イッピン「徹底的に!自由に!木の魅力を生かす〜滋賀の木製食器〜」 2015.12.23


美意識を磨き続けてきた花街にある割烹。
目の前には繊細な京料理が!
(吉木)おいしそう。
これが「きょうのイッピン」と思ったら…。
お持ちいたしました。
はい。
すごい!木桶のワインクーラー。
こんな形初めて見た。
上から見ると…木の葉型をしたモダンなデザイン。
流麗で美しい木肌は清らかさをたたえています。
これがきょうのイッピン。
ちょっといろいろと使わせていただいております。
しかも木で出来ているので軽くて保冷力も高いんだとか。
現在注文してから3か月待ちという人気の品。
実は滋賀県で生まれたものなんです。
今滋賀の木製品は全国で注目されています。
日本橋のセレクトショップで人気なのがこちら。
さざ波のような美しいノミの彫り跡が特徴のプレート皿です。
シンプルながらも印象に残るデザインで和洋問わずさまざまな料理を引き立てると好評なんです。
近年滋賀では使いやすさと独創性を兼ね備えた木の食器が続々と誕生しています。
知られざる木製品の産地滋賀。
その魅力に迫ります。
琵琶湖を抱く滋賀県。
知る人ぞ知る木製品の産地で特に南部の大津市と甲賀市では50人以上の職人が活動しています。
自然が豊かで京都や大阪にも近いそんな環境にひかれ職人たちが集まってきているんです。
訪れたのは木の葉型のワインクーラーを作った工房。
こんにちは。
こんにちは。
はじめまして。
キャリアは23年。
桶づくりの技術を生かしてさまざまな木製品を手がけています。
あのワインクーラー。
えっ!20枚ですか。
そうですね。
よくそういうふうに言われる時もあります。
そう。
20枚もの木の板を組み合わせたものだったんです。
しかも木の葉型は前例のないものなんだそう。
おひつがもっと…1本の木をくりぬいたのかと思うほど滑らかなワインクーラー。
どんなワザが秘められているんでしょう。
工房におじゃますると…。
あ〜すごい!たくさんの用具が…。
え〜。
桶づくりにはさまざまな道具を使いこなす必要があります。
カンナだけでも実に200種類以上。
中にはこんな小さなものまで。
消しゴムぐらいの大きさ。
さぁ作業拝見。
材料は「高野槙」。
水に強く腐りにくいんです。
うわぁ何これ?忍者が使う道具みたい。
そうです。
最初の道具は「割り鎌」。
カーブした刃が付いています。
(鎌で割る音)木の繊維に沿って打ち込むと同じカーブを持つ木の板が出来るんです。
これらは桶の胴体。
このカーブが桶の丸みを形づくることになります。
次は木の板を粗く削っていく作業です。
狭い工房なので…おなかにガードを当て「銑」という柄が両側に付いた刃物で表面をそいでいきます。
奈良時代からある道具で桶職人には欠かせないんだそう。
本番はここから。
木の葉型のワインクーラーは円の一部ずつを組み合わせた形。
きれいな弧を描くよう板を組んでいきます。
板同士がぴたりと合うためには接着面に一分の隙もあってはなりません。
重要なのは接着面の角度。
僅か0.1度ずれただけでも滑らかな曲線にならないんです。
そんな繊細な作業に必要なのがこの道具。
正直型。
「正直型」は桶職人が代々受け継いでいく木型。
桶の大きさによって使う型が決まっています。
板を一枚一枚型にはまるよう作れば組み合わせた時ぴたりと合うという仕組みです。
手前に蛍光灯を設置して作業開始。
細かい作業だ。
少し削っては型に当てる。
削りすぎたら台なしになるので慎重の上にも慎重を重ねます。
中川さん真剣そのもの。
どれほど緻密な作業かはカンナの刃を見ると分かります。
ほんの僅か山なりになっていますが一番高い部分でも髪の毛1本分しかないんです。
正直型には正直に。
中川さんは根気強く丁寧に髪の毛1本分ずつ正しい形に近づけていきます。
これでぴたっ。
わっ本当だ。
ぴったり隙間ないですね。
削る前は0.5ミリの隙間があいていましたがご覧のとおりぴったりに。
次は組み立て。
竹で出来たくぎを使い板をつなげていきます。
角度が僅かでもずれているときれいに組み上げることはできません。
