記事

エルトゥールル号海難事故現場を4Kドローンで空撮! 映画「海難1890」で考えるトルコと日本の絆 - 渡辺秋男

本州最南端の潮岬は、和歌山県串本町にある。このあたりの海域は熊野灘といって、黒潮と親潮がぶつかる潮目にあたる場所で海流の荒々しい波のうねりが特徴だ。この激しい波がリアス式海岸を削り取り、海金剛や橋杭岩などの岩礁・奇岩の景勝地も多い。


海金剛

橋杭岩

1890年に起きたトルコ軍艦
エルトゥールル号の沈没事故

 今から125年前の1890年、この串本町の樫野埼沖でトルコ軍艦 エルトゥールル号の沈没事故が起きた。乗員656名のうち、587名の命が奪われた大規模な海難事故であった。今回この熊野灘、樫野埼を4Kドローンで空撮した。まずはこちらの動画をご覧いただきたい。

https://youtu.be/GXpLr2pSIm8

  トルコは親日国として有名な国だ。なぜ親日国なのか。その理由は2つある。一つは1904年、日露戦争において、日本がトルコの宿敵であるロシアを破り、勝利したから。

 そしてもう一つがこの「エルトゥールル号海難事故」なのである。この事故において、串本村の村民は総出で自らの危険も顧みず救助を行い、残り少ない蓄えの食料を提供し手厚く看護をした。その後、生存者69名は一旦神戸にて治療を受け、その後明治天皇の命を受けた明治政府が軍艦2隻にてオスマントルコ帝国に送り届けたのである。

 日本人であれば、困った人を助けるのは当たり前のことで、誰に自慢することでもない(逆に自慢するのは恥ずかしいこと)という感覚があったのかもしれない。そのためか、日本ではこの話の詳細はほとんど知られていない。しかし、助けられたトルコ人は、この行いに深い感銘を受けたのだろう。125年経った今もこの事故のことがトルコの教科書に載っている。

 史実によれば、1890年9月16日の夜半、樫野埼の岩礁地帯にてエルトゥールル号が沈没したとある。現場は「船強羅」と呼ばれ、古くから海の難所として日本では有名な場所だった。4Kドローンで撮影した、冒頭の部分がそれである。

 台風の中を航行中だったエルトゥールル号は強風にあおられここで座礁し、船体は引き裂かれ乗員は皆、嵐の海に投げ出された。樫野埼灯台下に漂着した生き残った船員10名が灯台の灯りを頼りに40メートルもの断崖をよじ登り、灯台守に助けを求めたとのことだ。この樫野埼灯台は明治3年に点灯した日本最古の石造り灯台である。

自らの命も危険にさらすような懸命の救助

 現代とは違い、当時は灯台守りが常駐をしていた。動画を見てもわかるように、灯台下の断崖は険しい。ここを必死によじ登った船員たちの苦しみを思うと胸が痛む。また、串本の村人たちは、崖下のものを助けるために自ら崖を下り、怪我人を背負い、体に縄をくくりつけて上から引っ張り上げるなど、自らの命も危険にさらすような懸命の救助を行ったという。

 樫野埼灯台の手前には、トルコ記念館という建物があり、この海難事故の資料や引き上げられた遺物、また、日本とトルコとの関係についての展示がされている。樫野埼を訪れたらぜひ入館されることをお勧めしたい。

 事故後、村民は引き上げられた遺体を、樫野埼の丘に丁寧に埋葬した。また、海からあがった遺品、遺留品を一つずつ丁寧に洗い、トルコに送ったとのことである。死者に対する思いやりや畏敬の念を表す、いかにも日本人らしい行いだ。現在はこの地にトルコ軍艦遭難慰霊碑が建てられ5年ごとに追悼式典が行なわれている。



イラン・イラク戦争での恩返し

 この地で始まった日本とトルコの絆は、この95年後、イラン・イラク戦争時に起きたテヘランのトルコ人による在留邦人救出という「恩返し」につながっていく。

 1985年に始まったイラン・イラク戦争。当時サダム・フセインは48時間以降にイラン上空を通過する航空機を無差別に攻撃するという宣言をした。各国は軍用機や旅客機を出して期限内にイランから自国民の脱出を図るが、日本は当時、国会の承認に時間を要するためすぐに自衛隊の海外派遣ができなかった。また、民間航空である日本航空は安全が確保できないとして臨時便を出すことを拒否した。窮地に立った在留邦人は215名。

