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かっこいい男の子になんて生まれたくなかった

昨日まで少年ハリウッドが無料配信だったので7話まで観ましたというエントリです。無料配信のうちにエントリを上げて「みんな観ようぜ!」って言えなくて本当にすまねえ。バンダイチャンネルで買えます12話1800円。二期の方はバンチャの見放題に入ってるよ

「アイドルをこじらせている人間の課題図書(図書ではない)だから絶対に観るように」とずっと言われていたんですが、冬コミの原稿に追われていたあとぐだぐだおそ松さんの話をして時間を費やしてしまい焦ってどうにか7話までやっつけたので8話以降はまたいずれという感じで、いや買って観ればいいんですけどヴァルキリードライブマーメイドの無料配信が27日までで、入れ違いにグレンラガンの無料配信が始まります、全部「おまえはこれを早く観るように」と言われておりました、何だよこのマラソン! カロリー過多で血管詰まって死ぬよ!!!!!!!!!!! ちなみに鉄血のオルフェンスもおまえは絶対観るように案件なんですが今期おそ松さんで手いっぱいなので手が空いたら観ますというか年末年始にどうにか片付かんかなと思ってたらグレンラガンが来ました。許さない。わたしは中島かずき脚本作品を観ると泣きながら死んで記憶を失うほどにうちのめされるということをもう知っているんだ……。

 

というわけでしょはり7話までしか観れてなくてすみません、7話までの感想のエントリです。

エントリの趣旨は「アイドルとして生きることのつらさと、アイドルを消費することのつらさ」です。

 

まず少年ハリウッドというアニメですが、「ハリウッド東京」という劇場においてかつて人気アイドルであった「少年ハリウッド」というアイドルグループがあって、彼らが第一線のアイドルだった時代をぎりぎり知ってるか知らないかくらいの年頃の少年たちが、「少年ハリウッド」の名を引き継いでアイドルデビューしアイドルとして活動をしていくという内容です。のはずだ(デビューまでしか観れてないんですが)。ややこしいので今後「少年ハリウッド」とカッコでくくったらグループ名のことということにしてください。

なんだけども、アニメからソシャゲまで二次元アイドル氾濫期である現在(2014年夏アニメなのでまさに氾濫期のアニメって感じだ)において、少年ハリウッドは完全にカウンターを張っているアニメで、これは「イケメンに萌える」ためのアニメではない。まず「アイドルアニメなのに絵柄が萌え絵ではない」という時点で「そういうことではないです」ということがはっきり明示されている。アイドルの衣装が頭おかしいのはほかの番組でも、というか三次元(二次元に対応する意味での三次元)アイドルの衣装だってたいがいなのであれですがにしたってって感じだし、そもそも7話の時点でほぼほぼあいつらジャージです。だいたいロゴからしてダサい。

そして話は「退屈な日常」の完全に延長としての「退屈なレッスン」からまず立ち上げられ、そこにはドラマティックなものは何もない。主人公のカケルは作中で「アイドルにスカウトされるのも部活に誘われるのも一緒」と言及するんですが、少なくとも彼にとっては「誘われたからなんとなく流れで退屈なレッスンに参加していて、やれと言われたので演技なんか恥ずかしいけどやってみてる」だけ、驚くほど凡庸な空間が提示されて、その凡庸さは凡庸さのまま、宿命的に冗長さを伴って提示されます。

このアニメはモノローグと長台詞で溢れていて、「いやそれ喋る必要ある? これ喋らせすぎなんじゃないの? そこは喋らないで絵だけで見せたほうがいいんじゃないの?」みたいな量彼らは自己言及を繰り返す。「物語を台詞で説明してはいけない、台詞を吐くとき既にその台詞を吐く説得力が提示されているべきである」というのは作劇の基本的な原則だと思うんですが、その原則を裏切っているようにすら見える。

 

少年ハリウッドというアニメは「ちょっとかっこいいだけの男の子」が、「退屈な日常」の延長としてアイドル候補生をやり、混乱のさなかで自分の考えを懸命に整理しながら、アイドルという「客体」を選択する話です。

 

このアニメ、音だけ聞いていると正直本当にたるくて、それはその台詞とモノローグが「本当はなにもわかっていない少年たちの、自分のナイーブさすらろくに理解していない自意識」だけを述べ続けているからです。彼らがそういうことを言うだろうなというのは、正直観ているこっちからしたら、「知ってるよ」と思う。「知ってるから黙って頑張れよ」という感じすらする。でもその声はずっとそこに流れていて、そうしてそれは彼らが「今感じていること」ではあっても、「今起こっていることそれ自体」ではない。

何故なら彼らは今何が起こっていて自分がどこにいて自分が本当はなにを求めているのか、全然わかってないからです。だから「いやそれいちいち喋らなくても知ってるよ、そりゃそうだろうよ、説明してくれなくてもいいよ」みたいなことになるし、その上で彼らは、彼らの対話において、「相手が何を言っているのかろくにわかってない」状態のまま、でもなんとなく何かを「わかって」、明確に、ひとつのチームになっていく。