「仮タガ」という道具で押さえていくと…。
ぴったり。
20枚もの板を中川さんは寸分の狂いなく削り上げていたんです。
接着剤と固定したあとさらに滑らかに仕上げていきます。
最も心を砕くのは木の葉型の先端とがっている部分。
先端から底に向かうにしたがって徐々に丸みを帯びるよう繊細なカーブをつけていきます。
そして「タガ」をはめます。
丁寧に削った木肌は木の継ぎ目も分からないほどです。
最後に「底板」を付ければ完成。
一切の妥協を排した緻密な削りが作り上げた究極の曲線美です。
伝統のワザとオリジナリティーが見事に融合したイッピンです。
中川さんが滋賀に工房を開いたのは12年前。
それまでは京都で人間国宝の父のもと修業をしていました。
伝統は大切にしつつしかしより自由な環境で作品づくりに励みたいとこの地に移ったのです。
滋賀の南部は木工ゆかりの場所。
中でも東近江市の小椋谷は木の器を作る「木地師」発祥の地と言われます。
平安時代皇位継承争いに敗れこの地に逃れてきた惟喬親王が経典の巻物をヒントにろくろを発明し村人に伝授したと伝えられているからです。
そしてここ10年あまりは大都市に近く自然も豊かな滋賀の環境にひかれ多くの職人たちが移住。
職人同士の交流の輪も広がっています。
この日中川さんの工房に集まったのは兵庫出身の建具職人と大阪出身の漆器職人。
今年イタリア・ミラノで開かれるイベントに発表する作品を共同で開発中です。
今滋賀では木製品づくりの新たな伝統が築かれようとしています。
滋賀県の南端里山の風景が広がる甲賀市。
その丘の中腹にある建物。
人気の器を作っていると聞き吉木さん訪ねました。
うわ〜なんかおしゃれな空間だなぁ。
入るとすぐにギャラリースペース。
すごいかわいいお皿。
なんか絵本の世界に出てきそう。
これが話題のプレート皿。
表面につけられたノミの彫り跡が木の温かみを引き出すと同時に豊かな表情をもたらしています。
こんにちは。
よろしくお願いします。
大阪出身の…東京で修業したあと12年前ここに工房を構えました。
この彫り目が結構独特だなぁと思ったんですけど。
食器づくりを始めたのはこの地に来てから。
「木の温かみを生かした器を作りたい」との思いが自然豊かな環境の中生まれました。
田んぼがあって山があって空があってという感じで自然と人がうまくここで暮らしているというこの環境がまぁ僕らにとってはすごく心地よくて。
この建物はおよそ1世紀前に建てられた養蚕小屋を改装したもの。
ギャラリーの他にカフェもつくり川端さんの皿でスイーツを楽しんでもらえるようにしています。
ありがとうございます。
うわぁおいしそう。
この温かみのあるお皿がかわいいスイーツを引き立たせてますね。
う〜ん!確かに皿の手づくり感がどんな料理も優しく包み込んでおいしそうです。
さぁこの皿の作り方見ていきましょう。
あすごい!工房はギャラリーのすぐ隣。
木の香りがバッと広がりますね。
そうですね。
素材はくるみの木。
まず機械でおおまかに切り出します。
これで彫ってるんですか?はい。
そしてここから先使う道具はこの2本のノミだけ。
皿の縁から中心に向けて刻んでいきます。
へぇ〜。
ノミ跡が深くでこぼこになると料理が盛りづらくなり浅すぎると印象が弱くなります。
目指すのはふだん使いの器にふさわしいほどよく心地よい彫り。
そろえすぎないというかぴっちりそろってると工芸品のような緊張した仕上がりになってしまうのであえてざっくりおおらかな感じに仕上がったらいいなと思いながら。
なるほど。
吉木さんも彫りに挑戦。
これ合ってますか?はい。
これは…一定の力っていうのが難しいですね。
全然彫れない!だってギザギザにもほどがある。
吉木さんのノミ跡は深さが一定しておらず全体に荒れたような感じです。
一方川端さんは均一な深さを保ちとても滑らか。
その差は一目瞭然です。
川端さんのノミ跡を電子顕微鏡で見てみると…。
木の組織が鮮明に残っています。
表面をスパッと切断したということでこれが滑らかさの秘密なんです。
