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深き沈黙の娘 作者:木綿
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∞. 緒貝巧の独白あるいは山上父嬉の思惑

これにて完結です。長い間お付き合いいただきありがとうございました。
映画『ゴッドファーザー PART III』の軽いネタバレあり。まだご覧になっていない方はご注意ください。
 ——あぁっははははははははははははは!!!

 いやあ、愉快愉快。最高だよ。俺、今ここ数年で一番楽しいかも。
 ああ枝実(えみ)、ごめんな? イタリアに呼びつけて早々縛り上げて。
 でも、君の緊縛姿って素敵だよ。せっかく外国に来たことだし、今日はちょっと趣向を変えてシルクの紐にしてみました。レオを見習ってみたんだけど、どうかな。気に入った?
 ……おや、聞こえない? そうか。君の耳に嵌めた耳栓、空港で適当に買ったやつなんだけど、思いの外よく出来てたみたいだな。それとも、その上からやっぱりシルクの布で頭グルグル巻きにしたせいかな。ま、見えない聞こえないくらいちょっとは我慢してくれよ。ついでに、このホテルのリネン引き裂いたの君ってことにしといて。賠償金は俺が払うから。だってさ、ヒステリー起こしてシルクの布を裂くのは女って相場が決まってるだろ? よ・ろ・し・く。
 俺、今さ床屋の気分なの。王様の耳はロバの耳。
 こう、バラしたら全部台無しなんだけど、それでも誰かに言ってしまいたいこの複雑な男心。わかる? なあ、愛しい俺の奥さん。——ウーウー唸ってるだけじゃ聞こえないよ、ほら。
 ……君も、蹴っても悲鳴も上げなくなったなぁ。イッポーリトなんか豚みたいに泣き叫んだのに。意外に、と言っていいのかどうかわからないけど、女性の方が痛みに耐性あるよな。彼女も、そうだった。

 さて、じゃあそのグルグル巻きの状態で俺の話を聞きながら聞かないでいてもらえるかな。少し、彼女の話をしよう。

 十数年前、兵庫のある一角に、山上父嬉(ふき)って女の子がいた。まだ小学生だ。
 この子はいわゆる被虐待児で、母親と義父からありとあらゆる虐待を受けていた。ネグレクト、暴力、性的暴行。
 当然、深く傷ついて苦しんで、嘆いていた。そんな中で彼女の支えは、顔を見たこともない実父だった。

 ——本当のお父さんなら、こんなひどいことしない。きっと優しくしてくれる。きっと助けてくれる。

 まあ、確かにエンツォは彼女を性的にどうこうしようとは考えもつかないだろうな。その限りにおいては、彼女の考えは間違いじゃなかったわけだ。
 だけど甘い。本当にそうなら、実父はとっくに助けに来ているはずだ。それが叶わず10年も15年も苦痛を強いられたなら、それなりの事情があると考えるのが自然だろうに。まあ、小学生にそんなこと言っても仕方ないか。
 そんな希望を支えにしながら、しかし彼女の中でもう一つ、暗い感情が育っていった。
 何だと思う? なあ、家庭内において絶対的な強者から暴力を振るわれた弱者は、どんな感情を抱くと思う? なあ枝実、君ならわかるだろ? わからなければもう一回蹴ろうか。

 ……あっと、聞こえないんだっけ。忘れてた。ま、いいや。今の君の反吐で俺の靴が汚れたから、後で磨いておいてよ。
 まあ多分、今君が思っているのと同じだよ。

 ——何で私がこんな目に遭わなきゃいけないの。皆、何で気づいてくれないの。どうして誰も助けてくれないの?

 母親と義父への恨みつらみは、恐怖によって押し殺される。まだ小さな子供だからな。その分、怒りはどこに向かったか。

 ——本当のお父さんは、どうして助けてくれないの?

 同一の対象に、矛盾した感情を抱くのは何も珍しいことじゃない。君だって、俺のことなんか大っ嫌いだろう? 殴られて蹴られて喜ぶような女は、俺のタイプじゃない。君はそんな女じゃないから結婚したんだ。だけど同時に君は俺から離れられない。愛——と呼ぶのはどうもピンとこないけどね。俺は君を、俺なしでは生きていけなくした。そういう風に仕込んだんだから、君は俺を求めざるを得ない。愛なんかよりもっと強く、深く、暗く、変わらない感情で。俺を拒みながら求めている。
 君と彼女には相違点も多いけれど、だいたいそんなところだ。母親と義父が逮捕され、施設に保護されても彼女の中の矛盾した感情は変わらなかった。
 ——本当のお父さんなら、きっと。
 ——本当のお父さんは、どうして。
 彼女の二面性は、実父に対する感情だけじゃない。行動にも表れていた。
 施設に保護されていた高校時代、彼女はどんな子だったか、ちょっと聞きに行ってみたけど中々面白かったよ。
 山上父嬉は、基本的には大人しくて真面目な少女だった。あまり喋らず、笑わず、淡々と勉強や家事をこなして規則正しい生活を送っていた。施設の他の子供と打ち解けることはなかったが、深刻なトラブルを起こしたわけでもない。ただ、他者から距離を置いて淡々と過ごしていた。
 しかし、時折彼女は爆発した。奇声を上げ、破壊行動に出た。それまで押さえ込んでいた感情が数ヶ月に一度溢れ出て、そんな時は手がつけられなかったそうだ。
 別に、そういう施設では珍しいことでもない。数ヶ月に一度どころか、職員の愛情を確かめるように常から問題行動に出る子供もざらにいる。それに比べれば、普段は模範生で、たまに荒れることはあっても他人に暴力を振るうこともなく、ただ皿を割ったり自傷行為に走ったりする程度の彼女なんかプロなら軽く対応できるレベルだった。

 ——ところでさ、破壊衝動って、男は他者に、女は自分に向かうことが多いらしいね? あくまで傾向としては、って話だけど。だから家庭内暴力の問題とかは男のが多いし、リストカットや自殺未遂は女のほうが多いんだとか。
 俺にはどうもわからないんだよなあ。腹立てることがあるなら、自分にぶつけたってしょうがないじゃん。他人にぶつけてもしょうがないかもしれないけど、その場合はせめて腹いせの効果は得られる。自分が痛い思いするだけの自傷に、何の意味があるんだろうな。これがわからないのって、俺が男だからかな。枝実、君ならわかる?

