2015年12月23日

消えたイングランド王国



消えたイングランド王国
第一章 襲い来るデーン
第二章 勇者たち
第三章 終焉への足音
第四章 最後のアングロサクソン戦士

 ノルマンディ公ウィリアムによるノルマン征服以前に存在したイングランド王国142年の歴史を追った書です。即ち,デーンと呼ばれるヴァイキングに翻弄される時代の中で雄々しく戦った戦士王たちの姿が印象的。そして,彼ら戦士王たちの中で唯一修道士的清廉さを保ち続けたエドワード聖証王が現在において最も名高いというのは皮肉でありましょう。また,デーンに統治された時代のイングランドの姿が面白いです。侵略者でありながらデーンの首領であるクヌートが一定以上の評価をされているというのが素敵。このあたりは幸村誠の『ヴィンランド・サガ』の時代と完全に被る部分もあり楽しませて貰いました。クヌートとソーケル長身者の名前が登場する度に頬が綻ぶのを自覚します。また,エゼルレッド無策王の時代のモルドンの戦いを描いた叙事詩の全訳が収録されているのも非常に嬉しい。ヴァイキングの侵攻の中で誇りをかけて散って行ったビュルフトノースたちアングロサクソン戦士の姿は印象的でありました。その悲哀に満ちた叙事詩はあの『ベオウルフ』以上とも言われているのだとか。その優劣はともかく,非常に心に残るものがありました。また,最後のアングロサクソン王であるハロルド2世の
生涯が格好いい。ヘイスティングズの戦いでノルマンディ公ウィリアムに敗死した印象しかありませんでしたが,それが完全に覆されました。その死も偶発的な要素が大きく,寧ろ勝者になるに相応しい人物だったように思います。その場合の歴史が如何に変わったのかは想像する他にありませんけれども。英国史の中でも比較的印象に薄い時代を扱っているということでも得難いのですが,尚且つ分かり易く楽しい一冊でありました。『モルドンの戦い』の全文訳だけを目的にするにも価値があると思います。
タグ:英国史
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posted by 森山樹 at 21:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍
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