さらに組織が木本来の状態を保っているため使っても傷みにくいんだそうです。
川端さんの彫り方を見るとノミの角度は常に一定。
およそ30度と浅めです。
これが刃先に力を最もスムーズに伝える角度なんだそう。
一方吉木さんは安定していません。
そのため刃が繊維に引っかかり木を大きく傷つけていました。
川端さんはあっさりと彫っているようで実は正確無比にノミを重ねていたのです。
触ってみると…仕上げに表面にオイルを塗ってつや出しをします。
こうしてプレート皿が完成しました。
え〜1時2時まで!寝食を忘れ無心に彫る。
美しいノミ跡は職人その人の姿を映し出しています。
こちらのお宅でも滋賀の木製食器を愛用していますがそれは…。
ベビースプーン。
持ち手が傘の柄のような形で握りやすいんです。
「赤ちゃんが上手に食べる」と評判になり多い時には月に50本売れる人気の品です。
柔らかな木の魅力と実用性を兼ね備えたイッピン。
その秘密とは。
吉木さん大津市の工房を訪ねました。
こんにちは。
こんにちは。
ベビースプーンを作った…スプーン一筋12年のスペシャリストです。
あ!本当だ。
すごい面白い形ですね。
オリジナル作品は30種類ほど。
目指すのは人がワクワクするようなスプーンです。
これ不思議ですね。
何に使うんですか?これはコーヒーメジャースプーンです。
メジャースプーン!雪だるまのようなデザインが目をひきますが。
僅かに先端のほうが大きくすくいやすいという機能性も備えているんです。
縄をねじったような柄のサーバースプーンは大皿に置いても転がりません。
つるしてもインテリアのようです。
川口さんが目指すもうひとつのこと。
それは使う人の生活をより豊かにすること。
その代表作がベビースプーン。
作り始めたのは10年前。
幾度も改良を重ねてきました。
一見同じように見えますが細部に工夫を加え使いやすくしています。
最新のものではそれ以前のものに比べてすくいやすいようさじの面積を若干広げています。
さらに先端を僅かに高くすることでこぼれにくくしました。
そして最近力を入れているのが…柄を太く輪っか状にすることで握力が弱くても指をひっかけて使えるようにしました。
今はまだ試作の段階。
少し削っては自分の手で握り具合を確かめる川口さん。
指の一部のように自在に扱える優しい使い心地が目標です。
スプーンは赤ちゃんからお年寄りまで一生使う身近な食器。
だからこそ温かみのある木で理想の形を見つけたいと言います。
スプーンの優しさとか可能性とかが詰まってるなって。
この地でスプーンを作り続ける川口さん。
年を重ねるごとに作品はいっそう優しさをたたえたものになっています。
信念は「人に寄り添うスプーンづくり」。
少しでも美しく便利なものを。
木に魅了された滋賀の職人たちは妥協することなく新しい木製品を生み出していきます。
2015/12/23(水) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
イッピン「徹底的に!自由に!木の魅力を生かす〜滋賀の木製食器〜」[字][再]

今、滋賀で、便利でスタイリッシュな木製品が続々と誕生している。究極の曲線美を持つワインクーラー、赤ちゃんがこぼさず食べるスプーンなどの魅力を吉木りさがリサーチ。

詳細情報
番組内容
今、滋賀で、便利でスタイリッシュな木製品が続々と誕生している。究極の曲線美を持つ木桶(おけ)のワインクーラー、さざなみのようなノミ跡が美しいプレート、赤ちゃんがこぼさず食べるスプーンなどだ。滋賀の南部は、自然が豊かで、京都や大阪にも近いその環境に魅了され、他県から腕利きの職人が移住しているのだ。知られざる木工品の産地・滋賀の魅力と、斬新な木製食器に秘められた職人の技と思いを、吉木りさがリサーチ。
出演者
【リポーター】吉木りさ,【語り】平野義和

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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