 閑話休題。施設から高校に通っていた3年間の間に、彼女は少なくともその二面性をコントロールできるようになった。医師やカウンセラーのセッションを重ね、破壊衝動はなりを潜め、反面少しずつだけれど普段の言動にも感情が出てきた。控えめで遠慮がちではあったけど、笑うようになった。
 そうして順調に回復していった。少なくとも、周囲の人間にはそう見えた。

 でも俺は彼女がそこまで病んでいたとは思わない。確かに、ただでさえ精神が不安定な年頃だ、多少はおかしくなっていたろうさ。
 だけど、たまには皿を叩き割りながら、彼女は必死に実父の——エンツォの居場所を調べ、高校卒業後すぐにすっ飛んで行った。10代のうちなんて1年が永遠みたいなもんだ。それなのに、施設にいる間の3年越しの長期的な計画を立てて実行した。おかしくなっていた一方で、同年代よりかなり頭は成熟していたんじゃないかな。
 ちなみに、知ってる? 被虐待児は多重人格を発症しやすいんだ。
 もちろん、皆が皆そうというわけじゃない。ただ、解離性同一性障害の患者のバックグラウンドを調べたところ、被虐待児の割合が高かったというだけさ。ただし、単なる偶然では片づけられず何らかの関連性があるのだろうと考えざるを得ない程度には顕著だった。
 この現象は、一応こう説明されている。虐待という辛い体験から自分の心を守るため、一部の被虐待児は「こんな酷いことをされているのは自分ではない」と思い込む。そのためにサンドバッグ用の人格を作り、辛い体験は彼ないし彼女に押しつけ、本来の人格はその間奥に引っ込むんだ。そうしていれば、本来の人格は虐待の記憶すらなく、苦痛を感じることはない。その反面、サンドバッグ用の人格は主に苦痛の記憶ばかりを得るわけだが、まあそれはそれとして。
 とはいえ、山上父嬉はそうではなかった。その()はあったけどね。矛盾した思いを抱えながら、精神が分裂してもおかしくない育ちをしながら、少なくとも施設暮らしの高校生時点では解離性同一性障害とまではいえなかった。傷を抱え、たまに軽いヒステリーを起こす子供。それだけだ。

 エンツォに対して、複雑な感情を抱えながらイタリアに来た彼女は、そこでさらに迷宮にはまり込んだ。
 思い焦がれていた相手が目の前にいる。しかも、エンツォ・ナンニーニは基本的には好人物だ。彼女の育ちからは、聖人にも等しい人間に見えたんじゃないかな。気品に溢れ、社会的地位も高く、物腰は穏やかで、しかし覇気もあり、かつそこそこ見栄えのする外見の紳士。それが父親と思えば、爆発的に愛情が湧いただろう。
 一方で、彼の傍には家族がいた。クリスタベラとファニア。それを見て、普通の女の子ならどう思うだろうね? 遠野ふきが、ではないよ。その立場に置かれたら、普通はどう考える?

 ファニアに嫉妬し、エンツォを恨む。ごく自然な感情だと思わないかい? 自分にも得る権利があるはずのものを、ファニアは独占していた。エンツォは、20年近く実の娘の存在すら知らず、幸せに暮らして社会的に成功していた。

 ——許さない。

 そんな感情も、山上父嬉は確かに持った。まあ、それを責めるべきじゃないだろう。
 エンツォ・ナンニーニを慕い、愛されたいと願う気持ち。
 エンツォ・ナンニーニを恨み、復讐してやりたいという気持ち。
 その二つの感情で、彼女の心は一種の二律背反(アンビヴァレンツ)を引き起こした。父を慕い、彼の幸せを純粋に願う気分の時もある。しかしそんな時は、必ず心のどこかがあの男を許すなと叫んで責め苛む。
 ファニアに笑顔を向けるエンツォを見れば、否応なくドス黒い気持ちが胸に溜まっていく。けれども、実の父親に、それもあんなに素晴らしい人物に、そんな醜い感情を抱いては駄目だとやはり自分自身の心が自分を否定する。


 そうして心が引き裂かれそうになり、どうにも身動きが取れなかった時、ちょっとした事件が起きた。


 話は変わるけど、日本にいるイタリア人の出身大学って、大概決まってるんだよ。
 まず一番多いのがカ・フォスカリ。ヴェネツィア大学のことな。北イタリアの名門大学で、日本学をはじめ東洋の歴史、文化なんかに強い。日本の大学で教えてるイタリア人講師なんか、まず大体がカ・フォスカリ出身だ。
 それから、同じくらい多いのがナポリ東洋大学(ロリエンターレ)。名前の通りナポリにある大学でアジア系統の学問に強い。日本のイタリアンレストランで働くイタリア人スタッフに多いよ、ロリエンターレ出身。
 ヴェネツィアが大学教員でナポリがレストラン従業員とか、イタリアの南北格差は日本まで来ても埋まらないらしいね。世の中ってままならないな。あとは名門ローマ大学(ラ・サピエンツァ)とか、シエナ外国人大学で外国人へのイタリア語教育を専門的に学んだ人間がイタリア語講師としてやって来るケースもある。

