柏崎歓
2015年12月22日22時28分
フランスの同時テロ事件の残響とともに、2015年が暮れようとしている。ベストセラー『カラマーゾフの兄弟』(光文社古典新訳文庫)の翻訳者として知られるロシア文学者の亀山郁夫さん(66)に、テロの時代と世界のグローバル化、そして先月出した初めての小説について聞いた。
文豪ドストエフスキーが『カラマーゾフの兄弟』を書いた19世紀、ロシアでは皇帝を標的にした狙撃や爆破が繰り返し起きた。「当時は皇帝が暗殺される時代だった。今は一般人がテロで殺される時代」。その変化の節目は1995年に見いだせると、亀山さんは言う。
ウィンドウズ95が登場したのがこの年だった。インターネットの普及とともに、国と国との境界は急激に意味を失っていく。金融資本主義が加速し、米国中心のグローバリゼーションが世界を席巻していった。
「現在の世界で横行するテロは、アメリカ中心の一元論に抑圧された人々の悲鳴の一つとみることができる。ある種の秩序を保っていた中東にも、世界の警察としてのアメリカの手が伸びるようになった。その先に今のIS(過激派組織「イスラム国」)がある」
この年、日本では地下鉄サリン事件があった。「世界がテロの時代に突入する予兆の年とみることができるのです」
亀山さんは今年11月、『カラマーゾフの兄弟』の舞台を1995年の日本に移した小説『新カラマーゾフの兄弟』(河出書房新社、上下巻)を出した。ドストエフスキーが書かずに亡くなった続編の内容も盛り込んだ「完結編」を目指したという。
「書かれなかった続編をあえて今よみがえらせるなら、現代の日本と世界を考える手がかりになる小説でなければ意味がない。だから、世界のすべてを変えた1995年を舞台にした」
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