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HIVの感染率を99%下げられる錠剤も登場している:HIV検査と治療の「現在」
1990年代に育った人ならば、何もしなくてもエイズの研究についてある程度の知識が得られていたはずです──少なくとも、そのように感じられていました。それ以降、検査と治療が向上し、今、私たちはHIVウイルスについてより多くのことを知るようになりました。しかし、その情報は常識にはなっていません。HIVとエイズは、私たちのレーダーから外れてしまっているのです。
もちろん、時折は話題にのぼります。たとえば、先日、チャーリー・シーンがHIVに感染していることを公表したときのように。そして、今あなたが読んでいるこの記事も、毎年「世界エイズデー」の前後に投稿されるたくさんの記事(これが、この「Googleトレンド」チャートの赤いラインが急激な増加を示している原因です)の1つです。
誰もがHIVとエイズのことを忘れらていられるわけではありません。アフリカでは、約2500万の人々がHIVに感染しています。アジアでは、エイズに関連したティーンエイジャーの死が実際に増加しています。そして同性愛者たちの交際現場では、これらは既知の問題です。「Gawker」のライターRich Juzwiak氏が、自身の経験をここに綴っています。
「National HIV/AIDS Strategy(国家HIV/エイズ戦略)」最新版には、太字を使って「HIVは依然として蔓延しており、米国にとって深刻な健康問題であることに変わりはない」と書かれています。毎年、5万人が新たにHIV感染の診断を受けています。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、その割合は1990年代半ばから変わっていないといいます。つまり、HIVに感染している人の数は増え続けているのです。
エイズはどうなったのか?
さまざまな進歩のおかげで、エイズはもはや疫病でも恐怖でもありません。治療の向上は、HIVがエイズに進行するケースはめったにないことを意味しています。検査技術が向上したおかげで、検査を受ける人々は、より早く自分の状態を知ることができるようになりました。また、無防備な性行為の危険性に対する人々の認識も高まっているようです。
エイズはHIV感染が進行した状態にすぎません。現在、エイズを発症するのは、HIV感染者の約2パーセントだけです。しかし、1980~90年代には、感染者はHIVがかなり進行してようやく診断されるケースが多かった、とマイアミ大学(フロリダ州)「Comprehensive AIDS Program(総合エイズプログラム)」のディレクターを務めるMichael Kolber医師は述べています。
「今の私たちには、HIVを消失させるのに必要なあらゆるツールがあります」とKolber医師は言います。しかし、検査を受ける人の数は、十分とは言えません。自分が受けるべきであることを知らない人もいますし、何かの事情で受けられない人もいます。自分が感染していることに実際に知った人たちでも、ウイルスを抑制する薬を服用できない、あるいはしない場合があります。
だからこそ、CDCなどの公衆衛生団体は、より多くの人々が検査を受け、薬をより手頃な値段にして入手しやすくし、HIVに対する人々の理解を深めるための取り組みを数多く実施しているのです。そんなわけで今回は、HIVについて、あまり知られていないけれども、きっと知っておいたほうが良いことを、いくつかご紹介します。
おそらく検査は受けたほうが良い
現在、120万の人々がHIVに感染しています。その数は、ニューハンプシャー州の人口とほぼ同じです。そして感染者の12.8パーセントは、自分が感染していることを知りません。
もしあなたがHIVに感染しているのなら、自分の状態を知ることが、状況を大いに有利にしてくれます。感染の症状が現れる前に治療を開始できるので、重い病気(エイズ関連の病気など)を発症する可能性が大幅に低くなります。また治療も、ウイルスをほかの人にうつすリスクを減らしてくれます。自分の状態がわかれば、性行為の相手に検査を受けたほうが良いと教えることもできます。そうなれば、その相手も早期治療の恩恵が得られます。