 で、エンツォはナポリ東洋大学(ロリエンターレ)の出身だ。まあ、妥当な選択だろう。彼も半分は日本人だし、母親の国に興味はあっただろうからね。で、イタリアで日本学をやるならまあカ・フォスカリかロリエンターレだ。パレルモからはナポリのほうがだいぶ近い。
 ここで彼は地元ナポリっ子の友人を得た。いくつか同じ講義を取ってすっかり気が合ったらしい。エンツォは大学を出てすぐ日本で暮らし始めたこともあって、卒業後の交流はあまり頻繁ではなかったけれど、友情は続いていた。
 このナポリっ子の友人が、ある日ベラ・クリスタを訪れた。ちょうど、山上父嬉がサーブに入っていた日だ。
 四半世紀ぶりの再会にエンツォも最初は旧友を歓迎した。しかし、話の途中で彼が今やカモッラの中堅幹部であることがわかった。カモッラってのはナポリのマフィア組織の名前な。シチリア系のマフィアは、区別する時はコーサ・ノストラっていう。それはともかく。
 マフィア嫌いで実家と決別し妻の名を名乗っていたエンツォは激怒し、旧友を店から叩き出した。その一部始終を、山上父嬉はつぶさに見ていた。喜色満面で旧友を迎えたエンツォの喜びも、彼を追い出した後にエンツォが見せた切なげな悲しみの表情も。
 心の中で対立する感情は自らの精神を引き裂くだけで、竦み合って動かなかった。けれどここで、彼女は初めて行動に出る。心はバラバラでも、選択の結果がたまたま一致することはあり得る。
 何にせよ、彼女は相反する感情が互いを傷つけあって自分で自分にダメージを与えている自家中毒のような状態から抜け出したかった。そこでベラ・クリスタのハウスワインを1本くすねて、予約帳から調べたエンツォの旧友に友情の証として送りつけた。万一のことを考えて自分の仕業だとばれないよう、退職間際の若い男性スタッフを使って。まあ、山上父嬉は小学生のうちから女を商売道具に一家三人分の生活費を稼ぎ出していた生粋の娼婦だ。男に言うことを聞かせるのは、さして難しいことでもなかっただろう。
 彼女としては、どちらに転んでもよかった。
 これで友情が復活するなら、それは父のためだ。父親を慕う純粋な娘としての心が喜ぶ。
 一方で反マフィアの姿勢を隠さない彼がカモッラに日和るような真似をして評判が落ちるなら、少しは溜飲も下がる。自分の地獄のような人生のかたわら輝かしい成功をおさめたエンツォの栄光を翳らせてやることができるならそれはそれでよかった。
 どちらにしろ、彼女は身動きの取れない状態から抜け出したかったんだ。ネットに情報をばらまいたのもそのせい。周りの見る目が変われば、エンツォ・ナンニーニも今までのままではいられないだろう。とにかく、あの時の彼女には状況の変化が必要だった。

 しかし、現実というのは往々にして予想をはるかに超えて悪いほうに転がるものだ。エンツォは撃たれた。
 エンツォに腹を立てていた部分の心さえ、そんなことは望んでいなかった。彼女がどれだけ青くなったか、見てみたかったなぁ。
 父親を慕うほうの心は、もう耐えられなかった。愛されることこそが望みだったのに、反対に傷つけてしまうなんて。
 さて、復習だよ枝実。虐待などの耐え難い苦痛に直面した時、人の心はどんな反応を示すことが考えられるか?
 そう、彼女は分かれたんだ。

 ——こんな酷いことを望んだのは私じゃない。私じゃない。私は、お父さんを殺させたりなんかしない、しなかった!

 凄惨な虐待を受けてさえ失われなかった同一性を、彼女はここで手放した。さっき言ったろ、その()はあったって。

 純粋に父親を思い、耐えることしか知らない人格がこの時出来上がった。それが『遠野ふき』だ。
 そして一方、怒り、憎み、復讐のために生きる人格も分離して確立した。ご丁寧に名前までつけて。それが、『アビガイッレ・スカローネ』だ。

 単純な話だ。遠野は母親の実家の姓で、スカローネは父親の実家の姓というわけだ。
 アビガイッレというのは、イタリアでは珍しい名前だ。でも英語圏ではありふれている。アビー、という名前を知っているだろう? アビゲイルだよ。旧約聖書由来の名前だ。もとはヘブライ語でアビガイル。イタリア語風に発音すればアビガイッレとなる、ただそれだけ。
 ヘブライ語のアビガイルは、「父の喜び」という意味だ。なぁ、そのままだろ? 父嬉、つまり父の喜びの娘というわけだ。いやまったく、名は呪いだね。もし彼女の母方の祖母が違う名前をつけていたら、彼女はああまでエンツォに執着しなかったかもしれない、と思うよ。根拠はないけど。

 そしてこの時、彼女は変わった。一つの身体に、3人の人格。そう、3人だよ。

 本来の彼女は、『山上父嬉』だ。イタリアに来るまでには彼女の戸籍上の姓はとっくに『遠野』になってたんだけど、便宜上そう呼ぶ。
 一方、ホスト人格が『遠野ふき』だ。ホスト人格というのは、本来の人格ではないけれど、表に出ている時間が一番長いもののことだよ。銃撃以来、基本的に他者から見てあの身体の人格は『遠野ふき』だったはずだ。苦痛を引き受け、恨みつらみを忘れた、被虐的な女。
 そして、怒りを、復讐心を一手に引き受けたのが『アビガイッレ・スカローネ』。

 この3人は意志の連携も取れず、別個に一つの身体の中に存在していた。互いが何を考えているのか、表に出ている時に何をしているのか、まったくわからない。ただ他人事のように推し量るしかできない。
 ——あるいは、山上父嬉だけは他の二人を俯瞰し、ある程度のコントロールを及ぼしていたかもしれない。というか、多分そうだ。けれど俺には正確なところはわからない。残念ながら、彼女はずっと奥に引きこもってとうとう対面はかなわないまま身体のほうがあんなことになっちまった。
 人格を分けても、相変わらず彼女は身動きの取れない三竦み。ただ、エンツォを慕うことを、あるいは憎むことを、自分で責めずにいられるようになった。それが思いのほか心地よかったんだろう、人格の分離は加速するばかりだった。わざわざ鏡越し、何かの画面越しでなければ対話すらできないようにして。その滑稽な芝居、想像すると笑えるだろう? 面白かったから俺も全力で付き合った。「ふきちゃん」「アビガ」って名前を呼び分けてさ、なかなかアホらしくて楽しかったよ。
 でも、そうやって心を分裂させたところで、結局自分と身体を同じくする思考体の行動からは逃げられない。他者から見たら、区別できるものではないんだから。
 遠野ふきが自分の腎臓を提供したのは、何も父を慕うあまりの麗しい自己犠牲なんかじゃない。あれは贖罪だったんだよ。罪の意識から逃れようとするための浅ましい行為だ。銃撃を自分で引き起こしておいて、エンツォを助けるために健康な臓器を切り取る。いや、マッチポンプもあそこまでいくと馬鹿を通り越していっそ感心するね。まあ、後半はそう仕向けたの俺だけどさ。でも、ドナーの適性があるって聞いた時、ふきちゃんは心底ほっとした顔になったよ。俺、思わず笑っちゃったよ。どの面下げて、って。遠野ふきとアビガイッレ・スカローネは、文字通り同じ顔の持ち主なのに。

