慰安婦問題の合意をめざし、岸田外相があさって韓国を訪れ、尹炳世(ユンビョンセ)外相と会談する。

 戦時中、日本軍の将兵たちの性の相手を強いられた女性たちをいかに救済するか。政治的な立場を超えて、両政府がともに対処すべき人権問題である。

 元慰安婦の1人が初めて韓国で名乗り出て、24年の歳月が流れた。今年だけでも多くの元慰安婦が遺恨を胸に抱いたまま、亡くなった。韓国政府が把握する存命中の元慰安婦は50人を切り、平均年齢は90歳近い。

 両政府に残された時間はわずかしかない。両国関係にとっても長く刺さってきたトゲを自らの手で抜くべき時だ。

 政府間で合意がなされても、日韓とも国内から不満や反発は出るだろう。一部には、この問題をナショナリズムに絡めて論じる狭量な声もある。

 しかし、そうした摩擦を乗り越え、大局的な見地から、健全な隣国関係を築く重みを説くことが政治の責務であろう。この機を逃してはならない。

 日韓は1965年に国交正常化し、ことしで50年を迎えた。

 半世紀前、両国を往来する人は1万人にすぎなかったが、最近では500万人を超えるなど交流は活発化している。いまや経済や文化の協力関係は切っても切れない間柄である。

 その一方で、慰安婦問題は、関係の深化を阻む壁となってきた。両政府は、50年前に交わした請求権・経済協力協定で、慰安婦問題も法的に解決したかどうかの見解で対立し、話し合いは平行線をたどってきた。

 今回の会談で合意ができれば、それはどちらか一方ではなく、双方が大きく歩み寄った中身になるはずだ。不幸な過去の歴史から未来に向けて歩を進めようとする両政府の意思を確認する一里塚となろう。

 慰安婦問題をめぐる交渉は、表向きの外交当局の局長級協議ではなく、水面下での非公式接触で進められてきた。それがここで急加速したのは、先月の初の日韓首脳会談が実現した直後からだ。

 日韓双方の政権とも、最大の同盟国である米国から、和解へ向けて強く背中を押されてきた事情がある。それに加え、来春にある韓国の総選挙を意識して交渉を急いだ面もある。

 国内世論を探りつつ、外交のかじ取りをせねばならない事情は日韓とも同じだ。ここは両政権の指導力の真価が問われる局面である。

 国交50年の節目の年にふさわしい歴史的な合意を政治の責任でまとめてほしい。