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『ベルセルク』三浦建太郎「『スター・ウォーズ』は日本人のコンプレックスを毎回刺激してくるんですよ」<2>

代表作『ベルセルク』

 

アニメの時代になった80年代

 中学で『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』、高校で『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』を映画館で見ました。でも当時のタイトルは「ジェダイの復讐」だったんですよ。ジェダイ、復讐するのかなぁって思いましたけど(笑)。ただ80年代の初めって『機動戦士ガンダム』以降ガンダム一色になってて、これからはアニメだ!って時代だったんです。もう実写じゃ無理だ、ハリウッドとは予算も違うしセンスも違うからSFは撮れない、って映画や特撮が諦めていた時代なんです。

 ちょうど僕の高校時代ってハリウッド映画全盛期で、世界のビジュアルのトップってハリウッドのSF映画だったんです。そこで言われてたのが「いつか『機動戦士ガンダム』(※1)がハリウッドで実写化されるんじゃないか」っていうまことしやかな噂で、日本じゃ作れないけどアメリカで実写映像になって見られるかもしれないって夢を、また“あるある詐欺”で見させられてたんですよね(笑)。

 

周回遅れになった日本映画

 とにかく日本のSF好き、スペースオペラ好き、スペースファンタジーもそうかもしれないけど、そういうのが好きな人たちは、なんかそういう肩透かしを食らいながら大人になったんですよ。で、最近はそういう映画を作るのは諦めちゃったじゃないですか。日本には無理なんだって。CGが取り入れられても、結局何もなかったですもんね。

ちょっと前に『ULTRAMAN_n/a』という映像がありましたよね。あれを見て、僕が子どもの頃に夢見てたウルトラマンがやっとビジュアル化した、これが10年早ければ、いや20年前だったら、と思ったんです。だけど今度の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』って、もうCGは古い、時代は着ぐるみだ、実物のセットだ、に戻っちゃったじゃないですか(笑)。それを聞いて、日本は周回遅れになっちゃったな~と思いましたね。『スター・ウォーズ』の新作を見るのはいつも楽しみなんですけど、日本人のコンプレックスを毎回刺激してくるのが『スター・ウォーズ』なんですよ。とにかくすごく楽しい、でもなんか悔しい、の繰り返しなんです(笑)。

 

センス、人脈、アイデア

 僕が学生の頃って、学生が『スター・ウォーズ』のパロディ映画を作ってコミケとかで上映してましたよ。アニメもありましたね。庵野秀明(※3)さんがダイコンフィルムでパロディしていたり、その横でパロディ特撮なんかもやってたと思うんですけど、今はそういう流れがまったくなくなっちゃいましたね。それからバブルの頃に日本の映画界がビッグになって、予算も潤沢になった時代もあったのに、結局僕らが夢見たような作品は出来ずじまいで、日本って娯楽にお金出してくれないんだっていうのがわかって、話を作ったり夢の世界を創ったりする仕事に就いた者としては、頭打ち感がすごくありますね。

 でも『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』って、そんなにお金をかけずにセンスとか人脈、アイデアで一生懸命作ったらしいじゃないですか。それから80年代には『ターミネーター』(※4)とか『ロボコップ』(※5)なんかが人気になりましたけど、どちらも1作目って低予算で、アイデア勝負なんですよ。そういう映画を見て、想像したものを人間のパフォーマンスでリアリティを出すっていう手があるんだ、っていうことにみんなビックリして、じゃあ日本もオリジナルなアイデアで、お金がなくてもリアルに作れるんじゃないかと思ったけど…。

 

『ベルセルク』における、ライトセーバー的アイデア

 とにかくライトセーバーって、史上最も優れた発想で出来た武器だと思うんです。あれ以上ってちょっと想像できない。「ビームが剣」ってすごい発想だし、「光の剣」というだけで聖なるものをイメージするじゃないですか。それから撃たれたビームを跳ね返せるという設定があることで、剣を持った人間が銃器を持った人間のアクションの中にすんなり入れるから、話を広げられる。ジェダイの考え方もすごいですよね、そしてフォース…もうとにかく全部がすごい!(笑) たぶん一個「ライトセーバー」といういいアイデアがバッと思い浮かんで、連鎖的に思いついたのかなと思うんですけど、なんであんなに全部揃ったの、って思うくらいアイデアが揃ってますよね。

 機械が汚れてたり、トルーパーみたいな同じ面子の兵隊がズラッと並んでたり、映像的にすごかったり、そういうところの方が着目されがちですけど、漫画家としては、ひとつのアイデアから全部がパタパタパタっと連鎖して意欲的なストーリーが出来上がっていく、って本当にすごいことだと思いますね。

 『ベルセルク』(※6)もライトセーバーとまではいかなくても、一個で回せるすごいアイデアっていうのがなきゃダメだって思って、一生懸命考えた挙句、あの大きなサイズの剣になったんですよ。こういうのってちょっとしたことなんですけど、アイデアを思いつくのって難しいんですよね。