 さて、憎しみから解放された遠野ふきがますますエンツォに傾倒していく一方で、愛情から切り離されたアビガイッレ・スカローネは心置きなくエンツォを憎み、さらに憎悪を募らせていった。今までの恨みつらみだけでなく、新たに気に食わないことが起こればそれはすべてアビガの管轄になった。たとえば、レオ・クランキ。
 彼が彼自身さえ自覚のない嫉妬心から繰り返し行ったパワハラ、セクハラに、アビガは当然腹を立てた。自分を想うがゆえに出た行動だとしても腹を立てた。遠野ふきは気づいていなかった、というより気づかないふりをしていたけど、アビガはレオが『遠野ふき』に惚れていることなんかお見通しだった。それでも、それだからこそ、怒った。好きならば何でも許されるのか? なあ枝実、俺は君を世界で一番愛しているけど、君は俺を許す気なんか欠片もないだろう? 君はそれでいいよ。俺と君はそれでいいんだ。でも、レオと彼女はどうだっただろう。
 アビガはレオを嫌った。たとえ遠野ふきがレオに好感を抱き、やがて絆され、心から惚れ抜いても、アビガのほうはこれっぽっちもレオを愛してなんかいなかった。彼を誹謗中傷するメールを回すことも、弟を殺すことも、エンツォへダメージを与える道具として利用することも何も躊躇わなかった。
 ここで疑問が一つ。レオは、そこまで恨まれることをしたか? 誹謗中傷メールまではわかるさ。自然だ。だがそれとイッポーリト殺しまでには何ステップかある気がするんだ。
 そしてイッポーリトだ。どうせなら、悪夢を再現するかのように映像を盾に関係を迫り隷属を強いたイッポーリトのほうにこそ憎悪の感情を抱くべきじゃないかな? それなのに、アビガは奴を殺させることは躊躇わなかったけれど、随分あっさりしたものだった。イッポーリトの死は手段に過ぎず、目的ではなかった。
 一応、言い訳は立たないこともない。イッポーリトとの関係が始まった頃、既に遠野ふきとアビガイッレ・スカローネは分離していた。苦痛を耐えるのは遠野ふきの役目だ。サンドバッグ用の人格が彼女だ。だからアビガはイッポーリトの行為の記憶など持っていない。
 しかしやはり、レオへの憎悪と比べると不自然なんだよ。俺が、一度も会ったことがないのに『山上父嬉』の存在を確信しているのもこのせいだ。彼女達の人格の切り替えと感情の割り振りは、あまりに作為的なんだ。自分の精神を守るため、なんていう反射的で単純な無意識ゆえのものじゃない。誰かの、緻密で複雑な思惑があった。

 ここを掴むのに俺も少し時間を食ったけど、原点に戻れば答えは見えてきた。
 彼女の目的は何だっただろうか。

 ——お父さんに愛されたい。
 ——エンツォ・ナンニーニに復讐を。

 この二つだ。一見両立しえない二つの願いを同時に実現させるために、山上父嬉は4年かけて少しずつ準備を進めていった。
 最初からすべて、彼女の思惑通りだったとは思えない。むしろ想定外の事態に何度もぶち当たり、何度も計画を変更せざるを得なかったことが窺える。
 ただその一方で、ゼロベースの状態から作り上げられた計略だとも思わない。種は最初から存在した。
 あの日記。エンツォとレオの罪を糾弾するような日記だけれど、色々と不思議なことがあるんだよ。
 まず、山上陽子に聞いてみたけれど、小中学生時代の彼女には日記をつける習慣なんてなかった。高校時代、施設に入居していた時も日記なんてつけていなかった。彼女は、イタリアに来て突然、そんな面倒臭いことを始めたんだ。
 そして、書かれた内容。エンツォやレオは不思議に思わなかったのかな。あの日記の人格は、『遠野ふき』からさえ微妙にずれているように俺には読めた。書いた人間は二十歳前後だっていうのに、あれじゃまるで痛めつけられた思春期の子供そのままだ。そして何より不自然なのは、あれには怒りが滅多に出てこない。怒っていたはずの、怒って当然の時でさえ、彼女はその感情を書き留めることをしなかった。また、喜びもあまり日記には残さなかった。あそこに書き綴られたのは、徹底して悲劇だけ。ガイアという友人を得て、それなりに楽しい思い出もあったろうに、そんな記述は不幸に色を添える程度にしかなかった。
 ——最初から、あの日記は復讐の道具だった。
 だってそもそも、彼女が日記をつけ始めたのは人格が分離する前だ。後で読んだ人間の同情と罪悪感を誘うようなことしか書かなかった。人格が分離した後にあれを書いていたのは遠野ふきであり、彼女のほうは純粋に苦しみを書き綴っていたつもりだろうけど、その実山上父嬉が遠野ふきに書かせる内容をある程度コントロールしていた。そうとしか思えない。
 ファニアに関する記述に、それはよく表れている。彼女は、ファニアがエンツォの実の娘ではないことを知っていた。俺が教えたんだから確実だ。しかし、日記にはそれを知ったことを書かなかった。それどころか、実の妹と思い込んでいるとも取れるような書きぶりだった。
 けれど一方で、『遠野ふき』が完璧にお芝居だったとも思えないんだ。なぜって、接してみればわかるよ。人間はそこまで馬鹿じゃない。嘘をつかれていれば、何となくでもわかるものだ。相手を目の前にすればなおさらだ。人はそこまで簡単に騙されるものではない。エンツォもレオも、馬鹿だけど、一応首から上には脳みそが詰まっている。あれだけの人間を4年も騙しきることは困難だ。とすればやはり、『遠野ふき』はお芝居ではなく本気だったんだろう。
 しかし『遠野ふき』がお芝居でなく本気なら、あまりに細部のコントロールが絶妙すぎる。日記に書きつける内容ひとつ取っても、喜びも怒りも排除してただ悲痛な思いだけを綴って、最も効果的にエンツォに罪悪感を抱かせる内容に仕上がっていた。だからやはり、何者かにコントロールされていたと考えるほうが自然だ。そしてそれはアビガではない。なぜって、遠野ふきとアビガイッレ・スカローネでは基本的に前者が常に優勢だったのだから。
 二つの人格をコントロールしていた山上父嬉の思惑は何だったか。思うに、彼女は最初アンティゴネーを演じたかったんじゃないかな。知ってる? ギリシャ悲劇の代表作だよ、ソフォクレスの作品だ。
 アンティゴネーの父親はスフィンクス退治で有名なオイディプスだ。ソフォクレスの劇の中では、父オイディプス王は両親をそうと知らずに死に追いやり、その罪が明らかになって自らの王国を追放される。皆に見捨てられたオイディプスに唯一付き従ったのが娘のアンティゴネーだ。
 エンツォ・ナンニーニから家族も会社も社会的地位も何もかも奪い、誰からも見捨てられた彼にただ一人手を差し伸べる。そうすれば唯一無二の愛情を得られるだろうし、復讐も叶う。最初はそれが彼女の計画だったんだろう。だからアビガイッレ・スカローネは、回りくどい手を使って少しずつベラ・クリスタの人員を入れ替え、敵対的買収を仕掛けた。まあ、俺の金なんだけどさ。まったく、「俺は金ならある。君の力になるよ」なんて言わなきゃよかった。とことん利用してくれちゃって、大した女だよ。
 しかしながら、現実はそううまくは転がらない。エンツォ・ナンニーニという人間を観察しているうちに、どうやら彼をオイディプスに仕立て上げることは難しそうだ、という結論に山上父嬉は達した。事業が失敗したところで、おそらく彼は容易に立ち直る。そもそも、ゼロから会社を興した人間だ。その程度で絶望に沈むメンタリティなら経営者などやっていられないだろう。



