[写真]フィンランドの首都ヘルシンキ。フィンランドではベーシックインカムの給付実験に向けた動きが進んでいる(アフロ)

 今月、テレグラフやタイムズなど、伝統あるイギリスの新聞が、フィンランドで「ベーシックインカムの導入が決まった」と報じました。これは、誤報です。英字紙記者が、情報源のフィンランドの地方紙の記事を読んだ際に、フィンランド語の知識が十分ではなく誤解してしまったもののようです。他の英字紙も、情報の真偽を確かめることなく追随し、日本メディアもそれに続きました。

 ただ「火のない所に煙は立たない」という諺はこの場合も当てはまり、フィンランドでベーシックインカム導入に向けた動きがあることは事実です。フィンランドの私の友人たちもこの動きに関わっていますので、経緯と現段階について報告しましょう。(同志社大学教授・山森亮)

ベーシックインカムとは?

 ベーシックインカムとは、働いているかいないか、所得の多い少ない、などにかかわらず、すべての人に等しく権利として、生活に足るだろう所得を給付する考え方のことです。考え方には200年余りの歴史があります。

 現在わたしはベーシックインカム世界ネットワークという組織の理事をしていますが、この組織では、ベーシックインカムの定義から「生活に足るだろう所得」という給付水準の定義を除外しています。

 先だってもヨーロッパの参加者から、この定義を加えるように動議が出されましたが、アフリカの参加者から、強い異議が出たこともあり、除外したままとなっています。(1)個人単位、(2)資力調査なし、(3)稼働能力調査なし、(4)生活に足る水準、という4つの定義のうち、最後のものを除けば、アメリカ合衆国のアラスカ州で、石油収入を州民に給付するという形で現に実現しております。今年度は一人年2000ドル程度だと思われます。

[写真]ベーシックインカムを憲法に盛り込むことの是非を問う国民投票を求める12万6000人分の署名をスイス連邦議会に提出する市民たち。左から二人目は運動の共同設立者の一人エノ・シュミットさん(2013年10月撮影)

 またブラジル・リオデジャネイロ州の人口15万ほどの都市マリカで、10ヘアイス(約320円)相当の地域通貨を、今月より毎月全住民に給付するというニュースが、数日前に飛び込んできました。4つ全ての定義を満たす制度を法制化している国としては、ブラジルがありますが、法律は税改革と手を携えての段階的導入をうたっており、現時点では所得制限付きの児童手当が導入されているに過ぎません。

 スイスでは来年、ベーシックインカムを憲法に盛り込むかどうかの国民投票が行われることが決まっています。これはベーシックインカムを求める市民たちが(スイス全人口約800万人のうち)約12万6千人の署名を集めた結果です。

 スペインで12月20日に行われた総選挙では、ベーシックインカムを要求項目に掲げている政党ポデモス(THE PAGE関連記事)は、大躍進し第3党に躍り出ました。

 それでは、フィンランドでは実際にどれくらいベーシックインカム導入に向けた動きが進んでいるのでしょうか。

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