安倍政権による2016年度予算案で、防衛費が史上初めて5兆円を突破した。

 5兆541億円。15年度に比べて1・5%増え、社会保障費の1・4%増を上回る。

 16年度は国の財政健全化計画の初年度で、社会保障費を除く政策予算の伸びを今後3年で計1千億円に抑える方針だ。その伸びの大半を16年度の防衛費で占めることになる。あおりで、教育など他の予算の増額は難しくなる。

 中国の軍拡や海洋進出への対応で、一定の防衛費の負担が避けられないのは確かだ。

 といって、財政規律をないがしろにはできない。中国と張り合うように予算を増やしていくことも現実的ではない。

 限られた予算の中で、防衛費をどこまで負担するかは国民の理解が要る。年明けの国会で政府は防衛費の将来見通しを明確に説明すべきだ。野党はしっかりただしてもらいたい。

 16年度予算案を点検すると、防衛費が将来的に膨らんでいく方向性が見て取れる。

 まず最新鋭の米国製兵器の購入だ。新型輸送機オスプレイ、戦闘機F35A、滞空型無人機グローバルホーク、新早期警戒機E2D……。兵器が高額になれば維持費や修理費もかさむ。

 これらの支払いは、複数年にわたって分割払いする「後年度負担」で行われる。将来の予算を圧迫し、結果的に防衛費増につながる恐れがある。

 在日米軍駐留経費の日本側負担、いわゆる「思いやり予算」の今後5年間の水準も実質増で日米両政府が合意した。16~20年度の総額は9465億円で、15年度までの5年間を133億円上回っている。

 沖縄県の米軍普天間飛行場の辺野古移設経費も増えている。政府が工事を本格化させれば、さらに膨らむだろう。

 新安保関連法が来春施行されれば、自衛隊の任務は増え、活動範囲も広がる。他国軍との共同訓練などに対応するためには予算の裏打ちが必要だ。

 安倍首相はこれまで、中期防衛力整備計画(中期防、14~18年度)で5カ年の防衛費の総額を明示している、と説明してきた。安保法制が防衛費には影響しないという趣旨だ。

 だが、自衛隊の海外展開に向けた動きとともに、コストも増えるだろう。来夏の参院選が終われば、防衛費増への圧力が強まる可能性は否定できない。防衛大綱や中期防の見直しを求める声が高まるのではないか。

 厳しい財政状況のもとで、防衛費の聖域化は許されない。