 ところで、話は飛ぶけどこのホテル、マッシモ劇場がよく見えるな。知ってる? パレルモのマッシモ劇場は、ヨーロッパのオペラハウスの中でも屈指の大きさを誇るんだ。『ゴッドファーザー PART III』、観たことある? あれのラストシーンの舞台だよ。ゴッドファーザーシリーズは名作だ。
 今のシーズン何やってるかな……お、『ナブッコ』じゃん! ヴェルディ初期の傑作! なあ枝実、これ観に行こう。ボックス席のチケット買ってやるからさ、ちゃんとドレスアップして。

 ——山上父嬉も、『アンティゴネー』がポシャった後は『ナブッコ』からヒントを得たきらいがある。

 ヴェルディはイタリアを代表する、それどころか世界のオペラ史上随一の作曲家だけど、クラシックに興味のない人間はあまり知らない。特に日本じゃ、せいぜい中高の音楽鑑賞で『アイーダ』か『椿姫』のワンシーンでも聴かされるくらいじゃないかな。でも、山上父嬉には事情が違っていた。彼女のルームメイト、ガイア・サルダーリはオペラ歌手の卵だったからな。しかも、貴重なソプラノ・ドラマティコだ。
 ヴェルディの楽曲は全体的に重くて、いくら訓練を積んでもまともに歌える人間はそう多くないと言われる。その中でも、『ナブッコ』のヒロイン、アビガイッレは屈指の重さだ。ただでさえ喉に負担がかかる 歌を何曲も歌わされるし、最初から最後までほとんど出ずっぱりの役柄だ。よっぽど丈夫な喉に恵まれた上で何年も訓練を積んで、三十路を越えた頃にようやくものにできる難役らしいよ。してみると、二十歳そこそこからアリアを歌いこなしていたガイア・サルダーリは中々才能ある歌手なのかもな。まあ、でなきゃスカウトされてキジアーナ音楽院に入学なんてできないか。

 さて、アビガイッレ。アビガイッレだ。
 聖書由来の何もかかわらず、どういうわけかアビガイッレという名のイタリア人女性に俺は一度もお目にかかったことがない。そりゃ英語圏でだってアビーは大人気の名前というわけでもないけどさ、それにしても一人もいない。
 その理由は、案外ヴェルディのオペラにあるんじゃないかと思うんだよね。『ナブッコ』のアビガイッレの生涯は、普通の親なら娘に歩んでほしくないと思う類のものだから。
 あらすじはこうだ。ナブッコ、すなわち旧約聖書にも登場するバビロン王ネブカドネザル2世には娘が二人いたが、彼は長女のアビガイッレより次女のフェネーナに王位を譲ろうとしていた。この娘二人は聖書の登場人物ではなく、ヴェルディのオペラに限った創作だ。ここでヒロインのほうにアビガイッレ、『父の喜び』という名前をつけたあたりいいセンスしてると思うよ。
 なぜナブッコは順当に長子に王位を継がせようとしなかったか。それは、アビガイッレの母親が奴隷で、正統の王妃を母として生まれたフェネーナよりも血統が劣っていたからだ。しかし父王の思惑を知ったアビガイッレは怒り狂い、先手を打ってナブッコを幽閉し死を偽装して、自分が女王の座に就く。
 父の愛を信じて疑わず、父のために軍を率いてバビロンのために命をかけて戦っていたアビガイッレが、ナブッコの本心を知って怒り、悲しみ、復讐を誓う場面はまさにオペラ第二幕第一場の見せ場だ。観客は皆ここで涙する。
 しかし、アビガイッレの栄光も長くは続かない。オペラは悲劇と相場が決まっているからね。最後に彼女は追い詰められ、何もかも奪われ、毒をあおって父親の目の前で息絶える。この、あまりにやるせないヒロインの生涯が、観客の涙を誘う。

