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図書館の悩み、明治も同じ 開館120年、津島で資料発見

1910年に撮影された館内の様子=津島市立図書館提供

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◆利用増や選書など

 日清戦争の勝利を記念して一八九五(明治二十八)年に「凱旋紀念(がいせんきねん)書籍館」として設立され、東海三県の公立(自治体立)では最古の愛知県津島市立図書館が、二十二日で開館から百二十年を迎えた。同館の調査で開館直後や明治期の資料が見つかり、利用者集めや本の選定、資金調達などで当時から苦労していた実態が分かった。同県小牧市での「TSUTAYA(ツタヤ)図書館」をめぐる住民投票をはじめ、自治体図書館をめぐって各地で論争が起きているが、同じ悩みは公立図書館の黎明(れいめい)期からあった。

 「御客様たる閲覧人が来らずしては、何にもならぬなり」。一九一一(同四十四)年、現在の市教育長にあたる郡視学だった板津森三郎が「通俗図書館に就(つい)て」の題で「愛知教育雑誌二八八号」に掲載した論文に、こんな記述があった。

 地域図書館の目的や理念、来館者を集める工夫が記され、利用者増のために「方策を講ずるの必要あり」と指摘し、民間書店をまねて「新着書籍の広告看板を門前に出すべきだ」と強調。講演会や読書会の開催を勧め、音楽やちょうちんで雰囲気を盛り上げる案も挙げた。館内設備は「ありきたりの図書館とは趣を異にしなければならず、お役所的ではなく倶楽部(くらぶ)(社交場)的に」と提案している。

 図書館運営で最も大切なのは、どんな書籍を並べるかの「選書」であると断言。「健全で読みやすく、おもしろく、ためになるもの」をそろえる必要を説いた。そのためには「購入後に一渡り卒読し、健全かどうかを確かめるべきだ」と指摘していた。

 まるで現代の来館者集めの方法をめぐる議論や、不適切な蔵書問題を見通しているかのようだが、そもそも学術目的ではない地域図書館の設置目的は「一般人の普通知識を増進し、清き趣味を養成する」「無益または有害の遊びに時間や金銭を空費せざるの良習を養う」とした。多くの人に読書習慣を持ってほしいという意図がうかがえる。

 津島市立図書館は、地元の教師や有力者の団体が開設して以降、組織分裂や自治体の改編で設置者が次々と代わる中、蔵書を受け継いできた。運営方法などの資料はその都度、廃棄されたとみられていたが、館の調査で今回、板津論文に加えて、開館後三年間の記録が愛知県の蟹江町や愛西市、あま市などの公立図書館で見つかった。

 こうした資料から、開館時は図書購入予算がほとんどなく、全蔵書の97・2%に当たる七百六十五冊が寄付だったことや、当初から運営者が「資金力が弱く、公立移管が望ましい」と意見を述べていたことも分かった。

 津島市立図書館はこうした調査結果を、来年二月に京都市で開かれる日本図書館研究会の大会で発表する。調査した園田俊介副館長(39)は「地域の小さな図書館の本質は百年以上前から変わっていないのかもしれない。社会の変化の影響を大きく受けるのも今と同じ。何とか存続させようとした昔の苦労がみえてくる」と話す。

◆明治期の調査は貴重

 <福永智子・椙山女学園大教授(図書館情報学)の話>戦前の図書館は戦後の民主的図書館とは根本的に違うと考えられていて、これまで評価されていない。明治から大正期の公立図書館の歴史は研究が進んでおらず、客観的視点で紹介されることも少ないだけに、津島市立図書館の今回の実態調査は非常に貴重な研究だ。

(津島通信局・南拡大朗)

 <TSUTAYA(ツタヤ)図書館> レンタル大手ツタヤを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する図書館。2013年4月に改装した佐賀県の武雄市図書館で初めてCCCが指定管理者になった。年中無休で、コーヒーチェーン店やCD・DVDの有料レンタルエリアを設け、来館者は改装前の3倍以上に増加。一方で、10年以上前の資格試験の対策本購入が判明したほか、蔵書分類がずさんとの指摘も出ている。神奈川県海老名市の図書館でも似た問題が発覚した。愛知県小牧市では10月の住民投票で、ツタヤと連携した図書館建設計画への反対が多数を占め、市はCCCとの契約を解消した。

 

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