VAIO S11のようなLTE対応PCも増えつつあるが、まだまだ多くの人が屋外でのネット接続にスマホやモバイルルーターでテザリングを使っていることだろう。このテザリング、便利ではあるのだが接続までの手順がやや面倒。
実はWindows 10 MobileにはMS-TCCという便利な"仕組み"が用意されていることをご存じだろうか?
Windows10スマホの発表ラッシュが続いている。
マウスコンピューターのMADOSMA、FREETELブランドのKATANAシリーズ、ドスパラのPCショップで知られるDiginnos Mobile、ヤマダ電機などが既に製品を出荷しており、既に手にしているユーザーも少なくないだろう。この他、iPhoneの周辺機器メーカーであるトリニティもNuAns Neoという機種を発表し、2016年1月末までの出荷を予定している。
このWindows 10 Mobileのスマートフォンにはユニークな機能『MS-TCC』が標準で搭載されている。正確にはPC版のWindows 10にも同じ機能が実装されており、Mobileも含めたWindows 10の機能となる(さらに細かくいうと、PCはWindows 8から、スマホはWindows Phone 8.1の機能アップデートから)。
Xperia Linkライクな機能をWindowsファミリーで実現
MS-TCCとは"マイクロソフト Tethering Control Channel protocol"の略称。そのまま日本語にすると"マイクロソフトが定義したテザリング制御のやりとりの規定"といった感じだ。BluetoothのプロファイルであるRFCOMM(Radio Frequency Communications )とSDP(Service Discovery Protocol)の仕組みを利用して、クライアントデバイス(PCなど)からサーバーとなる無線モデムが入っている機器(スマートフォン)のテザリング機能をリモートでオンにする拡張仕様となる。ソニーモバイルなどが、VAIOとの組み合わせで提供していたXperiaLinkのWindows汎用版となるのが、このMS-TCCとなる。この機能により、カバンの中にスマートフォンなどが入っていたとしても、Windows PCからクリックするだけで、自動でテザリング機能が有効になるという実に優れた機能なのだ。
Xperia LinkではクライアントはXperiaまたはVAIOに限定、母艦もXperia限定でかなり絞られていた。しかしMS-TCCではWindows10機器どうしであれば、クライアントはBluetoothとWi-Fiを備えた"Windows10 PC(またはスマホ)"と、母艦はBluetooth&Wi-Fiさらに携帯回線を搭載した"Windows10スマホ"であればオーケーと、より汎用性が高いのが特徴だ。
MS-TCCの利用条件は2つ
今回は母艦としてマウスコンピューターのMADOSMA(Windows 10 Mobileにアップグレード済み)とクライアントしてSurface 3でどのように使えるのかを紹介していきたい。MS-TCCを実現する条件は2つある。ひとつめの条件は"母艦側はBluetoothがオン、クライアントもBluetoothとWi-Fiをオンにしておく"こと。省電力の観点からスマートフォンのBluetoothをオフにしている人も少なくないと思うが、Windows 10 Mobileの電源管理は非常に優秀なためBluetoothが常時オンでもさほど消費電力は変わらない。
2つめの条件は"Bluetoothのペアリングをクライアントと母艦でしておく"こと。または、Windows PCとWindows 10 Mobileのセットの場合は同じマイクロソフトアカウントでログインするだけでもいい。
Windows 10にはMS-ABTPという別の自動ペアリングの仕組みも用意されており、同じアカウントでログインされている機器は、Bluetoothでペアリングされていなくても、自動でペアリングが行われこのMS-TCCが利用できるのだ。
2つの条件を満たせばMS-TCCを利用できる。具体的には、タスクバーのネットワークのアイコンをクリックすると表示される、Wi-Fi APのリストの中に、ペアリングしたあるいは同じマイクロソフトアカウントでログインしているスマートフォンの名前が表示される。
MS-TCCでWindows 10のWi-Fi APの一覧に表示されているMADOSMA。この段階ではまだテザリング機能はオフのまま
それをクリックして"モバイル ホットスポット、オフ"と表示されればMS-TCCでテザリング制御可能であることを示している。あとは"接続"ボタンを押すだけで、母艦側のテザリング機能が自動でオンになり、Wi-Fiでテザリングのアクセスポイントに接続してインターネットへの接続が可能になる。
ソニーのXperiaシリーズの最新モデルなどにも対応
MS-TCCはマイクロソフトが規定したものだが、オープンな仕様として公開されており、Androidの機器でもMS-TCCの母艦機能をサポートしている例がある。具体的にはソニーモバイルのXperiaシリーズがそれで、例えば、筆者が所有しているXperia Z3 Tablet Compactの香港版(SGP621)はやはりMS-TCCの母艦機能をサポートしている。ただし、クライアントにはなれず、あくまでWindows PCからXperiaのテザリングをオンにすることだけができることと、MS-ABTPには対応していないのでBluetoothのペアリングは手動でやる必要があるという制限はある。しかし、一度ペアリングしてしまえば、Windows 10 Mobileのスマートフォンと同じようにテザリングをWindows 10のWi-Fiのリストからオンにできるようになる。
また、Xperia側のWi-Fiがオンになっている状態でMS-TCCでテザリングをオンにしようとしてもオンにできない。Windows 10 MobileのMADOSMAではWi-Fiがオンになっていても、MS-TCCでテザリングをオンにすることが可能なので、XperiaないしはAndroid側の制限ということになる。なお、この機能は、基本的にここ1~2年以内にリリースされた国内向けのXperiaも対応しているので、既にXperiaを持っていればそのまま利用できるはずだ。
今回はこの機能を母艦=スマートフォン、クライアント=PCとして扱ってきたが、Windows PCに携帯電話回線に接続できるLTEモデムが内蔵されている場合(例えばSurface 3やVAIO S11など)には、そのPCをテザリングの母艦に利用可能だ。
LTEモデムが内蔵されているPCと、別のPCをBluetoothでペアリングしておけば、MS-TCCのテザリングを制御できる。このあたりは、PCとスマートデバイスで同じ機能を実現しているWindows 10ならではの機能といえる。
このように、MS-TCCを利用すれば、Windowsスマートフォンにデータ量の制限に余裕があるMVNOのSIMカードを入れておくと、必要な時だけPCからテザリングをオンにしてすぐにデータ通信できるようになる。
筆者の場合は、普段はUQ WiMAXのWiMAX2+のルーター(W01)をPCのメインのルーターにしており常時オンにしている。だが、WiMAX2+の電波状況がよくなくW01では通信ができない時(地下鉄やビルの奥などまだまだ結構ある)には、すぐにMADOSMAのテザリングをMS-TCCでオンにしてNTTドコモのMVNOの回線に切り替える体制にしている。
カバンにしまったままのスマートフォンを出さなくてもテザリングできるのは実にスマートで、カフェでルーターやスマホをカチャカチャいじっている隣の人に差をつけたいと思うなら、ぜひMS-TCC試してみてはいかがだろうか。