 彼らを助け出したのはトルコの人々だった。イラン駐在大使からの依頼を受けたトルコ政府は余分に臨時便を出すことを決め、テヘランに向かった。また、現地にいたトルコの人々は、自分が乗るはずだった飛行機の席を日本人にゆずることに同意した。このため陸路でテヘランを脱出しなくてはならなくなったトルコ人は500名以上になるという。そして在留邦人は無事日本に帰国することができたのである。

 日本人である自分からすると、このトルコ人による邦人救出劇は、過分な「恩返し」とも思われ、胸が熱くなる。二つの事件に共通するのは、重要な役割を一般国民が担っている点だ。串本の村民が自発的に動き、それが区長から町長へ、知事へ、そして中央政府にまで伝わり国が動いた。テヘランにおいては援助機を出す決定は首相が決断したものの、危険な空域を飛行する決断をした民間のトルコ航空、そして飛行機に乗れる資格を持っていたトルコ国民自らが、日本人たちに席を譲ることを決め自発的に動いた。たとえ国が離れていても、言葉・文化・民族が異なっていたとしても、真の平和や友好は、こういった地に足のついた「思いやり」や「真心」によって生まれ、そこから育まれる友情からスタートするのではないか。

 トルコの人々に、好きな国について質問すると、たいていは「日本」と回答するという。そして、日本で知っている場所は、と聞くと「串本」という答えが往々にして返ってくるとのことだ。では、日本人は「トルコ」のことをどれだけ知っているだろうか。「テヘラン」のことを知っているのだろうか。もし忘れてしまっていたら「テヘランの恩返し」は、日本人によって行われるのだろうか。

 今年2015年は、エルトゥールル号海難事故から125周年、そしてトルコ航空による邦人救出劇から30周年という区切り年である。先日、12月5日(土)に、日土共同合作映画である「海難1890」が封切られた。これはエルトゥールル号海難事故と、トルコ人による在留邦人の救出劇という二つの実話を後生に残すための映画である。この映画を見ると、歴史は過去と未来に繋がっていることを実感できるだろう。そして現代において、日本人としてできることは何かを考えさせられる。過去から受け継がれた「思いやり」を未来に継承していきたいものである。この日本とトルコにとって記念すべき年の締めくくりとして、「海難1890」を鑑賞してみてはいかがだろうか。

県串本町観光協会ウェブサイト
http://www.kankou-kushimoto.jp/

「海難1890」公式サイト
http://www.kainan1890.jp

あわせて読みたい

「ドローン」の記事一覧へ

トピックス

新着ニュース

  1. 三重で不明の中2女子生徒、発見 高知市内で
  2. エルサレム旧市街にサンタ、クリスマスツリーを配布
  3. アングル:ブラジル、縮む企業設備投資が予感させる一段の景気悪化
  4. 2年債落札は大和証5285億円、SMBC日興証4219億円=市場筋
  5. マイナンバー汚職で2人懲戒免職 厚労省室長補佐、別の男性職員も
  6. 痴漢容疑の介護士を再逮捕、兵庫 携帯メモに感想残す
  7. 深センの土砂崩れ、市政府が1年前に危険性を把握
  8. 大村智さんに栄誉賞 東京都が贈呈
  9. 渡辺喜美元代表を再び不起訴 借入金問題、捜査終結
  10. サンタクロース村の訪問者増加、アジアからの観光客で

ランキング

  1. 1

    "子宮頸がんワクチン"巡り WHOが日本を批判

    WEDGE Infinity

  2. 2

    "新聞は重要な公共財" 嘲笑受ける読売社説

    キャリコネニュース

  3. 3

    ペット扱い?キラキラネームはもはや虐待

    猪野 亨

  4. 4

    【全文】拉致被害者家族の蓮池透さんが会見

    THE PAGE

  5. 5

    水と新聞、どっちが必需品? 読売社説が話題

    THE PAGE

  6. 6

    "消えた子ども"が1000人超 驚愕の実態とは

    SYNODOS

  7. 7

    少子化対策に"年齢差10歳"で出会わせよう

    Chikirin

  8. 8

    "マンガは娯楽"のレッテルに立ち向かう人々

    宮崎智之

  9. 9

    なぜ"セブンの年賀状"ばかりが売れるのか

    PRESIDENT Online

  10. 10

    "海難1890"は全てのトルコの方と日本人必見

    中田宏

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID、mixiID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。