NHKスペシャル アジア巨大遺跡 第2集「ミャンマー バガン遺跡」 2015.12.23


神秘のベールに包まれてきた遺跡があります。
それは木々の間から姿を現し平原を埋め尽くすように建っています。
ここはアジア最後のフロンティアと呼ばれるミャンマーのバガン遺跡。
3,000近くの寺院や仏塔が密集して立ち並ぶ世界でも類いまれな祈りの空間です。
バガン遺跡の秘密に迫るのは女優の杏さん。
一体誰が何のために建てたのか。
その実態はこれまで多くの謎に包まれてきました。
軍事政権が長く続き国が閉ざされていたミャンマー。
ようやく民主化が進み始めたこの機を捉え私たちはバガン遺跡の全容に迫ろうと現地に入りました。
そこで見えてきたのはおよそ1,000年前から続けられてきた人々の営み。
そして貧富の差の少ない社会を実現する驚きのシステムでした。
富が一つのところに集まりにくいというか格差が常に是正されていくような社会が出来上がっていく。
今の暮らしにも受け継がれているその社会の仕組みとは何なのか。
いにしえのアジアの文明から現代に通じる叡智を探る「シリーズアジア巨大遺跡」。
今日はミャンマーの大地に眠る謎の宗教都市バガンの秘密に迫ります。

(杏)
日中の最高気温は40度近くになるしゃく熱の地。
インドシナ半島の西部にあるミャンマーです。
最大の都市ヤンゴンからおよそ700キロ。
車で10時間の平原の中にバガン遺跡があるといいます
結構地平線遠くまで見えますけど見渡す限りあんまり遺跡っぽいものは見えてこないですね。
何かどんな感じなのかすごい楽しみです。
バガン遺跡の全景は一体どうなっているのでしょうか?
わあ〜!見渡す限り塔が建っててこれだけ数があるとちょっと怖いぐらいっていうか。
バガン遺跡は11世紀から13世紀にかけて栄えた仏教遺跡。
ここはかつてバガン王朝の都が置かれた場所だといいます
王朝が滅んで700年以上。
宮殿は既に失われこの無数にそびえる塔だけが形をとどめています
バガン遺跡の広さは東西7キロ南北6キロ40平方キロメートルほどです。
そこに3,000近い宗教建造物が密集する様は世界でも類を見ません
(鐘の音)
私がまず向かったのはバガンで最も有名な仏塔です
金箔で覆われた…
バガン王朝の初期に建てられ高さは51メートルを誇ります
バガンの遺跡や歴史を調査して36年になるバガン研究の第一人者です
マウンさんによれば3,000もの建造物は大きく寺院と仏塔に分けられるといいます。
仏塔は現地ではパゴダと呼ばれています
そのパゴダの中でもバガン遺跡を代表するのがシュエズィーゴンパゴダです。
この中には仏教の開祖ブッダの歯と遺骨の一部が納められていると伝わっています
実はパゴダの構造には特別な意味があるそうです
バガン遺跡にはこのほかにも大小さまざまなパゴダが存在しますがどのパゴダにも同じような仏教の宇宙観が表されているのだそうです
そして人々に仏教の教えをより広く伝える役割を果たしたのが寺院です
ここはアーナンダ寺院。
均斉の取れた姿からバガンで最も美しい寺院とされています
日本の木造建築の寺とは違いミャンマーの寺院は多くがレンガと漆喰で出来ています。
ここアーナンダ寺院には回廊が巡らされさながら迷路のようです
回廊を進んだ先でこの寺院のシンボルが目に飛び込んできました
高さ9.5メートル。
バガンで最大級の黄金の仏像
これは巨大な1本の木を彫り出して作られました。
金箔は度々貼り替えられてきましたがその姿形は作られた当時そのままです
更にこちらにも10メートル近いブッダの像がありました
実は大きな仏像は寺院の東西南北それぞれの面に祀られています。
参拝者が全ての方角で対面する事ができる造りです
バガンの寺院を見ていて気が付いた事があります。
それは多くの寺院に鮮やかな壁画が描かれているという事です
題材のほとんどはブッダにまつわるものでした
これは母のわきの下から産まれたとされるブッダ誕生の様子
ブッダが周りの弟子たちに教えを伝える姿も描かれていました
壁画は単なる飾りのために描かれたのではなく仏教を広めるねらいがあったと考えられています
ブッダへの信仰の深さは徹底していました
この寺院はマハーボディーパヤー。
パヤーとは尊いものを意味します
寺院全体を覆うのは500体以上のブッダ像。
それは参拝者の目の届かない塔の上にまで及ぶという徹底ぶりです
この独特の形はブッダが悟りを開いたインドの聖地に建つ仏塔を模しています
バガンの人々にとって遠く離れた聖地への巡礼を追体験する事ができる寺院です
バガン遺跡を巡る中で強く印象に残った事があります
それは今も遺跡と共に人々が生活を営んでいる事です
バガンでは遺跡の中に村々が点在。
この村では530人ほどが暮らしています
(通訳)大丈夫です。
は〜い。
この村の寺院は800年前に造られ最近改修を終えたばかりです
村はこの寺院の建立とともにつくられたそうです
バガンの人々はパゴダや寺院を大切な信仰の対象として崇め日々の祈りを欠かしません
皆様にとってこのパゴダはどういった存在ですか?
ここにはいにしえから変わらぬ祈りの姿がありました