 山上父嬉は、まさにこれを企図してアビガを生み出したんじゃないかと思うんだよ。エンツォ・ナンニーニという人物を観察していれば、彼が真実を知ったら必ず後悔するだろうことは簡単にわかる。彼から何もかも奪った上で、悲劇的に息絶えてみせたらどうだろう? エンツォに消えない傷を刻みつけて、復讐を遂げてこの世を去る。遠野ふきは、自分の人生に疲れきっていたから——彼女が生きる希望をなくせば、すぐにでもアビガが取って代わってそれを実行に移しただろう。

 ところが、ここで誤算が生じる。レオ・クランキだ。

 ヴェルディの『ナブッコ』には、イズマエーレという見目麗しい王子が登場する。彼は美しく優しいフェネーナと相思相愛で、アビガイッレからも想いを寄せられるがそれをすげなく撥ねつける。これがまた、アビガイッレの悲劇を色濃くするわけだ。父親からの愛情も、受け継ぐべき王位も、何より愛した男性さえ妹姫に奪われてしまう哀れなアビガイッレ。

 当初、山上父嬉はイズマエーレの役割をレオに振り、遠野ふきをして彼に惚れさせた。とはいえ、遠野ふきは何もアクションを起こさず、見ているだけで満足していた。当然だろう。必要だったのは「愛した男性さえ妹に奪われる」というファクターだけだ。一方通行の片想いでなければ悲劇は成立しない。
 ところが、レオは最初からイズマエーレの役に適合しなかった。彼はファニアと相思相愛になるどころか、何と遠野ふきに惚れた。

 山上父嬉は困ったろう。これでは、エンツォにダメージを与えてやれるほどの悲劇が成立しない。
 俺も気に食わなかった。だって、レオとふきちゃんが結ばれたらどうなる? その後にエンツォが真実を知ったら?

 ——大変申し訳なかった、父親として何もしてやれなかった。でも、君は幸せを見つけたんだな。レオ、ありがとう、私の娘を救ってくれて。どうか、これからは二人で、末長く幸せに。

 冗談じゃない。そんなメロドラマ、誰が観たいもんか。思わずヴィンチェンツォに言ってカーアクションさせちゃったよ。

 山上父嬉も——というより、アビガイッレ・スカローネもそれを良しとしなかった。許せるか? レオがどれだけいい男でも、それだけでエンツォ・ナンニーニの罪をなかったことにしていいのか? エンツォ本人は何も償っていないくせに、ただ幸運にも遠野ふきがレオの愛に恵まれただけで、これまで虐待の限りを尽くされた人生が、あの苦痛が、全部なかったことにされてしまうのか?
 アビガは、それを断じて受け入れなかった。レオがどれだけいい男でも、これまでのエンツォへの恨みをすべて水に流してやることなどできなかった。それに、レオ自身も聖人君子ってわけじゃない。嫉妬のあまりのパワハラにセクハラ、イッポーリトの暴行の後のセカンドレイプ、何よりレオ自身が一度は紐で縛り上げてまでレイプしてきたことを考えれば、遠野ふきが許してもアビガイッレ・スカローネは彼を許さなかった。エンツォ・ナンニーニもろとも地獄に落としてやる、と思ったんだろう。パワハラやセクハラに対しては、誹謗中傷をばらまいてやり返した。セカンドレイプには、イッポーリトの死をもって報復した。そして、レオ自身によるレイプには——

 笑えるよなぁ? レオがあれだけ焦がれた女は、自分の弟を死なせた女と同一人物なんだ。高熱にうなされながら、ICUから携帯を打って俺にイッポーリトを殺せとメッセージを送ってきた。彼女が手術痕を化膿させて入院していた時、最初にレオと話していたのは本当に『遠野ふき』だったか? ふきちゃんは、指輪を捨てろなんて言える性格じゃないと思うんだけどね。まして、当てこすりの毒舌を吐くなんて、まったくもってらしくないじゃないか。
 そう、イッポーリトに押し倒されたことより、レオに誤解され蔑まれたことがショックで、遠野ふきは一時的に引きこもった。チャンスとばかりに山上父嬉はアビガにヴェネツィアン・グラスの指輪を回収させるよう仕向けた。なぜなら、あれがレオの手元にあっては少しまずかったからだ。あれは、俺が通販で買った、ただのアリバイ工作の小道具なんだから。そこから嘘がばれて計画が破綻することだけは避けなければならなかった。
 しかし、無理矢理奪い取るのでなく、レオのほうから返させた手法には俺も舌を巻いたよ。ああいうのが、彼女は上手い上手い。『遠野ふき』にすら何も気取らせず、山上父嬉は指輪を取り戻した。その上、それを捨てるんじゃなく、最後の最後まで取っておいてレオを繋ぎとめる仕掛けに使うとは——いやまったく! 大したものだよ。おかげで俺は爆笑をこらえるのが大変だった。俺が通販でたかだか十数ユーロで買ったものをさあ、今レオは後生大事に身につけてるんだぜ? そりゃ指輪代は彼女の負担だったけど、あそこまで使い倒されると見事だね。転んでもタダでは起きないというか。
 とにかく、レオにセカンドレイプを受けたあの夜に遠野ふきはショックを受けて、身体のコントロールを手放した。その間に、イッポーリトの死という取り返しのつかないことが起こった。これで、山上父嬉の筋書きはより復讐よりに舵を切るはずだった。レオを拒絶する理由には十分だし、奴隷から生まれた悲劇の王女アビガイッレを演じきって退場する予定だったんだ。

 ところが、レオはとことん想定外だった。遠野ふきを諦めず、粘った。おかげでふきちゃんはとうとう絆された。

 ああ、苦しかったろうなあ。想像するだけで笑えるほどに。だって、今さら心を通わせたところで、どれだけ彼の愛に救われたところで、アビガはもうイッポーリトを殺してしまった。いくら自分で手を汚したわけではないとはいえ、自分とは違う人格のやったことだとはいえ、自分以外の第三者には言い訳できない。レオとの幸せな未来なんて、イッポーリトが死んだ時点でありえないことだったんだ。
 シニストラリに睨まれたのもあいまって、遠野ふきはますます疲弊し、絶望していった。もはや生きる理由も見つけられず、八方塞がりだ。彼女はもう、死ぬしかなかった。
 それでも、俺には懸念があった。自分の罪悪感から逃れるために、人格を分裂させるなんて離れ業をやってのけた女だ。都合の悪い記憶を綺麗さっぱり消して、ちゃっかりレオとくっつくかもしれない。ヴィンチェンツォを動かしてアルファロメオを襲撃させた理由は、それもある。
 何にせよそれは功を奏して、遠野ふきは死を覚悟した。最初に俺が腹を庇うなって言ったのは、もちろん赤ん坊のことを予知していたからじゃない。さすがに俺も、まだ受胎してもいない命のことなんてわからないさ。ただ、もう片方残った腎臓が潰れたら、それは悲劇だろうなって思っただけ。遠野ふきは理解していなかっただろうけど、山上父嬉は俺の言葉の意味をちゃんと汲み取ってたよ。