 

彼らは自分たちが「どうしてかっこいい」のかすら知らない場所からスタートして、「何になればいい」のか不明瞭なまま、彼らをアイドルとして育てようとしている「シャチョウ」、「シャチョウと名乗る謎の男(具体的に何の社長なのか全く不明なのでこれただの通称っていうかあだ名っていうかという意味でカタカナのシャチョウなのだと思われる)」が語る、「アイドルとは何か」「君の持つ輝きとは何か」「ここで生きる絶望と希望について」の言説が「意味わかんねえ」まま、舞台の上に立って、拍手を受けて、「何か」を掴んで、彼らの精神的な意味での事実上のデビューをようやく飾る、というところまでがとりあえず7話でした。

彼らはたくさんの言葉を費やして何かを語ろうとするけれど、本当は何を語るべきなのか「わかってなどいない」。自分のことも、仲間のことも、アイドルになるとはどういうことなのかも、全然わかっていない。わかっていないままここに来てしまった。等身大の男の子のまま、「ほら見て、ぼくはかっこいいよ、きみのためにかっこいいんだよ」と言う地点に立ってしまった。

 

7話が怖いんですよ。

そこまでで彼らは自分の抱える問題点と癒されないまま抱え続けてきてこれからも癒される予定は特にない傷について提示する(シュンの回だけ観れてない、このあとあるはずだ、でもまあシュンの傷が何であるかは説明される前から既に自明である)んですけど、7話でカケルは「歌うことができない」、いや音を出してそれなりに音程を合わせて声を張ることはできて特に音痴なわけではないんだけど、あらゆる人間が「おまえの歌はなんとなく気持ち悪い」「聞いていて恥ずかしくなる」「何とも言いようがない」とずっと言われ続ける。

「少年ハリウッド」は五人グループなんだけど、リーダーのマッキーは元ヤンの高校中退で社会ドロップアウトで居場所を探していて、、最年少元子役のキラは子役としての耐用年数切れで再起を図っていて、ムードメーカー「運気上昇担当」のトミーは身寄りがなく今でも養護施設からレッスンに通っている上でアイドルに夢と救済を求めてよりによって同郷出身の憧れのアイドルが「夢に挫折し仲間を失ってやっぱり今でもひとりで生きてる」と知らされた上で憧れのアイドルの名前とポジションを相続し、そしてシュンの回はわたしまだ観れてないんだけど「本当はバンドやりたかった、音楽がやりたい、歌いたい」のに「夢の近くにいるほうが、むしろかえって絶望的だ」とおそらく感じながらそれでもここにいれば歌うことができる。

あとの四人には「少年ハリウッド」であることで何を掴みたいのか明確な理由があります。

でもカケルには別に何もない。流されるままにここに来て、抵抗する理由もないから与えられたカリキュラムにしたがっているだけ、素直な子なので与えられれば与えられただけやるけれど、彼には「歌う」理由がない。

7話のカケルの問題は「歌えないのはおまえの自意識の問題だ、恥ずかしがってないでこっち側に来い」という形で表層的には処理されていてたしかにそれで成り立っていると思うんだけども、でもこれ自意識の問題ではないというふうにわたしには見える、カケルに足りないのは「心」です。声を張り上げて歌って「俺はここにいる」「俺を見ろ!(マッドマックス怒りのデスロード)」と絶叫する理由はカケルには全然ない。

そうしてそれはつまり、「カケルは歌えないでいる限り、アイドルになんかならなくてよかった」ということでした。

 

リーダーのマッキーはおそろしくナイーブな少年であるにも関わらずそのナイーブさに蓋をしてちょっとウッカリだけど頼れる兄貴というのを演じてしまっているんですが、彼は1話で「電車で突っ立ってるだけで女子がチラチラ見てくるのっていじめとどう違うんだ」というあまりにも率直にナイーブなことをカケルに言って、カケルは全然それが分からない、マッキーは「本当に格好いい奴はそんなこと気になんねえんだな、俺恥ずかしい」って言うんですが、マッキーが言っていることは正しいんですよ(マッキーが言っていることはいつも正しいのです)。マッキーは自分が「客体」であること、背が高くてイケメンに生まれついたというだけで特別な存在と呼ばれることにそもそも傷ついていて、だから今度は人にメンチ切る側に回ってみたけどそれはマッキーにとって明確に不正義だったので(本当にマッキーは正しいのである)、今度はアイドルをやってみている。

マッキーは「かっこいいね、すごいね、目立ってるね、おまえそっち側の人間だよね」と言われることをぼんやりとつらく感じながら生きていて、褒められるのもいじめられるのも同じことだろ、「お前は違う」「お前と対等になるつもりはない」って言われてんだろ、ということに気づいている。

