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20060703Mon

[][] 萌理賞 - ミミナシ・イチホ (490文字) 12:54  萌理賞 - ミミナシ・イチホ (490文字)を含むブックマーク

彼女には耳がなかった。


放課後の屋上。いつものようにおれがマンガを読んでいると、突然目の前の床が光を放ち始めた。周囲の空気チリチリと音を立てる。わずか数秒の出来事だったと思う。光がおさまったとき、そこに彼女がいた。

腰まで伸びた黒髪、知らない学校制服外国人かと思うような白い肌。

顔、腕、足、とにかく肌の見える部分すべてに呪文が浮かび上がっている。空間移動系のコードに似ているが、おれの知っている魔法体系じゃない。全身を覆うほどの高密度積層魔法なんて聞いたこともない。

けど何より目をひいたのは。

彼女には耳がなかった。


彼女がふらふらと立ち上がる。目の焦点があってない。

「…ここは…どこですか?」

屋上、って答えそうになってそういうことじゃないと気付く。

東京の…三鷹市だけど…」

三鷹! わ、わたし、三鷹女子3年 柚木イチホです! じゃあ帰ってこれたのね!」

帰ってこれた? 全身呪文は何かの帰還魔法なのか?

こちらへゆっくり歩いてくる彼女が、急に立ち止まった。おれのほうを見て目をまるくしている。

「え? なにそのネコ耳? コスプレかなんか?」

どうやら、彼女が戻りたかった世界はここじゃないらしい。