 妊娠が意図的だったのか、偶然だったのか、そこまでは俺もわからない。だけどそれに気づいた時、アビガは瞬時に最もえげつない報復を考え出した。
 そのためには、一度姿を消す必要があったんだ。一緒に暮らしていれば、レオが気づく。気づかれてはならなかった。
 ふきちゃんの生理は、2、3日の誤差はあっても概ね規則正しく来ていたらしいから、レオにばれないギリギリのタイミングを見計らって彼女は墓参りに出かけた。あの日、日記帳を持ち歩いていたのもそのせいだ。真実を明かすタイミングは、山上父嬉が自分でコントロールする必要がある。だから普段は持ち歩かない日記帳を遠野ふきのカバンに入れさせた。ただ、さすがに過去分3冊を持ち歩くのは不自然だから諦めざるを得なかったんだろう。結局彼女は賭けに出た。二つも南京錠を掛けたとはいえ、4桁の数字はせいぜい1万通り。2万通りの組み合わせは、根気よくいけば虱潰しでたどり着いてしまう。開けられたら開けられたでいいという心算で、アビガは計画を急いだ。

 墓地でエンツォに会ったのは偶然か、必然か。少なくとも山上父嬉には格好のチャンスではあったろう。
 ルツァスコ・スカローネの墓から遠野ふきを立ち去らせた後、アビガに身体を乗っ取らせた。公衆トイレの血はアビガの自作自演だ。薬にでもラリって自分で頭をぶつけたんだろうという警察の見立ては、原因はともかく結果においては正しく事実を射抜いていたわけだ。イタリア警察も馬鹿にしたもんじゃないね、さすがはプロだ。
 そして、アビガは復讐を急いだ。それまで散々エンツォに冷たい態度を取られて、遠野ふきが弱っていたのもアビガにとっては絶好のチャンスだった。ただ懸案は、お腹の赤ん坊のことだ。遠野ふきの性格では、ひょっとしたらすべて明るみに出してでも赤ん坊を守ろうとするかもしれない。そもそも、これまでずっと遠野ふきのほうが優勢だった。いつアビガは押しつぶされるとも知れない。
 だから、俺が釘を刺しといた。腹は庇うな、ってもう一度。この時には、もちろん胎児のことを意図してたよ。
 そして、もう遠野ふきに邪魔されないよう、アビガは外の手を借りた。ヴィンチェンツォだ。舌先三寸であの男を丸め込み、手筈を整えた。自分を殺させる算段を。

 ——エンツォを庇って、遠野ふきが死ぬ。

 それこそがアビガの復讐であり、山上父嬉が最後にたどり着いた結論だった。
 エンツォの性格を熟知した上で、それが一番彼にダメージを与えられると踏んだんだ。追いつめられた遠野ふきはいっそ死を望み、もはやアビガを止める力もなかった。三人それぞれの思いはまったく異なっていたけれど、ここにきて同じ行動を選択した。

 山上父嬉が修正に修正を重ねて最後に決定した演目は、『ゴッドファーザー PART III』だったわけだ。さっき言ったろ? 映画のラストシーンの舞台はパレルモのマッシモ劇場だって。アル・パチーノはコルレオーネ・ファミリーのドンを降りる決意をする。後継者に名指しされたアンディ・ガルシアは、自分の野心のためにソフィア・コッポラとの恋を捨てる。
 父親に恋人との仲を引き裂かれた形になったソフィア・コッポラは、マッシモ劇場の階段でアル・パチーノに詰め寄る。

『Dad, why did you do this to me?(パパ、どうして私にこんなことするの?)』

 だがアル・パチーノが答える前に、銃声が鳴り響く。アル・パチーノを狙った銃弾は、娘のソフィア・コッポラを撃ち抜く。金色のドレスの胸に赤い丸が広がる。それを呆然と見下ろしたソフィア・コッポラは、最後に父親を見上げ『Dad …(パパ……)』と呟いて倒れる。

 俺さ、あのシーン初めて観たとき、ソフィア・コッポラにあのドレスは似合わないと思ったんだよ。彼女はもっと濃い色が似合う。だけど演出上は仕方なかったんだろうな。赤や黒のドレスじゃ血の染みが映えない。
 あのクリスマスの日、ふきちゃんがオフホワイトのニットワンピースを着ていたのは何でだろうな?
 遠野ふきは無意識だったろう。あれは山上父嬉の演出だ。一つには、血が映えるように。二つには、レオが去年よく着ていたニットセーターを思い起こさせるように。指輪といいワインのエチケットといい 、まったく彼女は小道具の使い方が上手いよ。ああそう、ワインの残りを持ち帰ったのも、あとあとレオに罪悪感を抱かせるための小細工だ。遠野ふきの性格では、ワインをよこせなんて言わないはずだ。山上父嬉に操られていたからこその言葉だったんだろう。

 父親の代わりに銃弾を受けて倒れたソフィア・コッポラ。彼女の恋人役だったアンディ・ガルシアは、『No!(そんな!)』と叫ぶ。父親役のアル・パチーノの叫びはそれを遥かに凌駕して、悲痛な響きを帯びていた。

 ただし、所詮はフィクションだ。ふきちゃんの腎臓が移植されたことを知ったエンツォの叫びときたら、アル・パチーノの比じゃなかったよ。あれほど耳に心地よい音楽はそうないね。
 ともあれ、そうして遠野ふきは死に、エンツォとレオに消えない傷を残してアビガの復讐劇は終わるはずだった。

 ——ところが!
 神も照覧あれ、まさか植物状態となって命を繋ぐとは!