そしてそれこそが、「アイドルになることのつらさ」だということを、シャチョウは知っているし元子役として壮絶な人生を歩んできたキラも知っている。

 

7話で彼らはカケルを歌わせるために路上でミュージカルをやりながら街を跳ねまわった結果衆目を集め、結果的に路上ライブをやって拍手をもらうんですが、カケルは、自分がかっこいいことにすら気づかずに生きてこれて、別に目的意識も何にもなくて、カケルは彼らのミュージカルを「なんだよあれ」「気持ち悪い」「迷惑」と指さす側、彼らに拍手を届けるし彼らに期待を寄せるし指さして嘲笑するしこれから頬杖をついてカジュアルに消費して批評することができる側を生きる権利があった。カケルはそっちに戻れた。あとの四人は「少年ハリウッド」に賭ける理由があります、でもカケルは「少年ハリウッドであると歌い上げる」ことができないでいる間はまだ、「あちら側に帰ることができた」。

そしてカケルは結局最後まで「どうして自分は歌うのか、いったい何を歌いたいのか」を全く見つけられないまま、ただ彼の仲間の四人があまりにも楽しそうに上手に歌ってカケルにおまえも来いよと言うものだから、彼らの情熱をそのからっぽの心にインストールされて、外注された衝動に導かれるままに「ぼくら少年ハリウッド」と歌ってしまった。

 

アイドルになるということは客体になるということで、客体になるということは電車でチラチラ見られる以上のあらゆる感情をぶつけられる対象に担ぎ上げられるということです。その人生は栄光とともにおぞましいほどの量の「裏切り、罵倒、過剰な期待、身勝手な信仰」とともにあるということは、物語の中で既に提示されています。でもカケルはこちら側に来てしまった。それが本当にしたいのかどうかもわからず。でも本当にしたいことなんてみんな別にわからないまま何かを選ぶんじゃないか?

 

そして彼らがアイドルとして客席に提供し笑いながら歌い上げるのは彼らの持つ傷と空虚さそのものです。彼らは守ってもらえなかったし愛してもらえなかったし居場所がなかったしこんな場所に本当はいたくないしそうして何をいうこともできないほどに空虚である、彼らは自分たちのそういう欠落そのものを「ほら見て! これが俺の個性だよ!」と歌い上げ、というかこれを歌い上げるようにという残酷なほどに的確な台本が与えられそこで言及されていることの残酷さがどれほど自分を抉っているかおそらく本人もまだ気づかないまま演じ切り、そうして客席の人々は「すごいね、きれいな傷だね、かっこいいね」と言って拍手をしている。

 

本当に残酷なものを、救済も留保もなく、突きつけられていて、しかもこの話の中で「アイドルの耐用年数はすぐ切れる」ということは既に言及されています。初代「少年ハリウッド」は解散してほとんど芸能界に残っていないし、初代がかつて少年だったころ語った夢はなにひとつ叶っていない。二代目である彼らもまた、ここで栄光を勝ち取ったとしても、次の人生を歩まなくてはならないでしょう。

そのような人生、かっこいい男の子に生まれてしまったということを受け入れてコンテンツ消費されることを受け入れて客体であることを受け入れてそれを武器にして生きて、そうしてそこにある栄光と栄光に含まれるあらゆるネガティヴな要素を受け入れたまま、「客席」に帰っていく人生を、見据えながら生きてゆくということ、を描いているアニメなんだと思います、たぶん。

 

そしてかっこいい男の子に生まれなくたってあらゆる人間が誰かの客体で、あらゆる人間が職業を選択して、あらゆる人間が自分が自分であることを受け入れて生きていくのであり、彼らが生きている舞台は、このアニメを観ている時たしかに、わたしたちの生きている舞台です。

 

 

 

 

これ余談なんですけどわたしおそ松さん5話エントリがバズってちょっとした時の人になったときにわたしわりと「どうでもいいと言えばどうでもいいしインターネットというのはそういう場所だということは知っていたからずっとスルーできていたはずだったんだけど」という程度の罵倒を、ええとまあストレス過多で鬱で死んで深刻な人間不信に陥って友達にすら愚痴れなくなる程度に受けたんですけども、もうやめて全部捨ててサイトとアカウント消して引っ込んでよっかなと思ったんですけども、「エエイここで逃げてられるか、話題になったってことは俺はおそ松さん公式に客を引っ張れるんだよ! みんなで作ろう社会現象!」つって意地になってエントリ更新し続けてきたんですけど、少年ハリウッドが「いや、まあ、かっこいい男の子をやるのはしんどいよ」から話を立ち上げて「ほら俺しんどいんだよすげえだろかっこいいだろざまあみろ俺を崇めろ!」みたいな地平でフツーーーーーーーに拍手を受けてあいつらがアイドルに「なった」ことに、まあこう、

ありがとうございました今見て良かったです。無料配信ありがとうございました。続き買うね!

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