美の壺・選「クリスマスケーキ」 2015.12.20


(テーマ音楽)
(クリスマスソング)今年は妻と娘のために僕がケーキを作りますよ。
さてとスポンジケーキの上に生クリームを…。
あっ!しまった!ああ〜!ああ…。
草刈さん。
え?ケーキ作り初めてですか?もっと簡単なものにしたらいいんじゃ…。
ダメだよクリスマスケーキといえばイチゴと生クリーム。
決まりでしょ。
クリスマスケーキは世界にいろんな種類があるんですよ。
え?そうなの?年に1度家族や恋人たちの食卓を彩るクリスマスケーキ。
今年のはやりはお一人様用のミニケーキです。
自分へのご褒美もありいろんな味を楽しむのもあり。
毎年有名パティシエのケーキは売り切れ続出です。
こちらはホテルの限定スペシャルケーキ。
中には七色のクリームが。
チョコレートの箱に入ってお値段なんと2万5,000円。
実はクリスマスケーキには世界各地にこんなにたくさんの種類があるんです。
こちらは子どもの頃夢見たようなお菓子の家。
ケーキというよりパンのようなものもあります。
これはクッキーですね。
どれも全体的に茶系でシンプルな印象です。
かたや日本のクリスマスケーキは華やか。
真っ白な生クリームの上にサンタクロースが乗っているイチゴのデコレーションケーキです。
この違いはどこから来たのでしょうか。
今日はクリスマスケーキの美を見つめます。
お菓子教室ではここ数年外国のクリスマスケーキ作りが人気です。
大丈夫大丈夫。
この日はフランスの伝統的なクリスマスケーキ「ビュッシュ・ド・ノエル」。
「クリスマスの薪」という意味です。
スポンジケーキをチョコレートクリームでデコレーションして薪に見立てています。
なぜ薪なのでしょうか。
こういう薪形のものでお祝いするというのは実はキリスト生誕以前からあったんです。
かつてヨーロッパの各家庭では12月上旬に大きな薪を燃やして冬至を祝いました。
ビュッシュ・ド・ノエルはその薪に由来しているのです。
一説によればキノコはキリストの誕生を表しているといわれます。
何も無いところから忽然と生えてくる神秘性から生命誕生の象徴としてとらえられたのです。
ヨーロッパの国々はさまざまな文化的な要素を抱えてます。
それと宗教的な意味合いとが相まってそれで1つのクリスマスケーキというのが作られていくんですね。
その土地その土地によって多様なんです。
今日一つ目の「壺」は…11月のある日都内にあるドイツ人のヘイルさんのお宅で友人を招いてお茶会が開かれていました。
お母さんが運んできたものにみんな大喜び。
ドイツの…11月に入ると焼いてクリスマスまでの間少しずつ切って楽しみます。
もこもこした形のシュトーレン。
ドイツ語で…一見素朴ですが実はさまざまな決まりがあり法律のクリスマスケーキといってもいいほどです。
14世紀に生まれたといわれるシュトーレン。
ドイツで販売用のものを作っていいのは国公立の製菓学校に通い「国家マイスター」の試験に合格した職人だけ。
そのドイツ国家マイスターの称号を持つパティシエが京都にいます。
亀丸さんは留学中国を挙げてその製法を守る姿勢に驚いたといいます。
バターはフルーツ1キロに対しての量は決まってたから学校で全部それは教え込まれてる。
向こうの人は学校に入らないとマイスター取れへんのでね。
シュトーレンと一口に言っても何種類かに分かれています。
それぞれがドイツの食品法で材料の配分が細かく定められているのです。
例えば小麦粉100%に対して中に入れるラム酒漬けの…それらを生地に混ぜ込みます。
専用の型に入れて成型し180℃から200℃でおよそ40分間焼きます。
立ち込めるラム酒の香り。
最後に表面を溶かしたバターと粉砂糖で覆います。
こうすることで中のフルーツの熟成が進むのです。
黄金の生地の中に宝石のようにちりばめられたドライフルーツ。
大中小の3つの山型これぞ由緒正しいシュトーレンの出来上がりです。
流行にとらわれず伝統を守り通すヨーロッパのクリスマスケーキ。
その土地その土地の素朴な味わいが魅力です。
どれもおいしそうだけど僕はやっぱりイチゴと生クリームのケーキじゃないといやだな。
よし。
えいっ!子どもの頃からの夢だったんです。
イチゴと生クリームのせ放題の巨大ケーキ!イチゴ…イチゴ…イチゴ。
ろうそく立てて…。
はいできました。

