—— 高橋さんの初めての新書『リーダー論』の中には、人をまとめて強い組織を作るための具体的な方法がいくつも載っています。その中でも、「小さな集団の“ダマ”を取る」という方法は驚きました。
高橋みなみ(以下、高橋) 本当に女の子って、おもしろいぐらいダマになるんですよね。
—— ちょっと説明しますと、ダマとは小麦粉を水に溶かすときにできる小さなかたまりのことで、これをなめらかにしないと美味しい料理ができない。グループの中にできる数人のかたまりを高橋さんはダマと呼んでいて、その中に高橋さんが割って入って「ひとりひとり」にほぐしていくことを“ダマ取り”と呼んでいるわけですね。
高橋 はい。強いチームであるためには、メンバーが「ひとりひとり」である必要があります。ダマ取りっていうのは地味ですけど、グループや会社を活性化するためのひとつの方法だと思っています。
—— それを高橋さんは身を持って経験しているんですね。
高橋 私自身も14歳でAKB48に入ったときは「年少組」というダマの一員でした。それぐらいの年頃の子って、年上の人をちょっと敬遠するんですよ。でも、同じ年ぐらいの子が固まってしまうと、全体で一丸となって同じ方向に向かっていくことがむずかしくなるしグループとして機能しないんです。
—— 具体的にはどのようにダマ取りをするんですか?
高橋 自分がキャプテンになったときは、あちこちを見て回って、数人のグループに固まっていると思ったら、そのうちのひとりを別のグループのひとりと話すきっかけを作ろうとしていました。ちょっとずつかかわりを持たせることによって、その子たちの幅も広がるんです。
—— いつ頃からダマ取りを始めたか覚えてますか?
高橋 フォトブック『たかみな』(2010年)を出した頃です。その頃、“組閣”と呼ばれるチーム間でのメンバー異動が初めて行われて(2009年8月)、学校で言えばクラス替えのようなことが起こったんです。
—— 『たかみな』でのインタビューの中にも、ダマ取りの話が出ていましたね。
高橋 はい。今までは同期でチームを組んでいたのが、バラバラの期のメンバーで組むことになったんです。その名残は大きくて、やっぱり新しいチームの中でも同期がかたまってしまっていました。でも、よく見れば、期は違うけどこのメンバーとこのメンバーは仲良くなれそうだ、って思うところがあって。あとはそこへもう一人挟んでみたりすると、うまく回ったりするんです。
—— 自分がいる集団・組織をすごく俯瞰して見ているんですね。
高橋 そうですね。AKB48というグループが大好きなんですけど、仲の良さにのめりこまないことが大事だと思っています。
高橋 はい。仲の良いメンバー子ができてしまうと、どうしても贔屓目になってしまいますう。可愛がっているから「このメンバーにチャンスをあげたい」と思うだろうし、そのメンバーとずっと一緒にいると他のメンバーが話しかけられなくなることもあると思います。
—— なるほど。リーダーは孤独なのですね。
高橋 孤独というより、自立です。だから基本、一人でも立てるように、自分と周囲との距離のバランスをとる感覚はすごくあります。
体育会系と言われるけれど……
—— 高橋さんがAKBに入ったのは中学生の頃ですが、学生時代からそうやって周囲を俯瞰するような視点は持っていたんですか?
高橋 意識しはじめたのはAKB48に入ってからです。もともと、学生の頃は人についていくタイプでした。
—— それは意外ですね。
高橋 すごく人の目を気にして、空気を読むタイプだったんです。だから、人に気を遣ったり、周囲に目を配ったりするという意味では、昔から変わらないと思います。AKB48に入ってからは、役割はリーダーでも、逆にその部分をうまく意識しようとしていました。
—— もしかしてAKBに入る前にクラスの中心でブイブイいわせていたら、グループを俯瞰するような視点は生まれなかったかも?
