NHKスペシャル「自衛隊はどう変わるのか〜安保法施行まで3か月〜」 2015.12.23


9月の豪雨災害で住民を救出する自衛隊。
災害派遣などを通じて国民から支持を得てきました。
創設から61年。
その自衛隊の在り方を大きく変える法律が来年3月に施行されます。
安全保障関連法です。
この法律で集団的自衛権の行使が可能となりアメリカ軍との連携が強化されます。
更に国際社会の平和に貢献するとしてPKOの活動や外国軍隊への後方支援も拡大されます。
政府は安全保障環境が厳しさを増す中抑止力を高めるためには安保法が不可欠だとしています。
憲法守れ!
(一同)憲法守れ!一方安保法に対しては反対の声が今も上がっています。
自衛隊の海外での活動が拡大すれば戦争に巻き込まれる危険性が高まるというのです。
現場の隊員は安保法をどう受け止めているのか。
前へ進め!安保法の施行まで3か月。
時代の大きなうねりの中にある自衛隊はどう変わるのか。
その行方を探ります。
安全保障関連法が成立して今日でちょうど3か月となります。
安保法によって自衛隊は今後どのように変わっていくのでしょうか。
来年3月の施行を前に見ていきます。
安保法がなぜ必要なのか。
政府はその理由の一つとして年々軍事力を増強している中国の存在を挙げています。
おい!
(サイレン)5年前沖縄・尖閣諸島沖で起きた漁船衝突事件。
中国海軍の艦艇も東シナ海に頻繁に姿を現すようになりました。
おととしには自衛隊の護衛艦に中国の軍艦が射撃管制レーダーを照射する事態も起きました。
自衛隊は安保法の成立前から離島の防衛を強化する必要があるとして変化を迫られたのです。
今離島の防衛を担う九州・沖縄の部隊は高速のボートで島に上陸する実戦を想定した訓練を繰り返しています。
まず安全保障環境が変化する中最前線に立つ自衛隊員の姿を追いました。
隊員1,100人の陸上自衛隊第12普通科連隊です。
この部隊では3年前からより実戦を意識した訓練に取り組んでいます。
部隊が所属する西部方面隊は九州・沖縄地方を担当。
東シナ海に面する南西諸島など離島の防衛を担っています。
前へ!
(銃声)うわ〜!どうした!?撃たれた!助けてくれ!この日行われたのは敵の銃撃を受けた隊員を救護する訓練。
(爆発音)離島の防衛では限られた人員での作戦も想定されます。
仲間が撃たれた時は現場の隊員だけで止血などの応急処置に当たらなければなりません。
もう着くからな!頑張れよ!大丈夫かおい!意識しっかり持て!今助けてやるから!全身をしっかり見てもらって大量の出血がある場所がないか…。
この訓練に初めて参加した山口晃輝陸士長。
入隊2年目。
実戦になれば偵察の任務に当たります。
訓練では撃たれた傷口を特殊メークで再現しています。
戦場でこうした傷を見ても冷静に対処できるようにするためです。
松山!頑張れ!山口さんは地元の高校を卒業後自衛隊に入りました。
ただいま。
父親の利則さんも同じ駐屯地に勤める自衛官です。
30年前に自衛官となった利則さん。
自衛隊を取り巻く環境の急激な変化を感じています。
この日山口さんはより厳しい状況での訓練に参加しました。
離島では暗闇の中での作戦も想定されます。
視界がきかない状況でも撃たれた仲間を救護する事が求められます。
敵に気付かれないようライトを照らせるのは一回4秒。
僅かな明かりを頼りに負傷した箇所を見つけ速やかに止血しなければ命に関わります。
山口さんはふだん駐屯地にある寮で生活しています。
ここが自分が住んでる部屋で自分はいつもここで寝てますね。
訓練が終われば二十歳の若者の素顔をのぞかせます。
「ビリギャル」ですね。
(取材者)好きな芸能人は?好きな芸能人はもう有村架純とかですね。
はい。
そうですねはい。
同じ部屋の隊員たちも山口さんと同年代。
日々の訓練を通じて自衛隊を取り巻く環境の変化を肌で感じています。
日本の防衛の最前線に立つ隊員たち。
(爆発音)それぞれの思いを胸に訓練に臨んでいます。
両案は可決されました。
安全保障環境が変化する中成立した…この法律と表裏をなすのが成立5か月前の今年4月日米両政府が交わしたある合意文書です。
