イチオシ
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大前研一・アベノミクスへの最後通牒
2016年1月 3日号
▼安倍ブレーンが読み違えた「低欲望社会」ニッポン
▼法人税は上げてこそ「賃上げ」「設備投資」につながる
▼個人金融資産の1%「17兆円」を市場に呼び込む成長戦略
安倍首相の掛け声もむなしく、迷走を続けるアベノミクス。早くから、その効果に疑問を投げかけ、問題点を指摘してきた経営コンサルタントの大前研一氏。これは、「低欲望社会」を読み誤ったアベノミクスへの最後通牒である。
もういい加減にしてくれ―。アベノミクスは、最初から評価するに値しないと考えています。
「旧三本の矢」はいずれも的外れでしたが、「新三本の矢」は輪をかけて意味がわかりません。「第1の矢」として、安倍首相は5年後に500兆円程度のGDP(国内総生産)を600兆円にすると言っています。これまでの2年半で2%も伸びなかったのに、なぜ突然20%も伸びるのか。その説明がないのです。
所管の役人は「そんなことができるわけがない」と当然心得ているため、役所ではGDPの計算式を見直す動きがあるようです。首相の意向に逆らわないよう、結果的にGDPが大きくなるよう定義を変え、新しい数式で計算すると「600兆円になっていた」としようとしているようです。事実ならば、驚きのあまり腰が抜けてしまいそうです。
そもそも、わずか5年で効果の出るようなものはイカサマと言わざるを得ません。1980年代のレーガン米大統領やサッチャー英首相の改革は抜本的なもので、成果が出るまで20年かかりました。彼らの改革は規制緩和どころか規制撤廃といえるほどで、守られていた産業から失業者があふれ出し、結局は「石もて追われる」かのごとく指導者は政権を離れたのです。
特に通信、金融、運輸の三つの産業、つまり国境を超える産業の規制を撤廃しましたが、相当な勇気が必要です。安倍首相にできるのでしょうか。
「第2の矢」である希望出生率を1・8にすることも至難の業です。スウェーデンとフランスは瞬間的に出生率が2・0に達しましたが、本格的な少子化対策から20年後のことでした。
両国は毎年、GDPの3~3・5%の予算を注(つ)ぎ込みました。フランスの大胆な税制改革もその一つです。例えば、子どもを1人産むと所得税がこれだけ下がり、2人産んだらこのくらい下がる、3人産めば......としたのです。しかも、18歳まで育てると約1800万円のキャッシュが親の手元に残る。スウェーデンでは、子どもが増えると政府が部屋代を補助してくれます。子どもが2、3人になると家が手狭になることを考慮し、新たな家の家賃を補ってくれるのです。
日本はこの意味での少子化対策予算はGDPの1%にも満たない。人口動態の問題を解決するのは短期間では難しいのです。私は92年に政策市民集団「平成維新の会」を旗揚げし、「2005年までに改革を成し遂げなければ、日本の再浮上はない」と警告してきました。当時は、この時期に国民の平均年齢は50歳を超えると予想されていました。老化が進んだ国では改革はできないのです。ポルトガルやスペインは400年間衰退を続けるパターンに陥っていますが、日本もそのようにならざるを得ないと言ってきました。これは経済予測ではなく、人口動態に起因する問題なのです。