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散るろぐ

まだ見ぬ才能と、世界の架け橋に

僕という名のクズ


Profile チルド -|- 貯蓄家
id:cild


自分がクズだと気づいたのは、いつだっただろう。

みんなが、もしも僕にイラっとするとしたら、その感覚はまちがいじゃない。僕には、いつだって人を苛立たせる素質があるんだよ。




僕がまだ中学生のころ、塾へ行くとき、いつも迎えに来てくれる女の子がいた。

当時、僕の住んでいた家は、車も通らなければ、街灯も民家の明かりもない、町外れの寂しい場所にあった。

家に向かう小道は、夜の8時ともなれば、人気も無くなり、わずかな月明かりが頼りの、暗い道だった。

ある日、僕は、その暗さの有効利用を思いついた。サプライズだよ。迎えに来てくれる久美子をびっくりさせてあげようと思った。

昼のうちに、久美子が来てるルートを確認して、自分でも夜に歩いてみた。そして、3日ほどかけて、その道のりで、もっともサプライズの効果の高そうなポイントを見つけ出した。

まさか、こんなところから、人が出てくるハズがない、出て来てほしくない、というような、意外性に富んだ場所だった。



いよいよ実行すると決めた日は、奇しくもクリスマスの夜だった。「これは面白いサプライズになるよ」僕はそう確信して、黒ずくめの上下に、目出し帽をポケットに忍ばせて、サプライズポイントに向かった。

そこは、ゆるやかなカーブの、もっとも暗い場所だった。なおかつ、一瞬、見通しが途切れていて、人間ならば誰しも、本能的に不安を感じるところだった。

僕はそこにしゃがんで、息を殺して身を潜めた。万が一に備えて、7時半に家を出た。予定通りなら、久美子はあと25分後にここを通過するはずだから。

僕は、顔全体をかくす目出し帽を、もう一度深くかぶり直して、裏手の竹林から風にそよいでカサカサと鳴る笹の音を聞きながら、いまにも爆発しそうな笑いを噛み殺していた。


暗く、光のない塀の影にしゃがんでいると、時間の感覚を喪失しそうになった。月明かりのないクリスマスの夜は、気温も下がって、吐く息が白かった。シンと冷えた地面の冷たさが、腹這いになった黒いズボンを通して伝わってきた。

しばらくして、僕は、もしかしたら久美子は来ないかも知れない、別のルート、別の手段で僕の家に向かっているかも、という疑念がよぎった。

そのとき、遠くから、小石がシャリシャリ鳴る、かすかな足音が聞こえてきた。僕の読みは見事に的中した。わざわざ確かめなくても、この時間、この道を通るのは、久美子でしかありえないから。

僕は、高鳴る鼓動を感じながら、足音に全神経を集中した。そして、飛び出すタイミングと奇声のイメージを反復した。


シャリ、シャリ、シャリ。


足音は、小走りに近づいてきた。暗く不気味な道を早く通り過ぎたい。僕には、久美子の感じている不安が手に取るようにわかった。

そして、足音があと3歩に迫った瞬間、僕は全身をバネのように弾けさせて、手足をめちゃくちゃに振り回しながら、奇声をあげて道に飛び出した。

ポジション、飛び出し、タイミング。そのすべてがひとつになって、完璧なサプライズだった。

しかし、久美子は、驚くどころか、叫び声ひとつあげなかった。僕は、思ったような反応を得られなくてガッカリした。これほど入念に計画したのに、久美子に見破られていたと思ったんだよ。


その刹那、久美子は、糸が切れた人形のように、崩れ落ちた。僕は今まで、人間がそんなふうに倒れるのを見たことがなかった。例えるなら、ボクシングのKOシーンみたいに、クシャっと潰れるような倒れ方だった。


僕は、咄嗟に、ごめん、ごめん、と言いながら、目出し帽を脱いで謝った。想像していた驚き方とぜんぜん違ったから、焦ってしまった。


久美子はしばらく呆然としていたけど、すぐに乱れた髪を両手でなでつけて、メガネをかけ直した。そして、力なく立ち上がると深いため息をついた。

久美子の服には、白い砂ぼこり。スカートから伸びた白いヒザには、小石が何粒かくっついていた。地面に小さな黒いシミがあった。足を擦りむいてケガしたのか、あるいは別の液体だったのかも知れない。

久美子は、バッグを拾って、地面に散乱したノートや筆箱を、震える手で押し込むと、僕には一瞥もくれずに、来た道を去っていった。


数日後、姉から「アンタ、くーちゃん(久美子)になんかした?」と詰め寄られたけど、僕は知らないと言った。

そもそも久美子は、僕が高校に行けそうもないのを心配して、塾に誘ってくれたのだ。そして、すぐサボってしまう僕を見かねて、毎日、遠回りして迎えに来てくれていたのだ。


それ以来、僕は、誰とも親しくならない、ならない方がいいことに気がついた。僕の思いつく愉快さは、他人のそれとは、どこか違う。ときには不快感を与えてしまう。それを悟ったんだよ。

そんな僕が流れ着いた場所こそ、インターネットであり、ブログだった。

ここでなら、適当な距離感で寂しさを紛らわせるし、文章も、書いたあとに見直せば、これはマズイ、誰か怒るかも知れないってことを冷静に考えられた。それに、少々間違ったり、ウソをついても、そんなに責られないからね。

ときどき、見直さずに出してしまったり、気分で投稿してしまうこともあるけど、そんなときはやっぱり袋叩きに合う。

僕はきっと、フィクションの世界に行かなければならないんだろうね。だけどブログが楽しいんだよ。ここには人の温もりがある。

小説を書くのは、孤独すぎる。仕事をしているうちは、とてもじゃないけど、あんな孤独に耐えられそうもない。



賞賛、罵倒、なんだっていい。

僕に愛を恵んでください。

よろしくお願いします。