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「エビデンス弱い」と厚労省を一蹴したWHOの子宮頸がんワクチン安全声明  

村中璃子 (医師・ジャーナリスト)

名古屋市のレポートから3日後の12月17日、世界保健機関(WHO)の諮問機関であるGACVS(ワクチンの安全性に関する諮問委員会)が子宮頸がんワクチンに関する新たな安全声明を発表した。

 今回の声明は2014年3月に発表された前回の声明以来、1年半ぶりとなる。3ページにわたる声明の最後の方で、一段を割いて日本に言及しているが、日本のメディアは一様に沈黙し、今のところ記事になったものを見ない。

「薄弱なエビデンスに基づく政治判断は 真の被害をもたらす可能性がある」

 今回、日本における副反応騒動への言及は、驚くほど踏み込んだ表現となっている。前回の声明では「GACVSは日本のデータに因果関係を見ないが、専門家による副反応検討会は引き続き調査中」と記載された顛末の続きは、今回、次のように辛辣だ。

「専門家の副反応検討委員会は子宮頸がんワクチンと副反応の因果関係は無いとの結論を出したにもかかわらず、国は接種を再開できないでいる。以前からGASVSが指摘しているとおり、薄弱なエビデンスに基づく政治判断は安全で効果あるワクチンの接種を妨げ、真の被害をもたらす可能性がある」

 声明の中で、政策判断を批判された国は日本のみ。政治的に配慮した表現を重視する国際機関が、一国だけ名指しで批判を行うのは異例のことだ。筆者もWHOに勤務した経験を持つが、こうした文書を見た記憶はあまりない。GACVSのメンバーは、世界から選ばれた疫学、統計学、小児科学、内科学、薬理学、中毒学、自己免疫疾患、ワクチン学、病理学、倫理学、神経学、医薬規制、ワクチンの安全性などに関する14名の専門家で構成されている。

 WHOの声明を読んだ日本小児科学会理事のある小児科医は「恥ずかしい限り」と語り、日本産科婦人科学会のある理事も「私には全体が日本への声明のように読める」と語った。報道されることはほとんどないが、両学会はこれまでもワクチン接種再開を求める要望書や声明を繰り返し発表している。

 今回の安全声明の最大のポイントは、フランスの医薬品当局による調査の解析結果だ。フランス当局は子宮頸がんワクチン接種後に起きている自己免疫性の症状について200万人の少女を対象に大規模調査を行い、ワクチン接種群と非接種群の間には「接種後3か月時点でのギランバレー症候群の発症をのぞくすべての症状の発症率に有意差無し」と結論づけた。

 有意差のあったギランバレー症候群の発症率上昇リスクも10万例に1例程度と大変小さい。WHOは今後、仮に別のスタディなどを通じてこの結論が確定することがあっても、ワクチンが子宮頸がん等の原因となるヒトパピロマーウイルスの感染を長期にわたって防ぐというベネフィットについて十分に考慮する必要があると念を押す。

 今回の安全声明には「CRPS(複合性局所疼痛症候群)」と「POTS(起立性頻脈症候群)」というふたつの症候群についての詳細な言及があった。これらの症候群は、一般の医療関係者には馴染みがないが、子宮頸がんワクチンの副反応を議論する際にはよく聞かれるものである。

 声明によれば、ワクチン導入以前から見られるこれらの症候群はいずれも原因が不明な上、関連性のない複数の症状の集合体に名前をつけている可能性もあり、何をもってCRPSやPOTSとするのかといった疾患概念は確立していない。こうした診断の難しさを考慮した上でも、ワクチン市販前治験、市販後調査のいずれにおいてもCRPSやPOTSの発症が増えたというエビデンスはない。CRPSもPOTSも、最近日本でも話題になった「慢性疲労症候群(CFS)」と症状がよく重なるが、CFSの発症とワクチンとの因果関係はイギリスにおける調査ですでに否定されているとする。

 声明が暗に「エビデンス薄弱」と一蹴した日本の「HANS(=ハンス、子宮頸がんワクチン関連神経免疫異常症候群)」なる疾患も、CRPSやPOTSと同様、疾患概念としての妥当性に乏しい。HANSは2014年から一部の日本人医師が唱えている疾患概念で、子宮頸がんワクチンが、慢性の痛みや疲労感、けいれんや運動障害、月経異常や自律神経障害、髄液異常などありとあらゆる症状を引き起こすというものだ。「症状からして免疫異常による脳神経障害としか考えられない病態」であるとするが、科学的エビデンスはない。HANSはさらに、ワクチン接種から何年経っても発症し、いったん消えた症状は何年経ってからでも再発することがあり、場合によっては100以上の症状が重なることもあるというから、関連性のない症状の集合体にただ名前を付けているだけの可能性が高く、疾患概念としての曖昧さはCRPSやPOTSの比ではない。

 前回の声明にあった「生物学的・疫学的裏づけのない、症例の観察に基づく薬害説を懸念する」という記述や、今回の声明にある「子宮頸がんワクチン接種後に起きたという、診たことの無い症状に出会った臨床医は、速やかにそれらの症状を診た経験のある医師たちに紹介することが推奨される。それが患者への有害で不必要な治療を防ぎ、患者の日常生活への復帰を早める」という記述は、日本に直接言及したものではないが、日本を念頭に置かずに書かれたものとは考え難い。

日本のメディアはこれでいいのか

 東京大学教授の坂村健氏は奇しくも声明が出たのと同じ12月17日、毎日新聞の紙上で、新しいワクチンと同様に分からないことの残る放射能の人体への影響と報道の在り方についてこう語っている(記事リンク)。

「事態がわからないときに、非常ベルを鳴らすのはマスコミの立派な役割。しかし、状況が見えてきたら解除のアナウンスを同じボリュームで流すべきだ」

 筆者は名古屋市の調査を取り扱った12月17日の記事で、主要メディアまでもがセンセーショナルな発言でメディアに露出したがる専門家や圧力団体の主張に大きく紙面を割く、ガラパゴス化した日本のジャーナリズムについて書いた。子宮頸がんワクチン問題においても同様に、国内外の信頼ある専門家や専門機関の声にきちんと耳を傾け、坂村氏の言う「解除のアナウンス」のボリュームを少しずつ上げていくことはできないのだろうか。

 国際機関の諮問する専門家が「エビデンス薄弱」とする有害な主張ばかりを取り上げ、日本だけが名指しにされた国際声明を一切取り上げないというメディアのあり方は嘆かわしい。

 圧力団体と共依存する数名の医師の限られた経験と印象から導き出される「学説」は劇場的でメディア好みかも知れないが、「医学」とは数多くの医師によって蓄積された厚みのある臨床の知見と客観的なデータに基づくものである。声明は、医学ではなく世論に寄り添う日本の政策決定に批判の目を向ける形となったが、世論をつくるメディア関係者にもグローバルな視野と科学的冷静さをもつことを呼びかけたい。

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