18年ぶりに大きく見直された日米防衛協力のための指針ガイドラインです。
そこには安保法の成立で初めて可能となる集団的自衛権の行使を必要とする内容も既に盛り込まれていました。
日本の存立が脅かされる場合には攻撃を受けたアメリカ軍を自衛隊が守る事で合意していたのです。
日米の連携をこれまでになく強化するガイドライン。
その内容は今回の安保法に色濃く反映されています。
ガイドラインの見直し協議の舞台裏を取材すると今後自衛隊の役割をどう変えようとしているのか日米の思惑がかいま見えてきました。
乾杯!
(一同)乾杯!安保法成立後の先月20日。
日米の安全保障政策の関係者が集まった会合です。
出席者からは日本の政策転換を歓迎する声が相次ぎました。
ガイドラインの見直しで日本が重視したのは中国が領海侵入を繰り返す東シナ海の尖閣諸島を巡る対応でした。
この海域での同盟国アメリカの存在感を高め中国を牽制したいと考えたのです。
自衛隊の在り方を変えるガイドラインの見直し協議が始まったのはおととし。
呼びかけたのは日本でした。
今回取材によって日米の水面下でのせめぎ合いが明らかになりました。
先に要望を切り出したのは日本。
これに対しアメリカは…。
当初難色を示し協議は進まなかったといいます。
この時の防衛大臣小野寺五典衆議院議員は当時のアメリカの反応に日本との温度差を感じ驚いたと言います。
日本が繰り返し強調したのは日米の連携は互いの利益になるという事でした。
尖閣諸島への関与を求める日本に対しアメリカは…。
繰り返し迫ったといいます。
アメリカ国防総省の代表として協議に参加したデイビッド・ヘルビー氏が取材に応じました。
協議が進む中でアメリカが期待を示したのは警戒監視などの際に自衛隊がアメリカ軍の艦艇を守る米艦防護です。
これまで日本の法律には規定がなくできませんでした。
アメリカ軍が攻撃を受けた時自衛隊が武器を使って守る事は集団的自衛権の行使にあたるおそれもあったからです。
日本はアメリカに「集団的自衛権については与党内で議論しているところだ」と説明。
日本の姿勢に理解を求めました。
停滞していた協議を一気に加速させたのは安倍内閣による閣議決定。
これまでの憲法解釈を変更し集団的自衛権の行使を容認しました。
そして今年4月日米は新たなガイドラインで合意。
18年ぶりの改定でした。
(拍手)
(拍手)ガイドラインでは日本が求めていた東シナ海を念頭に置いた情報収集や警戒監視が盛り込まれました。
その一方で日本の存立が脅かされる場合には集団的自衛権を行使して自衛隊がアメリカ軍を防護できると明記されました。
一体化が加速する日米。
自衛隊はどこまでアメリカ軍に協力していくのか。
今問われようとしています。
緊迫する南シナ海です。
中国がベトナムなども領有権を主張している浅瀬を埋め立て滑走路などを建設しています。
これに対しアメリカは航行の自由作戦を実行。
中国が主権を主張する人工島の周辺に軍艦を派遣し緊張が高まっています。
オバマ政権で対日政策を担ったウォレス・グレグソン氏です。
先月日本近海の太平洋上で海上自衛隊がアメリカ海軍と共に大規模な演習を行いました。
アメリカが中国と対じする南シナ海の情勢に自衛隊はどう関わるのか。
中谷防衛大臣に聞きました。
創設から61年の自衛隊。
新たな領域に進み出すのか大きな岐路に立っています。
安全保障関連法で自衛隊のPKO活動も変わります。
今回成立した安保法ではこれまで認められていなかった新たな任務駆け付け警護が可能になります。
駆け付け警護とはPKOに参加する他国の部隊や国連の職員などが襲われた場合その場に自衛隊が駆け付け武器を使って助け出す任務です。
こうした任務を可能とするためにこれまで自分たちの身を守る場合に限って認められていた武器使用の権限が拡大する事になります。
最初に駆け付け警護の任務を与えられる可能性があるのがアフリカ南スーダンで活動しているPKO部隊です。
どのような現場なのか取材しました。
長年続いた内戦の末4年前に独立した南スーダン。
首都ジュバにある国連PKOの宿営地です。
7か国の部隊が武装勢力から住民を保護する任務などに当たっています。

