米私立工科大学助教であり、現代アートの世界で注目を集めるアーティスト、スプツニ子!氏。東京・秋葉原に、ものづくりの最先端ワークスペース「DMM.make AKIBA」を立ち上げ、ベンチャーやプロダクトへの投資・育成を積極的に行う小笠原治氏。様々な分野でモデリングやシミュレーションに活用されるダッソー・システムズの新世代開発支援システム「3Dエクスペリエンス・プラットフォーム」を囲み、ものづくりの発想や環境、価値、未来について語り合った。
スプツニ子!氏(以下、スプツニ子!): DMM.make AKIBAを初めて案内していただいたとき、こんな場所ができたんだってものすごく感動しました。こういう場をつくれるのはどんな人なんだろうと、私の中で小笠原さんは謎の存在です(笑)。
小笠原治氏(以下、小笠原): ですよね(笑)。チームができるときは、まずモノがあって、そこに人が集まってくるのが普通です。けれど、スプツニ子!さんの場合は「スプツニ子!」という存在があって、みんなが関わっていく。そういう印象です。
スプツニ子!: DMM.make AKIBAも、みんなが関わっていく場所ですよね。そういう場を秋葉原の駅前に、しかもそこでモノをつくるだけでなく、インキュベーションにもつながっていて。
小笠原: 20代のときに自分が欲しかった場所なんですよ。それを、ものづくり界隈でつくったらどうなるんだろうという実験ですね。
スプツニ子!: ワクワクさせてくれます!
小笠原 たぶん僕自身は作品づくりはニガテで、場とか、環境とか、立ち上げしかできないんです。でも立ち上げれば、その先をやってくれる人が集まってくるじゃないですか。
スプツニ子!: プラットフォームづくりですね。
小笠原: そう! 立ち上げているところを見せることで、仲間を集める。実際に、それで集まってくれたと思っています。また、つくる側だけではなく、縁の下の存在も欠かせません。DMM.make AKIBAに関していえば、導入機器の選定こそが“製品試作をつくれるAKIBA”というビジョンの実現に不可欠でした。アドバイスをお願いしたプログレス・テクノロジーズさんは、メカ、エレキ、ソフトすべての領域の技術者を抱えていて、つくる側の気持ちや要望を踏まえた素晴らしい働きをしてくれました。
スプツニ子!: いま、現在進行形で、DMM.makeのあの場にコネクションが生まれてますよね。
小笠原: そうですね。例えば、心拍のアルゴリズムで犬の好奇心やストレスを測る「犬パシー」。来ていただいたときはまだちょっとデザインがダサい感じでしたが、それがいま、同じくDMM.make AKIBAに入居している、義手製作のイクシーって会社がデザインを手伝って、犬が着けてもかわいいものになりました。
スプツニ子!: そういうコラボがあの場で起こっているというのが本当に素晴らしいですね。
スプツニ子!: 私の研究室の学生が「犬パシー」に興味を持っていて、犬の心拍データをアーカイブしておけば、ペットが死んで悲しいときにそのデータを再生できるかな、と。
小笠原: 絶対アリですよ。犬の3Dモデルがあれば、表情なんかも再現できるかもしれないじゃないですか。CATIA(キャティア) 3Dエクスペリエンスならビヘイビアを与えられるので、動く3Dモデルをつくれますよね。
スプツニ子!: 再現してくれるロボットもつくれちゃうかも、とか。まさにそういう妄想が、アートっぽいけどビジネスともつながる交差点みたいなところにあって、私は“うっかりベンチャー”って呼んでるんです(笑)
小笠原: 新しいものづくりも、そういうところから生まれる気がする。
スプツニ子!: クラゲのタンパク質を竹に入れたら、光る竹の建築資材がつくれるんじゃないかと妄想してたら、竹を切ってしまうと光らなくなることが分かって、ビジネスとしては崩れてしまいました(笑)。でもいつか、崩れないものが出てくるかもと。
小笠原: やり続けていると、何か当たりますからね。以前、フェロモンが入った何かもつくってませんでしたっけ?
スプツニ子!: 愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンが入っているシルクですね。それを使ってドレスをつくったらガチの勝負ドレスだろって(笑)。車のシートに入れたらデートの成功率も上がりそうですよね。
小笠原: 買うとき少し恥ずかしい(笑)。
スプツニ子!: アートとベンチャーって誰も想像しないものを“創る”という意味で近いと思うんです。
小笠原: マーケティングとは関係のないところから、すごいモノが生まれてくるってことだよね。
スプツニ子!: そぉっ! すごいモノかも知れないけど、変わったものは生まれやすいですね。
小笠原: マーケティングって、デザインを削っていくじゃないですか。いいデザインがあっても、マーケティングがバサッと切っちゃう。だから丸くなっていくんです。デザインから始めたほうが、ほんとはもっとエッジの利いたモノがつくれるのかな、と思います。
スプツニ子!: そこに人のコネクションがあって、デザインをプロダクトにできるツールもあれば、また面白い展開になりますよね。
中山岳人(プログレス・テクノロジーズ*代表取締役社長): 3Dエクスペリエンス・プラットフォームの上では、様々なプロダクトを描けるのはもちろんですが、街や建物を描いて都市計画に使えますし、分子構造まで描けます。モデルとなるものに動きを与えて、シミュレーションし、実際に製造のところまで力を発揮します。
小笠原: そういうツールがあれば、アートやデザインをぽーんと放り込んで、その先をできる人に渡してしまえる。そうなると一気にマーケティングを飛び越せるじゃないですか。
スプツニ子!: フットワークがすごく軽くなる気がします。あと、自分のアイデアを形にしようと狩人的に動く、たくましい人がたくさん出てきそう。
小笠原: たくましいっていうのは、ものづくりでほんと大事なキーワードなんです。そして、たくましく創る人のところに人が集まってきて、つながりが生まれる。
手塚成道(ダッソー・システムズ執行役員): つながるという点でいえば、3Dエクスペリエンス・プラットフォームはソーシャルでつながって作業を行えるコミュニケーションツールの要素も持っています。
小笠原: そこが面白いと思います。このプラットフォームが提供するソーシャルの中にソースを置いてしまって、いろいろ言い合いながらそれを使ってコラボできるようになったらいい。デザインのオープンソースって今までにあんまりないじゃないですか。
スプツニ子!: これまではコードがオープンソースの主流だったけど、デザインのオープンソース化の流れはこれからが面白そうですよね。
小笠原: そこから、デザインをプロダクトにしたい人が出てきたりとか、そういう“シード(種)”を置ける場所になると楽しいですね。
スプツニ子!: 大勢でつくる何か!
小笠原: それと、このプラットフォームが有効なのは、従来のCADのようにファイルベースではなく、全部をデータで持っているところ。デザインって、つくっていく過程もデザインだと思うので、データを他の人も使えるのはオープンソース化に絶対必要だと思います。
* プログレス・テクノロジーズは、ABBALabのカンパニーフェローとして、DMM.make AKIBAの立ち上げを技術的な側面で支援している。クラウド版の「CATIA 3Dエクスペリエンス」をはじめ、導入機器の選定などについてもアドバイスを行った経緯がある。
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