念のためにおさらいしておきましょう。HIVウイルスは血液や精液、尿道球腺液、膣分泌液、腸液、母乳などの体液を介して伝染することがあります。唾液や涙、汗からは、そう簡単にはHIVに感染しません。こちらのファクトシートには、ごくまれではあるものの、理論的には伝染が起こりうる「キス」などのシナリオを含んだ感染ルートの概要が説明されています。
CDCによると、13~64歳の人は誰もが少なくとも一生に1度は検査を受けるべきだそうです。また、HIVに感染しているかどうかわからない人たちと性的関係を持っているなどのリスク要因がある人は、年に1度、検査を受けるべきでしょう。
検査技術は大きな進歩を遂げてきた、とAbbott Laboratoriesで診断研究部門のシニアディレクターを務めるGerry Schochetman氏は言います(Abbott LaboratoriesはHIV検査の開発を行っています)。旧式のHIV検査では、HIVウイルスに反応して人体が生成する抗体の検出が行われます。この検査で十分な抗体を出現させるには、数週間から数カ月の時間がかかります。それに対して最新の「コンビネーション(組み合わせ)検査」では、抗体とウイルス自体の検出が行われます。CDCもこのタイプの検査を推奨しています。コンビネーション検査は、感染後1カ月以内にHIVを発見できます(それより早い場合もしばしばです)。
かかりつけの医師に検査を依頼するのも1つの方法ですし、Planned Parenthoodのようなクリニックに行くのも1つの方法です。あるいは薬物乱用治療プログラムや移動検査カーなど、ほかの多様な施設でも検査サービスを実施しています。また、このツールを使って近くの検査サービスを見つけたり、自宅で検査を行うためのキットを注文することもできます。
もしこのような検査のどれかで陽性反応が出た場合には、その結果を確認するために別のタイプの検査が行われ、この診断結果の意味や、ほかの人たちを危険にさらさないようにするために何ができるのか、などについての理解を深めるためのカウンセリングが通常行われることになる、とSchochetman氏は言います。
また、HIVの専門医にも紹介されるはずですので、たとえまだ症状が出ていなくても治療が始められます。
HIVは死刑宣告ではない。しかし、そう簡単なものでもない
HIVは、時宜を得た不断の治療で管理が可能です。感染者の血中のウイルスの量は検出不能なレベルにまで下げることが可能で、感染者の平均余命は非感染者と同じぐらい長い場合もあります。
しかし、誰もがこういった治療を受けられるわけではありません。Kolber医師は「若者は、健康なときには薬を飲むのを嫌がります」と述べています。薬の副作用を恐れる患者予備軍もいますが、適切なケアを受けているHIV感染者の割合が惨憺たる状況になっているのは、ほかに要因があります──貧困、人種格差、ホームレス生活などです。「住宅供給などのサポートサービスが受けられれば、受けられない場合よりも薬を服用できるようになるでしょう」とKolber医師は言います。
ほかの健康状態も治療の妨げになることがあります。2014年9月に科学誌「Mosaic」は英国在住のHIV患者の特集を組みました。取り上げられた人たちは、誰一人として楽な生活を送っていませんでした。その中の1人、Hugh氏という男性は最初、治療を避けていました。その後、治療を開始しようとしましたが、錠剤を飲み込めないことが判明します。砕いてアイスクリームに混ぜて飲んでも、数分後には吐いてしまうのです。医師は液剤を処方するようになりますが、今度はうつ病の悪化でそれが飲めなくなりました。免疫系が正常に機能しなくなり、Hugh氏はトキソプラズマ症にかかってしまいます。その結果、発作と、化学療法が必要なリンパ腫を患うことになってしまいました。この記事が投稿された2014年9月23日現在、Hugh氏は両親といっしょに暮らしており、杖を使って歩いていました。彼は35歳でした。
HIVの治療薬は高価で、Kolber医師の概算によると月に2000ドルほどの費用がかかるそうです。薬と費用のリストはこちらです。そのほとんどに後発薬(ジェネリック)はありません。費用を賄うのには、民間保険とさまざまな政府プログラムが役に立ってくれます。一般に、患者は3種類以上の薬を「カクテル」として服用しますが、錠剤1粒にまとめられる場合もあります。具体的にどの薬を飲むかは、どの種類のウイルスに感染しているかによって決まります。