人々の暮らしとともに3,000もの寺院やパゴダが立ち並ぶバガン
世界でも類いまれな祈りの空間はなぜ生まれたのでしょうか?
その謎をひもとく手がかりが見つかっています。
王統史はやしの葉を乾燥させたものにミャンマーの歴代王朝の歴史が記されたものです。
その中にバガンに寺院やパゴダが造られ始めた理由をうかがわせる記述がありました。
当時のバガンではさまざまな宗教があり中には「親を殺しても罪は許される」という極端な教えを説くものもありました。
国が乱れた状態にあったのです。
この時立ち上がったのがバガン王朝を開いたばかりの…アノーヤターが目をつけたのは当時のミャンマーでは数ある宗教の一つにすぎなかった仏教でした。
仏教には日本などに伝わった大乗仏教と主に東南アジアに伝わった上座部仏教があります。
アノーヤターが注目したのは上座部仏教。
厳しい戒律で己を律する教えがあるからです。
その教えで乱れた国を正そうと考えたのです。
そして仏教を推し進めるために王自らが率先して造ったものそれがパゴダや寺院でした。
あのシュエズィーゴンパゴダは初代アノーヤターが造り始めたものです。
それに倣うように歴代の王たちも寺院などを次々に建立していきました。
バガン王朝の宗教建造物。
それは王が巨大な祈りの場を造る事から始まったのです。
仏教普及のために王が始めたという寺院やパゴダの建設
しかし詳細な調査の結果意外な事が分かりました。
3,000もの建造物のうち王が建てたと確実に分かるものは30にも満たなかったのです
ではそれ以外の膨大な祈りの場は一体誰の手によって造られたものなのでしょうか
バガンに多くの寺院やパゴダを築いたのは誰か。
その謎に長い間光は当てられてきませんでした。
しかし研究者たちによる地道な調査が進められその疑問が少しずつ解き明かされてきました。
バガン研究の重要な鍵として注目されてきたものがあります。
バガン遺跡から発見された石碑です。
石碑は寺院やパゴダが造られた時に奉納されたもので造った人物の名前や肩書造られた日付などが記されています。
その石碑に刻まれた碑文の研究結果から寺院やパゴダの建設に意外な人たちが関わっていた事が分かってきました。
一般庶民。
バガン遺跡からはこうした肩書のない碑文が次々見つかりました。
寺院やパゴダの多くは庶民が造った可能性が高い事が見えてきたのです。
しかし寺院やパゴダの建設にはまとまったお金が必要なはずです。
王と違い財力や権力を持たないはずの庶民たちにどうしてそのような事が可能だったのでしょうか。
その謎を解き明かそうとしている研究者がいます。
40年にわたり東南アジアの歴史や社会を研究する…伊東さんはバガンには庶民による建設を可能にした社会の仕組みがあったのではないかと考えています。
その仕組みを探る手がかりとして伊東さんが注目する碑文があります。
それはある王族が寺院を建立した際に記したものです。
そこで働いていた人のためにパソーを113枚与えたとかですねそれからもみ米を1,867バスケット与えたとかというような事までも書かれてる訳なんです。
更に労働者たちに対して賃金まで支払っていた事も明らかになりました。
伊東さんはこの王たちによる賃金の支払いが膨大な建造物を造るために大きな意味を持ったと考えています。
伊東さんによれば農耕や交易などによって民衆が生み出した富は税として王のもとに集まります。
通常ならばその富はどんどん王のもとに蓄積していきます。
ところが王はその富を寺院やパゴダを建設する際賃金として労働に従事した庶民に振り分けていきました。
そのため庶民の中に富を蓄える事ができる人々が現れます。
伊東さんは庶民たちはその富を寺院やパゴダを造る事に投じていったのだと考えています。
庶民が建てたという無数の建造物
しかし私には一つの疑問がわいてきます
なぜ富を得たバガンの人々はそれを自分の暮らしをよくするために使わずに寺院やパゴダを造るために投じていったのでしょうか?
今も篤い信仰心を持って暮らすバガンの人々。
その暮らしぶりの中に疑問の答えがうかがえます。
ここはバガンを代表するパゴダの一つ…このお金は人々がダマヤージカパゴダのために寄進つまり寄付したものです。
この月に集まったお金は…中には驚くほどの大金を寄進する人物もいました。
日本円でおよそ1,000万円を寄進した…年収の5%を寄進に使うために蓄えているのだといいます。
ヤン・ホーさんの言葉の中になぜバガンの人々がパゴダや寺院を造るため富をなげうったのかを知る答えがありました。
功徳。
それは仏教徒が現世で行うよい行いの事。
世の中や人のためになる行為を意味します。
功徳にはさまざまな形があります。
例えば毎朝托鉢に来る僧に対して食事をささげる事は代表的な功徳です。
そのほかにも庭をきれいに掃き清める事や生き物に余った食べ物を分け与える事も功徳です。
ミャンマーでは現世でどれだけ多くの功徳を積んだかで来世で何に生まれ変わるかが決まると信じられています。
