軽減税率論議/なおざりにされた導入目的
来年夏の参院選をにらんだ選挙対策が優先され、本来の目的である低所得者支援をめぐる議論はなおざりにされた観が否めない。残念だ。
2017年4月の消費税10%への引き上げと同時に導入される軽減税率制度をめぐる自民、公明両与党の税制協議である。その対象品目については大筋でまとまった。
対象は、生鮮と加工の食料品全般で、外食を含めるかどうかを調整している。必要な財源規模は1兆円超になる。
与党協議で自民は、手当てできる財源は限られており、対象は生鮮食品のみ、とかたくなだっただけに、結果として公明の主張がほぼ通ったことで対象はぐんと広がった。
確かに、店頭で税率10%分を払うよりも「痛税感」はより和らごう。しかし、対象の品々は税率が据え置かれるだけで安くなるわけではない。食料品以外の日用品は2%分値上がりする。家計の負担が増すことに変わりはない。
家計は8%増税や円安が招いた物価上昇に賃金が追いつかず苦しい。仕事をかけ持ちするシングルマザーら非正規で働く人たちはなおさらだ。
そもそも軽減税率を導入しようとしたのは、消費税は所得が低いほど負担感が増すため、それを軽減する低所得者対策にあったはずだ。
だが、議論の当事者たちはどこに視点を置き、税制を協議し調整をしてきたのか。
消費税の増税は社会保障制度の維持・充実を図るとともに、先進国で最悪水準にある財政を立て直すのが目的だ。
対象品目を広げることによって税収が減ることを避けたい自民党が重きを置いていたのは、財政の健全化である。
幅広い品目での軽減税率導入を先の衆院選公約の「一丁目一番地」とする公明党も、税制協議がこじれ選挙協力にひびが入ることを懸念し公明案の丸のみを決断した首相官邸も、共に見据えていたのは参院選での戦いである。
誰も低所得者のことなど念頭になかったのではないか。
そのことを物語るのは、軽減税率導入で真っ先に合意された財源である。医療、介護を含め自己負担額に世帯ごとの上限を設け、家庭の支出を抑える「総合合算制度」の新設を取りやめることで捻出する約4千億円だ。
社会保障充実策の一つで、主に低所得層の負担を和らげるための仕組みである。低所得者対策を口にするなら、その新設見送りはあり得ず、幅広い税制協議の中で、支援策がもっと議論されても何ら不思議はない。いや、議論するべきだったのではないか。
財源規模が同じ約1兆円で、とんとん拍子に事が進んだ法人税減税を見るにつけ、その思いは強くなる。
社会保障と共に税には持てる者から取り、持たざる者に分配する再配分機能がある。低所得層、貧困層の底上げを図る格差是正機能でもある。
軽減税率導入に必要な財源の確保策は先送りされる方向だ。一方、この制度には低所得層以上に高所得層の恩恵が大きいとの批判がある。
総合合算制度取りやめを白紙化し、再配分機能を十分に生かしながら、財源を軸に税制論議を深めるべきだ。
2015年12月12日土曜日