(メロディが違う)「ジングルベル〜ジングルベル〜ジングルベル〜」草刈さんその曲って…。
クリスマスと誕生日ごっちゃになってる。
そうですよね。
イチゴのショートケーキは誕生日もクリスマスも食べますもんね。
確かに。
日本人がイチゴのショートケーキが大好きなのはそれなりの理由があるんですよ。
へえ。
ヨーロッパに比べて日本のケーキは何ともメルヘンチック。
生クリームの上にイチゴとサンタクロースがのっておとぎ話の一場面のようです。
このイチゴのクリスマスケーキを外国人観光客に見せてみると…。
なぜ日本のクリスマスケーキはこの形になったのでしょうか。
その原型と思われる物が大正14年に発行の当時最先端のお菓子を集めた本に載っています。
「パケアラクレーム」という謎の記載。
イチゴのショートケーキに似ています。
イチゴのショートケーキを日本でつくり出したのは…大正元年アメリカへ修業に渡った藤井が出会ったのは…生クリームとイチゴをスコーンではさんだ…帰国した藤井がスコーンを日本人好みの柔らかいスポンジに変えたものがイチゴのショートケーキの始まりだといわれています。
冷蔵庫の普及が店舗や家庭に広まった昭和40年代頃からその頃から生クリームのショートケーキがクリスマスケーキの主流になったといわれています。
こうしてクリスマスケーキとして売り出されたイチゴのショートケーキは大ヒット。
クリスマスイブには仕事帰りのお父さんたちがこぞって買い求め家族そろって食べることが流行しました。
色彩学者の内田広由起さんはイチゴのショートケーキはクリスマスにぴったりだと分析します。
これ以上の組み合わせはないというぐらい完璧な組み合わせです。
日本人は昔から赤と白の組み合わせは非常に晴れのものとして楽しいものとして感じています。
非常に大事なのは黄色なんですね。
赤と白だと対比がきついからそれを和らげて誰でもケーキに参加してくださいというメッセージです。
要となるのはこの…色だけでなく食感も日本人には重要です。
日本ではしっとりとした食パンが好まれるようにスポンジもきめ細やかなものが好まれました。
今日二つ目の「壺」は…スポンジ作りに徹底的にこだわっているパティシエがいます。
栗原栄徳さんはスポンジのきめを極限まで細かくする手法を編み出しました。
決め手は…まずははちみつ砂糖卵を機械を使わず手作業で攪拌します。
ポイントは丹念に卵の組織をほぐすこと。
しっかり泡立てることで気泡が生まれ腰が出るといいます。
これが最初の状態。
栗原さんは音や匂い見た目の変化に意識を集中させます。
(混ぜる音)最初はバチャバチャと重たい音ですが次第に軽やかになります。
卵の中に空気がしっかり入り細かく均質な気泡ができたことが分かります。
香りも立ってきました。
ミキサーで気泡をさらに細かくした後は栗原さん最大のこだわり小麦粉を入れる作業です。
これも手で行います。
わずか15秒間の勝負。
手で感触を探りながら卵に小麦粉を素早くなじませます。
もたもたしていると小麦粉が水分を吸ってペースト化しせっかくの気泡が台無しになってしまいます。
出来上がった生地は息をしているかのように細かい気泡がふつふつとわき出ています。
すぐさまオーブンへ。
焼き上がったスポンジは表面が滑らかでこんがりきつね色。
生地の中は細かく均一な気泡がびっしり。
これ何かに似ていると思いませんか?カステラの風味を目指しました。
カステラの卵感であったりふわふわしてしっとりした感じを目指してスポンジを作りました。
目指したのは日本人が大好きなカステラのあの幸せな食感。
カステラのルーツは16世紀にスペインから伝えられたビスコチョというお菓子。
当時の文献を元に再現した物がこちら。
表面が固くぼこぼこしています。
これを江戸時代の菓子職人たちが生地の気泡を細かく均等にするなど努力を重ね日本人好みの食感に進化させました。
表面は絹のように滑らかで食感はしっとり。
日本人の舌に広く受け入れられたカステラは和菓子として生まれ変わったのです。
カステラを彷彿とさせるスポンジを使った栗原さんのクリスマスケーキはファンに愛され続けてきました。
クリームはあっさりしていてスポンジはふわふわでとてもおいしいです。
昔から懐かしい味という感じで。
カステラみたいでおいしいです。
日本のクリスマスケーキのおいしさは江戸時代からの積み重ねの上に成り立っているのです。
日本の素材日本の風土それから相手にするお客さんが日本人で日本の風習に則ったものそういう形でお菓子作りをするようになりました。
イチゴと生クリームとふわふわのスポンジ。
日本独特のクリスマスケーキは和心を取り込んで進化してきたのです。
皆の者頭が高い!草刈さん今度は何をしているんですか?これが明治7年に日本で初めてお目見えした殿様サンタのいでたちじゃ。
控えよろう!よい子にはプレゼントを授けるぞ。
当時は靴下ではなく足袋にプレゼントを入れた者もいたそうだぞ。
ずいぶん詳しく調べましたねぇ。
でクリスマスケーキはどうしたんです?控えよろう!この頃はまだクリスマスケーキはなかったのじゃ。
最後は「三太九郎」?当初日本のクリスマスケーキはシンプルなデコレーションでした。
今やケーキの上はまるで祝祭のステージ。