(「栄光の架橋」)日本は3年前から土木作業などに当たる陸上自衛隊の施設部隊を送っています。
隊員は350人。
PKO活動を希望する隊員が半年交代で派遣されています。
技術力を生かし道路や橋などインフラの整備に当たってきました。
(國井)もし何かあれば私の方で判断します。
30人の隊員を率いる小隊長國井慎司2等陸尉です。
前進経路については西門出た後にUターン7番右折で…。
南スーダン国内では今も不安定な情勢が続いています。
おはようっす。
宿営地から現場に向かう際は危険の兆候がないか常に警戒が必要です。
(無線)「グデレ橋通過了解」。
移動に使うのは防弾仕様の特別な車両です。
作業中も銃を携行する隊員が周囲の警戒に当たっています。
自衛隊が既に派遣されていた2年前。
南スーダンの情勢が緊迫しました。
政府軍と反政府勢力による大規模な武力衝突が起きたのです。

(歌声)全土では1万人が死亡したともいわれ家を追われた人は200万人以上に上ります。
現地では食料や医療などの支援のため国連の数千人のスタッフが活動しています。
安保法ではこうしたスタッフなどが襲われた場合駆け付け警護を行う事が可能となります。
ただこの任務を付与する具体的な時期などは今のところ決まっていません。
作業から宿営地に戻った小隊長の國井さんです。
無事に任務を全うし家族のもとに帰るのを楽しみにしています。
派遣中に成立した安保法をどう受け止めているのか聞きました。
自衛隊のPKO部隊はインフラ整備などに特化した活動を行いこの3年余りの間に300か所で橋の補修や道路の整備を行いました。
資材が不足する中でも現地で調達できるものを活用し地元のニーズに応えています。
職業訓練や医療支援給水活動にも積極的に取り組んできました。
現地の住民との信頼関係も大切にしています。
武器に頼らない形で国際貢献を積み重ねてきた自衛隊のPKO活動。
この日活動に感謝するメダルが国連から授与されました。
自衛隊のPKO部隊に駆け付け警護などの新たな任務をいつ付与するのか。
中谷防衛大臣に問いました。
安全保障関連法では国連のPKO活動に加えて外国軍隊への後方支援など自衛隊による海外での活動が拡大します。
ではどのような場合に自衛隊を派遣し撤収するのか。
問われるのは政治の判断です。
安保法を巡る国会審議ではドイツ政府が行ったアフガニスタンへの派兵の事例が度々取り上げられました。
ドイツは復興支援などに重点を置く形で派兵を決断しました。
しかし現地の情勢は想定を超えて悪化し多くの犠牲者を出しました。
この事例について政府は自衛隊の活動は停戦合意があり戦闘が行われていない地域に限定。
ドイツが行ったような活動に参加する事は想定していないとしています。
政治は国外への派遣と撤収をどう判断すべきなのか。
各国の利害と思惑が絡み合う中で想定外の事態に直面したドイツを取材しました。
(鐘の音)第二次世界大戦の反省から長年国外への派兵に慎重な姿勢を示してきたドイツ。
冷戦後3年間にわたり国民的な議論を続けた末にNATOの域外への派兵を正式に認めました。
最も多くの兵士を送ったのがアフガニスタンです。
2002年から本格的に派兵が始まりました。
前の年に起きた同時多発テロ事件を受けてアメリカが主導する軍事作戦が行われたアフガニスタン。
大規模な戦闘が終了したあと多国籍部隊によるISAF国際治安支援部隊が設置され50か国以上が参加。
ドイツも加わったのです。
アフガニスタンに兵を派遣するにあたってドイツ政府は当初空爆や地上戦には参加しないと国民に説明。
民生分野での復興支援や治安維持に重点を置くとしていました。
派兵を決めた時の連立政権の与党幹部ヴィンフリート・ナハトヴァイさんです。
安全保障政策を担当しアフガニスタン派兵を巡る議論の中心にいた一人です。
