは思っていない、言葉を変えれば互いの意識のズレまたは妄想型セクハラとも言える。
■新型であるがゆえの怖いリスク
この新型セクハラは従来のセクハラとは異なった怖いリスクをはらんでいる。それは「知らず知らず気づかぬうちに」セクハラになってしまっているという点である。加害者本人は相手から好かれていると思いこんでおり、その意識下で行動してしまっている。そのため罪の意識がない。気づかぬうちにコンプライアンス違反をしていることほど怖いリスクはない。
ちょっとした知識・意識がないことで地位の喪失・解雇・職場環境の悪化・レピュテーション被害という損失に実例としてつながっている。
■原因はどこに
セクハラやパワハラに関するハラスメント情報は今や世にあふれかえっている。ハラスメント事件のメディア報道も枚挙に暇がない。各企業・経営者もそれなりに取り組んでいる。にも関わらず、行政へのハラスメント相談内容件数が3年連続のトップ(平成26年度の個別労働紛争相談内容・都道府県労働局雇用均等室相談内容)であることは大きな課題である。それに加え、このような新型ハラスメントが登場する事態である。
真の原因はどこにあるのだろうか。当職としては、自己中心的な思想とこれをしたらどうなるという想像力の欠如にあると考える。要は「相手を思いやる心」である。これが、企業内の比較的地位も年齢も高い層が行ってしまっているというのが驚きなのだが。長い経験に裏打ちされた高い見識をもつべき管理職層から襟を正す必要がある意味で問題は根深い。
■有効な解決策は
セクハラの定義は雇用機会均等法第11条に定められており、法的根拠が明確である。同じハラスメントでも法的根拠がないパワハラと異なり()業務の必要性を超えて広く「人の嫌がることをしない」ことが原点である。どんな場合でも労働環境を悪化させない意識と善悪の判断の為の正確な知識が一人ひとり、特に管理職に必要である。
そのために経営者や企業がすべきことは、ルールの整備・明確化、「定期的な」研修による正確な知識のインプットと啓蒙である。企業の監査業務をする中で感じることは、ルールの作成や整備(いわば器)ができてている企業は多いが、それがキチンと運用され、従業員に浸透され、検証(監査)が十分なされている組織は多くないことである。これは組織の規模や歴史を問わないリスクであり、経営者が留意すべき点である。特にグローバルに進出している企業においては商慣習や文化の違いもあるためなおさらであろう。ハラスメントに限らず、この点でのコンプライアンスリスクがあることは2015年の企業不祥事件、東芝・フォルクスワーゲン・旭化成建材等々の実例を見ても歴史ある大企業が例外でないことは実証されている。
働く人たちへの実務的なアドバイスとしては、男性は、女性がはっきりとノーを言わないことを「じらし」ではなく、「男性への配慮」としてとらえる必要がある。特にマネジメント層にいる人は相手との優位性(力関係)を冷静に認識しかこつけることのない良好なコミュニケーションを心がけたい。
■最後に
「好意」と「尊敬」は別物。自惚れや勘違いにはご注意を。自戒を込めての言葉である。
【参考記事】
■「パワハラ」には実は法的根拠がない?
(丹羽教夫 社会保険労務士・CIA)
http://sharescafe.net/45199615-20150616.html
■コンプライアンス違反の本当の怖さとは?
(丹羽教夫 社会保険労務士・CIA)
http://sharescafe.net/44966949-20150530.html
■退職時に有給消化をする従業員は「身勝手」なのか?
(榊裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/40070575-20140728.html
■退職したら損害賠償で訴えるぞ!は法律上の根拠があるのか単なる脅し文句なのか? 〜ダンダリン第5話の補足 (榊裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/34421797-20131030.html
■「出世したくない」人の未来 (増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/46742045-20151030.html
丹羽教夫 社会保険労務士/CIA
この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2015年12月25日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。