そのため人々にとってはさまざまな形で功徳を積む事が生活の一部となっているのです。
フフフ…かわいい。
1,000年前に生まれた寺院やパゴダそれは功徳の産物でした。
王は功徳を積むため巨大な寺院やパゴダを建造。
そのために働いた庶民に対価を与える事もまた功徳です。
そして富を得た庶民たちは今度は自分たちも功徳のために寺院やパゴダを造りました。
その結果3,000もの建造物がバガンの大地を埋め尽くしました。
類いまれな祈りの空間が出現したのです。
バガンから見つかった碑文には功徳に寄せる人々の思いの深さが刻まれていました。
功徳が浸透した事で庶民の力で膨大な数の宗教建造物が造られたというバガン。
伊東さんはその事が世界にも類を見ない特殊な社会を生み出したと考えています。
バガンが栄えた11世紀から13世紀例えば西ヨーロッパでは封建社会が成立していました。
厳密な主従関係が築かれ国王や領主など少数の有力者のもとに富が集まっていました。
そして人口の大半を占めた農民は農奴と呼ばれ自由を制限され重い税を課されていました。
それに対しバガンでは功徳を積もうとする行いによって富が回り続けました。
その結果貧富の格差が生まれにくい社会が実現していたと考えられるのです。
当時の様子を記したバガンの碑文に国の繁栄ぶりがこううたわれています。
繁栄を誇ったバガン王朝はその後元の侵攻を受け13世紀の末に滅びました。
しかしバガンの時代に育まれた信仰は人々の間に深く根を下ろしました。
今回私たちはその事を実感できるある特別な現場に立ち会う事ができました。
ミャンマーの人々にとって最も大切な功徳の一つ得度式と呼ばれる出家の儀式です。
ミャンマーでは仏教徒の男子は一生に一度は必ず出家するのが習わしです。
今回得度式を行う…これは寺院に飾られたブッダのレリーフ。
王子の身分を捨て出家しようとする場面です。
得度式はブッダと同じように出家し仏教の教えを身をもって学ぶ儀式です。
カウンテッさんの両親チョー・アウンさん夫妻です。
土産物の店を営んでいます。
儀式を行うために用意したお金は日本円でおよそ100万円。
実に15年間にわたりため続けてきました。
儀式当日。
得度式を前に鮮やかな化粧が施されます。
これはブッダが出家する前王子だった頃の姿に重ね合わせるためです。
実はチョー・アウンさんは息子だけでなく親戚の子どもや家が貧しくて儀式を挙げられない子どもたち合わせて26人を出家させてあげます。
その事はチョー・アウンさんにとって大きな功徳になります。
ブッダの像を先頭に得度式が始まりました。
衣装代馬を借りる費用お祝いにやって来る1,000人分の食事代。
得度式にかかるこうした費用の全てはチョー・アウンさんが一人で負担します。
それも全て多くの子どもたちにブッダが歩んだ道を経験させたいという思いからです。
このあと子どもたちは親元を離れ一定期間寺に入り修行。
戒律を守る日々を送ります。
チョー・アウンさんがため続けた100万円はたった一度の得度式で全て無くなってしまいました。
富を失った代わりにチョー・アウンさんは一体何を得る事ができたのでしょうか。
翌朝。
チョー・アウンさんはある決意をしました。
自分自身も出家する事に決めたのです。
持てる富を仏教のために投じる功徳。
それによってチョー・アウンさんが得たものは幸せを感じて生きていけるという心の安寧でした。

今回私はバガンの遺跡を生み出した営みと今も祈りと共にある人々の姿を見つめました
およそ1,000年前バガンで育まれた叡智
多くの人々が功徳を通じて富を巡らせそして幸せを分かち合う
その営みによってこの壮大な光景が生み出されました
2015/12/23(水) 02:35〜03:25
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル アジア巨大遺跡 第2集「ミャンマー バガン遺跡」[字][再]

アジア最後のフロンティア・ミャンマーに知られざる神秘の巨大遺跡群があった。見渡す限りの平原に3000もの塔が林立する絶景…。女優・杏がその謎を解き明かしてゆく。

詳細情報
番組内容
およそ1000年前に栄えたミャンマー初の統一王朝・バガン。その都のあった場所には今も3000もの仏塔や寺院が林立する。黄金に輝く高さ数十メートルの塔。シンメトリーな姿が美しい白亜の大伽藍。寺院の中では巨大な金色の仏像が訪れる者を見下ろす。これほどの遺跡群がなぜ生まれたのか?そこには、一部の人間に富が集中するのを防ぐ驚きのシステムが存在した可能性があるという。いにしえのアジアの神秘に女優・杏が迫る。
出演者
【出演】杏,【語り】秋鹿真人

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント

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