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岩手県知事 達増拓也×佐藤健志 「超復興の実務と理想」を語る 〔2〕

2014年03月11日 公開

対談: 達増拓也(岩手県知事)、佐藤健志(評論家・作家)

『Voice』2014年4月号より》

宮沢賢治と「アマノミクス」で日本は甦る

〔1〕からのつづき

地方の時代と「アマノミクス」

 佐藤 三陸海岸といえば、いまやNHK連続テレビ小説『あまちゃん』で知らぬ者なしです。県の観光スローガンも「いわてはドラマより、じぇじぇじぇ!」。番組制作には、岩手県もかなり協力されたとか。

 達増 もう全面協力といっていいですね。

 佐藤 知事もツイッターで、折に触れ『あまちゃん』をフォローされていました。そこから生まれた政策理念が「アマノミクス」。アベノミクスと似ていますが、ひと味違います(笑)。いわく、日本がバブル以降の失敗を繰り返さずに、1980年代の元気を取り戻すための方法論。地方から真の改革を成し遂げる道でもあるとか。

 達増 『あまちゃん』の物語は1984年、主人公のお母さんが上京するシーンから始まります。私自身もそのころ高校を卒業して東京の大学に入り、80年代当時の日本のエネルギー、活力を体験しながら成長しました。

 1980年代を取り戻す、というのは、『あまちゃん』の一つのテーマだと思います。80年代は地方の時代です。内需拡大型の経済構造改革によって地方が次第に豊かになり、一方の都会にはゆとりが増え、通勤地獄も解消して大きな家に住む、というビジョンがありました。ところがその後、日本はマネーゲームに踊ってしまい、バブル崩壊に至る。その挫折が、『あまちゃん』の主人公のお母さんの挫折とぴったり重なるわけです。

 佐藤 1988年、当時の竹下首相が「ふるさと創生事業」(各市町村に一億円ずつ交付する政策)を決定、地方活性化の機運が高まりました。しかしバブル以降の日本は堂々めぐりで、変化が多いわりに本質的な問題は放置されたまま。『あまちゃん』を観ると、東日本大震災が起きるまでは、ずっと1980年代だったかのような印象を受けますが、これもそのためでしょう。

 達増 そこでいま、頓挫した内需拡大型の経済構造改革を、地方に根差すかたちで再生する必要があります。再び地域の資源を見つめ、地元の海に潜って地域資源のウニを獲り、琥珀を掘る。それらを加工して全国とコミュニケーションを取りながら販売し、日本各地がつながる、というビジョンです。

 佐藤 「地方からの改革」に加え、アマノミクスのもう一つのキーワードは「潜る」。むろん海女さんは海に潜りますが、知事の真意はそれだけではありませんね。

 達増 「潜る」というのは、理解を深める、ということでもあります。三陸のウニの生態を知り、琥珀がどのようにつくられ、どこに埋まっているか。近くに恐竜の骨が埋もれているかもしれない。地元の生物・環境に対する深い理解を探ることが「潜る」の意味に込められています。そうした深い理解から、サービスや製品にも知識・情報の付加価値が生まれるのではないでしょうか。

 

好きこそ経済の上手なれ

 佐藤 そこまで興味が広がるのは、つまり好きということですね。知事はアマノミクスについて「好きであることに支えられた経済」だとおっしゃっていますが。

 達増 好きだからこそ理解が深まるし、多くの人に伝えたい、と思うわけです。最近は生産や消費が「何となく」「やらなければならない」という義務感や惰性に陥っています。そこでもう一度、労働と消費の楽しさを取り戻したい。「好きだからやる」という原点に立ち返って経済や社会を再構築すれば、われわれ本来の人間性を回復できるのではないか。

 佐藤 関連して思い出されるのが「アマチュア」の語源。アマチュアは通常「素人」と訳されますが、じつはラテン語「アマトール(amator)」に由来します。

 達増 これも「アマちゃん」ですね。(笑)

 佐藤 海女が獲るからアマトール、ではありません(笑)。アマトールは「愛する人」の意。何かに惚れ込んでいる、とにかく好きだからやる、それがアマチュアです。だからこそ、アマチュアはディープに熱中して「潜る」ことができる。たいがい損得も度外視です。

 こういう情熱は、往々にして物事を変えます。そこまで好きだと、苦労が苦労でなくなるからです。近代的な効率主義や「仕事は義務」という発想は、画一的な大量生産にはよいが、画期的な業績にはつながらない。

 効率一辺倒の人は、アマチュアの行動を「下手だし、割に合わない」と評します。最初はそうでしょう。しかし5年後、10年後はわからない。頑張り抜けば巨大な市場が生まれ、採算が非常によくなるかもしれない。

 アマノミクスの担い手たるアマチュアは、いわば「下手の横好き」を極めることで、第一次産業から第三次産業まで横断し、かつてない可能性を開拓しうるのです。『あまちゃん』にも、潜って獲ったウニを加工し、インターネットで宣伝、列車内で売る場面がありました。これを産業の六次化(一次×二次×三次=六次なので)といいますが、各地にさまざまな業種が同居し、愛をもって交流することが、経済活性化のカギだと思います。

 達増 全国の皆さんに岩手を好きになっていただき、岩手も全国を好きになる。これが理想だと考えています。好きになったところはどこでも地元になる。『あまちゃん』の主人公アキちゃんはじつは東京生まれで、親の実家があるということで岩手に来ます。けれどもそこが気に入って、彼女にとっては岩手が地元になる。一人にたくさんの地元があってもいいし、世界も広がると思います。

 

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