ところがその後兵士が置かれた現地の状況は様変わりしていきました。
ヨハネス・クレアさん30歳。
ドイツが派兵を始めてから8年後の2010年アフガニスタンに派遣されました。
現地での任務を記した議会の承認書です。
そこには物資の輸送や治安維持の支援などが主な任務と書かれていました。
これは当時クレアさんが撮影した映像です。
ある村で突然武装勢力に襲われ戦闘になりました。
敵の姿が見えない中浴びせられる銃弾。
三日三晩この場にくぎづけになりました。
恐怖を紛らわせようと携帯電話で撮影したといいます。
(銃声)想定外の戦闘で同じ兵舎で寝泊まりしていた仲間が命を落としました。
(着弾音)なぜドイツは戦闘に巻き込まれるような事態に陥ったのか。
ドイツ軍は当初首都カブールやアフガニスタン北部など比較的治安が安定した地域を選び活動を行っていました。
ところが派兵から4年が経過した頃から反政府武装勢力タリバンが再び攻勢を強め各地で戦闘が頻発するようになりました。
しかしドイツ政府は撤退の判断を下しませんでした。
対テロ作戦を主導するアメリカからより危険な地域での活動にも参加するよう求められたのです。
アメリカなどからの強い求めがある中ドイツは派遣部隊の規模や活動地域を拡大。
任務の危険度も増し犠牲者が増えていったのです。
ベルリンの郊外にある国外で亡くなった兵士を悼む場所です。
14年に及ぶアフガニスタンへの派兵で56人が亡くなりました。
派兵を決めた与党の幹部だったナハトヴァイさんは一国の判断で撤退する事の難しさを痛感しています。
安保法成立直後の9月末。
都内でドイツの経験を学ぶシンポジウムが開かれました。
そこにはかつて海外派遣で指揮官を務めた自衛隊の幹部らの姿もありました。
今回の安保法の下でドイツのような活動に参加する事は想定していないとする政府。
今後の自衛隊の海外派遣についてどう判断し隊員の安全をどう確保するのか。
今月陸上自衛隊の新たな部隊がPKO活動のため南スーダンに向けて出発しようとしていました。
政府は今回の部隊に駆け付け警護など新たな任務は付与しないとしています。
出発する隊員を見つめる家族。
安全保障関連法の施行は来年3月。
この日も実戦を想定した訓練が行われていました。
海上自衛隊の基地では警戒監視を任務とする護衛艦が慌ただしく出入りしていました。
緊迫する東アジア情勢に強化される日米同盟。
そして広がるテロの脅威。
激動する時代変化を迫られる自衛隊に私たちは何を託すのでしょうか。
2015/12/23(水) 00:25〜01:25
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「自衛隊はどう変わるのか〜安保法施行まで3か月〜」[字][再]

戦後の安全保障政策の大転換となる安全保障関連法。自衛隊の活動は変わるのか。離島防衛を想定し、訓練を重ねる部隊、アフリカ・南スーダンPKOなど、最前線の隊員を取材

詳細情報
番組内容
ことし9月に成立した、安全保障関連法。自衛隊は、“日本の防衛”そして“国際社会の平和と安全”のために、一層大きな役割を担うことになる。日本の安全保障政策の大きな転換を、現場の隊員はどう受け止めているのか。そして、その活動はどう変わるのか。中国が海洋進出を活発化させる中、離島防衛を想定し、訓練を重ねる部隊、アフリカ・南スーダンPKOなど、最前線の隊員を取材、自衛隊の“これから”を考える。
出演者
【語り】森田美由紀,瀧川剛史

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番

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