生クリームの雪原の上でサンタクロースが踊りクリスマスの物語を色鮮やかに描き出します。
宗教的な制約が少ない分多くの日本人はクリスマスを純粋にイベントとして楽しんできました。
こちらは子ども向けの教材の中に初めて登場したサンタクロースです。
プレゼントを乗せたロバを連れクリスマスツリーを抱えたこの人。
その名も…子どもたちは物語に夢中になります。
戦後は日本オリジナルのクリスマスグッズが逆に海外に輸出されるようにもなりました。
スイーツ研究家の平岩理緒さんはクリスマスデコレーションには日本人特有の感性が見られるといいます。
日本人って小さな物をすごく精巧に作ってそれで季節感を感じさせるっていうのが得意なんですよね。
だからクリスマスのトナカイであったりサンタクロースであったりクリスマスならではのモチーフも日本人が作るとすごくかわいらしく精巧に作るんですよね。
クリーム装飾の草分け的存在の…和菓子職人からパティシエに転向した経歴の持ち主です。
和菓子の色彩感や季節感を取り入れ日本のケーキ業界に大きな影響を与えました。
当時は誰もここまでやっていなかったと思いますしもちろん海外でもクリームやさまざまなモチーフを作ってケーキを飾るという発想はなかったと思います。
クリームの装飾などのデコレーション技術は…和菓子と見まがう花飾り。
こちらはキノコの森に迷い込んだようなファンタジーの世界です。
今日最後の「壺」は…本橋雅人さんは繊細なデコレーションで有名です。
クリーム装飾の神業を持つといわれるほど。
粉砂糖とクリームであらゆるものを表現してしまいます。
こちらの見事な装飾のクリスマスケーキ。
白一色で荘厳なまでの世界を感じさせます。
この口金一つで多彩なモチーフを繰り出すのが絞りの技。
口金の微妙な角度と絞る力加減でクリームの出方を自在にコントロールします。
ピンクと白の生クリームを袋に入れれば…。
5弁の花びらの先端がほんのり桜色に染まりました。
バラの装飾はカップを持つ手を回転させて作ります。
左右の手首を同時にひねりながらクリームの量を調整するのは至難の業だといいます。
これらはすべて日本で独自に作り出されました。
クリーム装飾は日本独特のクリスマスケーキを生み出したのです。
はじめはまねごとだったかもしれませんけど今は…以前は輸入してましたがこれからは輸出できる。
そういう時代に入ってきてるなと思っています。
うわぁ!なんてすてきなサンタクロースの人形!実はこれチョコレートでできているんです。
信じられますか?「チョコレートア−ト」という新しい分野で活躍する…洋菓子の国際大会でも高い評価を得た藤本さん。
その世界最高峰の技術とは?まずは顔料で着色したチョコレートをパーツごとに手で成型していきます。
洋服のしわなどはへらを巧みに使って表現します。
チョコレート細工専用の道具はありません。
油絵や陶芸に使う道具を用います。
藤本さんが最もこだわるのが瞳です。
表情豊かなぬれて光るようなまなざしを表現するためにコーヒーリキュールで艶を出します。
サンタクロースのひげは砂糖と卵白を混ぜたグラスロワイヤルを絞ってひと束ひと束重ねていきます。
地道な作業。
これだけで4時間以上かかります。
こうして2日間かけて完成した藤本さんのサンタクロース。
「ほっほっほいい子にしていたかな?」そんな声が聞こえきそう。
ふわっふわのひげの中から優しい瞳が輝いています。
本物そっくりのものが食べられるってそれだけでワクワクするし驚きもあるじゃないですか。
それです。
驚いた顔が見たい。
楽しませてあげたい。
それに尽きるかなと思います。
クリスマスの物語をファンタジーとして楽しんだ日本人の感性とパティシエたちの飽くなき探求心。
日本のクリスマスケーキの物語はまだまだ続きます。
控えよろう…。
ふふふ…。
ん?あれ?もしかして今の全部夢?草刈さん。
え?夢の中で遊んでばかりじゃすてきなケーキはできないですよ。
そんなぁ…。
ああどうしようこれ…。
もうすぐ妻と娘が帰ってくるよ。
ああ仕方ない…クリスマスケーキ買いにいこう。
日本にはすごいパティシエがたくさんいるんだよ!12月5日。
2015/12/20(日) 23:00〜23:30
NHKEテレ1大阪
美の壺・選「クリスマスケーキ」[字]

身近なテーマを中心に、美術鑑賞を3つのツボでわかりやすく指南する。今回は「クリスマスケーキ」。世界に誇る日本菓子職人の装飾の技!各国のケーキも!案内人:草刈正雄

詳細情報
番組内容
年に1度、家族や恋人たちの食卓を彩るクリスマスケーキ。西欧各地には長い歴史に守り抜かれた伝統のクリスマスケーキが存在するが、日本のクリスマスケーキは宗教的な制約が少ない分、より自由に、華やかに進化を遂げた。ドイツの「法律のクリスマスケーキ」とは? 日本のケーキのスポンジに込められた南蛮渡来の技とは? 日本が世界に誇るデコレーション技術とは? 究極のクリスマスケーキを、お楽しみに。
出演者
【出演】草刈正雄,【語り】礒野佑子

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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