一個のアイデアで全部が勝ちになる

 「一個のアイデア」で言うと、80年代の『週刊少年ジャンプ』の漫画って、そういうものが多かったんですよ。例えば『聖闘士星矢』(※7)だったら「聖衣(クロス)」っていうのを考えた時点で勝ちなんですよ。そのアイデアから連鎖して、ギリシャ神話で美少年で、っていうのが全部ダダダダダッって決まっていくんです。『北斗の拳』(※8)も『マッドマックス』(※9)と「ブルース・リー」(※10)が合体したものですけど、秘孔を突いたら爆発するアイデアがすごかった。アニメだと、例えば『超時空要塞マクロス』(※11)だったら「バルキリー」を考えられたら勝ちなんですよね。あの機体が活躍する舞台を考えていけばOKだから。

 そんな一個のアイデアで全部が勝ちになる、オセロのように変わる作品っていうのが80年代には結構ありました。『ジャンプ』が超メジャーになった頃って、そういうものの塊だったんです。今、漫画家と担当がアイデアを練って、必ず何かひとつ新しいものを出すっていう決まりにしたアイデアを重要視した漫画雑誌を作ったら、かなり面白いものが出来ると思います。もしかすると『スター・ウォーズ』みたいな作品が生まれるかもしれないですよ。

 

(※1)『機動戦士ガンダム』…1979~80年放送のテレビアニメ。監督・富野由悠季(当時は喜幸)。従来のロボットアニメとは一線を画する「モビルスーツ」やリアルな戦闘や青春群像劇を描き、ティーンを中心に人気が高まった。視聴率が振るわず打ち切りとなったがすぐに再放送が始まり、「ガンプラ」と呼ばれるプラモデル人気もあって幅広い層の人気を獲得、三部作の映画が公開されるなど一大ブームとなった。

(※2)『ULTRAMAN_n/a』…2015年7月に公開された、円谷プロダクションによる実写とCGを組み合わせた2分45秒のショートムービー。渋谷駅前の地下から突如怪獣が出現、それを迎え撃つウルトラマンとのバトルシーンがハイクオリティな映像で描写されている。

(※3)庵野秀明…(1960~)映画監督、アニメーター。大学中退後、数々のアニメ制作現場で活躍。代表作に『トップをねらえ!』『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』など。声優として『風立ちぬ』にも出演。特撮マニアとしても知られ、2012年には「館長 庵野秀明特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」をプロデュースした。

(※4)『ターミネーター』…1984年公開のアメリカ・イギリス合作映画。監督ジェームズ・キャメロン。殺人アンドロイドT-800が抵抗軍指導者ジョン・コナーの母親サラを殺害する目的で、近未来から1984年のロサンゼルスへ送り込まれるが、機械に支配される未来を阻止するための戦いとなる。T-800を演じたアーノルド・シュワルツェネッガーは一躍人気となった。後にシリーズとなり、テレビドラマも制作された。

(※5)『ロボコップ』…1987年公開のアメリカ映画。監督ポール・バーホーベン。主演ピーター・ウェラー。マフィアの手によって殉職した警官マーフィが、サイボーグ警官「ロボコップ」として復活、街の治安を取り戻していくが、昔の記憶が蘇ってしまう。『ロボコップ2』『ロボコップ3」とシリーズ化、2014年にはリメイクも作られた。

(※6)『ベルセルク』…1989年より『ヤングアニマル』に連載されている三浦建太郎による漫画作品。身の丈を超えるような巨大な剣を持つ、首に生け贄の烙印が刻まれた黒い剣士ガッツが、ゴッド・ハンドと呼ばれる幽界の最深部にいる謎の存在を追い、様々な敵と戦い続けるダーク・ファンタジー。既刊37巻。

(※7)『聖闘士星矢』…1985~90年『週刊少年ジャンプ』に連載された車田正美による漫画作品。邪悪な存在から世界を守る、各星座を守護とした聖衣(クロス)をまとった「聖闘士(セイント)」が戦いを繰り広げるファンタジーアクション。ギリシャ神話を題材としている。

(※8)『北斗の拳』…1983~88年『週刊少年ジャンプ』に連載された原作・武論尊、作画・原哲夫による漫画作品。人間の体にある経絡秘孔を突くことで人体を内部から破壊する一子相伝の暗殺拳「北斗神拳」の伝承者であるケンシロウが次々に現れる強敵と戦うハードボイルドアクション。

(※9)『マッドマックス』…1979年公開のオーストラリア映画。監督ジョージ・ミラー。主演メル・ギブソン。暴走族による凶悪犯罪を追う警官マックスの孤独な戦いを描く。後にシリーズ化され『マッドマックス2』『マッドマックス/サンダードーム』が制作され、2015年には4作目となる『マッドマックス 怒りのデスロード』が公開された。

(※10)ブルース・リー…(1940~73)香港のアクション俳優。武道家から俳優となり、映画『ドラゴン危機一発』『ドラゴン怒りの鉄拳』『ドラゴンへの道』『燃えよドラゴン』『死亡遊戯』などに主演。「アチョー!」という掛け声と激しいアクションで人気となるが、32歳の若さで突然死した。

(※11)『超時空要塞マクロス』…1982~83年放送のテレビアニメ。宇宙から飛来し墜落した巨大宇宙戦艦が改修され「マクロス」と名付けられて宇宙へ旅立つが、異星人との戦争が勃発する。若きスタッフが結集して新たなSFアニメの潮流を作り、ノベライズや映画化もされた。斬新な3段変形機構を持つ可変戦闘機「VF-1 バルキリー」が人気を集めた。

 

取材・文=成田全(ナリタタモツ)

インタビュー第3弾は12月25日(金)公開です。
インタビュー第1弾はこちら


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