また、HIVの薬には副作用もあります。これらの副作用は徐々に深刻化する恐れがあります。患者は(理想的には)薬を何十年も続けて飲むことになるからです。途切れることなく医療ケアを受け続けるのは、HIVを抑制するためだけではありません。薬が今もまだ有効か、薬が患者の体にダメージを与えていないかなどを監視するためでもあるのです。監視の対象となるのは、たとえば、肝臓障害や骨粗しょう症などです。
薬でHIV感染を防げる
驚くべきことに、非感染者が飲むと、HIVに感染するリスクを実に99パーセントも下げられる錠剤があります。「Truvada」と呼ばれる薬で、費用は月に約1000ドルです(この便利なフローチャートは、その費用を保険と支援プログラムで賄う方法を知るのに役立ちます)。
また、HIVの治療自体も予防の一種です。HIVに感染していても指示通りに薬を飲んでいる場合には、患者がウイルスを感染させるリスクは下がります。この研究によると、96パーセントも下がります。
治療によって、患者のウイルス量を検出できないレベルにまで下げることが可能です。ですから、HIVに感染している可能性があるのにそのことを知らない人よりも、HIVに感染していてもきちんとコントロールできている人とベッドを共にするほうがましです。感染しているかどうかわからない人は今後、もっとも感染力が高まる急性期に入る恐れもあるのです。
また、HIV患者がウイルスに感染していない子供を産むことも可能です。妊娠中の治療により、母親が子供にウイルスを感染させるリスクを下げられるのです。ですから多くの場合、HIV検査が標準的な妊娠初期の血液検査に組み込まれているのです。
治療法やワクチンはまだない(けれど、完成に近づいている)
過去には、HIVに感染した赤ちゃんが治癒したと思われたケースがありました。その女の子の赤ちゃんは、HIV感染者の母親から未熟児として生まれました。そして医師たちは、生まれた直後のその子に治療を行うという異例の措置を取りました。その子はよちよち歩きの頃に薬を飲むのをやめましたが、ウイルス量は検出不能の状態が1年以上続きました。この女の子「ミシシッピベイビー」は完治したかに思われましたが、3歳のときにウイルスが再び検出されました。
ウイルス量が検出不能になっても、患者はHIVウイルスを体の中にまだ持っています。HIVウイルスはリンパ節や骨髄などの「タンク」の中に潜んでいるのです。治癒に向けた可能性のある戦略の1つは、ウイルスに「ショック」を与え、隠れ家から出てきたところを死滅させるというものです。このアプローチに取り組んでいるエイズ研究者のPaul Volberding氏は、CBSニュースで次のように語っています。
目標は5年で治療法を見つけることだ、と私たちは公言しています。誰もがこの目標は現実的というより野心的だと思っていることでしょう。しかし、その5年が終わるころには、私たちは今いる場所よりもずっと前に進んでいると考えるのは夢物語ではない、と私は考えています。
以前からワクチンの開発は進められてきていますが、かなり完成に近づいていると一部の人々は考えています。研究者のLouis Picker氏は、自分が開発しているワクチンは早ければ今から10年後に用意できるかもしれない、と『Forbes』誌で語っています。人が感染してはじめて効果を発揮するそのワクチンは、免疫系をだまして、ウイルスが潜伏しているタンク内にある患者自身の細胞を攻撃させます。このワクチンは、サルを使った実験で50パーセントの効果を発揮しています。
Kolber医師は次のように述べています。「100パーセント確実な防御法が確立できれば、それに越したことはありません。でも考えてみてください。たとえ10~20パーセントの防御法でも、その分だけ感染率は下がるのです。これは大きなプラス効果です」
ワクチンや治療法が完成すれば、HIVは過去の遺物になるでしょう。しかし、差し当たっての最善の選択は、今ある検査と治療を活用することなのです。
Beth Skwarecki(原文/訳:阪本博希/ガリレオ)
Illustration by Tara Jacoby.
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