木材を使い、和を感じさせる「木と緑のスタジアム」が、2020年東京五輪・パラリンピックの選手と観客を包み込むことになる。

 当初の計画が白紙撤回された新国立競技場の建設は、関係閣僚会議を経て建築家の隈研吾氏と大成建設などのチームが手がけることに決まった。

 国立競技場や大会エンブレムをめぐる一連の混乱から、東京五輪は信頼回復に努める新たな段階に入る。

 大会組織委員会や競技場の事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)、そして政府は二度と失敗が許されない状況であることを認識し、公正、透明なプロセスに徹してほしい。

 国立競技場の旧計画では建築家や国民から建物の大きさや費用面などで多くの意見が出されていたが、JSCなどが真剣に耳を傾けることはなかった。

 自分たちの声が響かないところで下された判断を、人々は拒む。専門家の決定であっても、納得できる道筋を経ていなければ受け入れない――。

 それが一連の問題から学んだ教訓だったはずである。

 JSCなどは今度こそ、国民の多様な意見に耳を傾けるとともに、過程を丁寧に説明していくところから始めるべきだ。

 今回はすでに、競技団体や選手、国民から意見を聞き始めている。選手らからは芝の管理の重要性や競技が見やすい観客席などの要望が挙げられた。

 本体着工は来年12月。しばらくの間は聞き取った意見を詳細な設計に生かすことができる。

 より良い競技場にするために勉強会を開く市民団体もある。国民の代表と車座集会で対話するなど、なるべく多くの声を反映させる工夫をしてほしい。

 建設費用は1490億円とされるが、増税や資材・人件費の高騰などで上ぶれすることもあり得るだろう。

 組織委は今週、招致段階で約3千億円としていた組織委予算が増額となる可能性を明らかにした。政府なども今後、開催に必要な取り組みと関連経費を詳細に検討していく。

 状況が変わった時にはその都度、国民が納得できる十分な説明を尽くしてもらいたい。

 選考過程に不正があったとされた旧エンブレム問題の調査報告書も、「国民のイベント」であることに思いを致さず、専門家集団の発想で物事を進めたことが過ちだったと指摘した。

 五輪は国民とともにある。

 大会に直接かかわる人たちは、この精神を再び見失うことがあってはならない。