 いやもう、参った。文句なしに拍手を送るよ。
 どんなに深い傷を刻みつけたところで、時はすべてを癒してしまう。実の父親でありもう人生の折り返し地点まで来たエンツォはともかく、レオなんてまだ若い。遠野ふきと出会ってから4年しか経っていないし、その倍の時間が流れても彼はまだ40にもならない。さすがに10年も経てば、どんなに深い愛も過去になるだろう。その時になっても、彼にはまだ自分の人生を考えられるぐらいの時間がある。エンツォが指摘したようにね。
 ところが、あんな風に死ぬにも死にきれずにいたら、レオは永遠に解放されない。たぶん、山上父嬉はここまでは計画してなかったと思うよ。ヴィンチェンツォも、さすがに『植物状態になるように』なんて絶妙な撃ち方はできない。遠野ふきも、レオを縛りつけることは望んでいなかった。アビガの復讐心も、レオに対してはそこまで深くはない。イッポーリトの死に対する遠野ふきの罪悪感も考えれば、彼女はその死をもってレオを解放するつもりだったんだろう。一度は地獄の苦しみを味わわせることになるかもしれない。それがアビガの復讐であり、愛されたいと願った遠野ふきの望みの実現だ。だがその後は、彼はまだ若いのだから自分の人生を生きていけるだろう。長くて数年の悲しみの年月、遠野ふきにはそれで十分だったし、アビガもそのあたりを落としどころと考えていた。
 一方でエンツォはもう50近い歳であることだし、一生遠野ふきの死を引きずるだろう。アビガは会社を潰す工作もしていたし、クリスタベラを観察して彼女が離婚と嫡出否認を選択するであろうことも察した。会社を潰し、家族を去らせ、償いきれない罪を背負わせて生かす。エンツォは遠野ふきの腎臓を移植された身では自殺もできない。それが、アビガの狙いだった。
 とはいえ、会社を潰すほうは失敗した。さすがに商売にかけてはエンツォのほうが一枚も二枚も上手だ。それでも結果としてエンツォはふきちゃんのために私財のすべてを投げ打つ決意をしたんだから、まあ結果オーライかな?

 一番どうしようもない状態で命を繋いだのは、アビガの執念だろうか、それとも遠野ふきは土壇場でやはりレオをも一生繋ぎとめておきたいと願ったんだろうか。

 まるでパンドラだよな。知ってる? ギリシャ神話のパンドラの匣。開けてはいけないと言って渡された箱を、パンドラは好奇心に負けてつい開けてしまう。中に入っていたのはありとあらゆる厄災で、それらが世に飛び散ったおかげでこの世は苦痛に満ち溢れたものになった。ただ、箱には最後に希望も残されていた。
 不思議だと思わないかい。何で、悪いことばかりを詰めた箱の最後の最後に、希望なんてものが出てきたのか。
 俺はこう考える。希望こそが、ありとあらゆる厄災の中で最も悲惨なものだからだ。
 一度絶望してしまえば、人はそこから開き直れる。どん底まで沈みきったら、あとは這い上がるしかない。ふきちゃんが死んでしまったら、レオはいずれ前を向かざるを得なかっただろう。
 でも、わずかな希望が残されていたら、人は苦しみから脱却することはできない。永遠にその中に留まり続ける。ふきちゃんの命がある限り、レオも離れられない。
 そういや、パンドラってチェーンのジュエリーショップがあったっけ。あのハートの指輪、パンドラで買ったやつだったら笑えるな。

 ふきちゃんとアビガは、予想外に面白いものを見せてくれた。だから俺も、ちょっと協力しちゃったよ。本当に婚姻届を出すかどうかは半信半疑だったけど、いや上手いこといってよかった。俺は処分してくれって頼んだだけだし? 別に唆したわけじゃない。


 王様の耳はロバの耳。だいたいこれで全部だ。あとちょっとしたら解いてあげるよ。


 それにしても、綱渡りだったなあ。
 もしエンツォがもう少しばかりろくでなしで、知らなかったんだから仕方ないとか開き直れるような人間だったら、とっくにアビガイッレ・スカローネは遠野ふきに取って代わって容赦ない復讐を遂げていただろう。
 また反対に、エンツォが真に高潔な人物であったら、ふきちゃんはアビガを凌駕して復讐を手放し、レオとロンドンへ行っていたかもしれない。
 しかし、エンツォは基本的に善人で、けれど致命的なところで偏見に囚われてふきちゃんに辛く当たってしまった。あるいは偏見ではなく、遠野ふきの奥にあるアビガの害意を本能的に嗅ぎ取ったか? それならそれで天晴れだけど、結局理性で本能の警鐘を押しつぶしてふきちゃんに絆されてちゃ世話ない。そしてこの、一番どうしようもない結果を招いた。俺としては最高に面白い。
 ああ、ヴィンチェンツォの奴はそのうち始末しておかないとな。あいつに余計なこと喋られたらせっかくの一大傑作が興醒めだ。


 ともあれ、これで遠野ふきの望みは叶った。彼女はエンツォの愛もレオの愛も手に入れた。
 アビガの復讐も叶った。エンツォはすべてを失い、一生後悔しながら生きるだろう。


 これ以上は語ることもない。最後に、18世紀末のイタリアの劇作家ヴィットーリオ・アルフィエーリの戯曲の一節を引用して結びに代えよう。

 エンツォは、どうして4年も黙っていたのか、と尋ねた。あの時俺は『遠野ふきの従兄弟』という役に相応しい言葉を選んで受け答えしたけど、本当の答えを実は知っている。
 だって、アルフィエーリも書き残していただろう。


 Alta vendetta, d’alto silenzio è figlia.

 執念深き(アルタ・)復讐は(ヴェンデッタ)深き(ダルト・)沈黙の(スィレンツィオ)娘である(・エ・フィッリア)——とね。


 さあ、これで復讐劇はおしまい。
 けれども不幸は続いていく。

 そうして、みんな不幸せに暮らしましたとさ。
 大団円(めでたしめでたし)



                 fin.

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