高橋 そうですね。ブイブイしてたら、またちょっと違ってきたかもしれませんね(笑)。
—— 高橋さんって外側から見たときとのイメージのギャップに驚かれるとことが多くないですか? 体育会系っぽいイメージというか。
高橋 ああ~、それはよく言われます!
—— もっと言ってしまえばヤンキー系(笑)。ドキュメンタリー『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』などの印象が強いのかもしれません。気合と根性で統率しているように勝手に思ってました。
高橋 あははは! そうですね、あの映画でビシっと言っているシーンがあるせいか、そういうイメージ強いですよね! でも本当は全然そういうタイプじゃないんです。
—— そうそう。この本を読んでみたら、ぜんぜん違ったという。
高橋 そう思っていただけて、本当に良かったです(笑)。「強そう」というイメージが私を邪魔するときもあるんです。
—— 体育会系の部活に所属した経験はないんですか?
高橋 ずっと帰宅部でしたし、むしろがんばることがそんなにカッコいいことだと思えなかったんです。運動や吹奏楽を一生懸命やってる子たちに対してうらやましさはありましたし、少年漫画が好きなので「熱くがんばる!」みたいなのは大好きだったけど、自分はそうなれないなって思っていたので。
—— それがAKBに入って変わったんですね。
高橋 はい。AKB48に入って、のめり込んでしまうとやっぱり熱くなるというか、そのためには何をしなきゃいけないのか。できないことは努力しなくちゃいけないし、達成したときの充実感とか、そういう楽しさを知ってしまうと抜け出せなくなりました。
AKBが好きである事と自分の夢だけは絶対になくしちゃいけない
—— 今、チラッとお話に出ましたし、この本の中にも出てくるのですが、高橋さんの考え方のバックボーンには少年漫画があるのでしょうか?
高橋 ものすごくありますね!
—— 本の中でタイトルが挙がっているのが『ONE PIECE』(尾田栄一郎)と『最遊記』(峰倉かずや)です。特に『最遊記』※ の中に登場する「何物にもとらわれず縛られず ただあるがままに己を生きる」という言葉には大きな影響を受けたということですが。
※『最遊記』:97年より月刊『Gファンタジー』などに連載された漫画作品。テレビアニメ、劇場アニメ、ミュージカルなどにもなった。
高橋 主人公の一人、三蔵法師が言う「無一物」※ という言葉の中の1行です。集団の中にいると、何を目的として入ってきたか、自分ってなんだろうってことを、忘れてしまいがちなんですよね。
※ 無一物:仏語の一つ。すべては無であり、執着すべきものは何もないという教え。作中では玄奘三蔵が師より受け継いだとされる。
—— アイドルグループといえども。
高橋 そうです。アイドルになりたかった人もいれば、そうでない人もいます。何がやりたいのか、何のためにがんばっているのかを忘れなければ、集団の中でも自立していけるし、がんばれると思います。
私はAKB48が好きであり、私の夢は歌手であるということだけは絶対になくしちゃいけない。その思いが、この言葉の中に含まれています。
—— AKBにいれば、すごく忙しいですし、どんどんいろいろな指示も飛んで来る。中には不条理なものもあったりすると思います(笑)。
高橋 不条理なことは多いですね!(笑)
—— そうすると、どうしても集団を優先せざるを得ない。自分を見失ってしまうこともあるでしょうね。
高橋 初期の頃はメンバーも少なかったので、本当に忙しかったんです。1日3回公演とかやっていましたから。その時期は、日々生きるのが精一杯すぎて、自分を見失いがちでした。今はなんてもったいない時間を過ごしたんだろうと思います。
—— もったいない時間、ですか?
高橋 もっといろいろ噛み締めておけばよかった、って。その仕事、そのタイミングだからこその意味や、人間関係とかあったと思うんです。いろいろな人たちへ感謝の気持ちを忘れないように。
だから、今はすごくひとつひとつの仕事に対して向き合い方を考えます。この取材ひとつとってみても、AKB48に入った当初は子ども過ぎて感じられなかったことが、今は感じることが出来ると思います。
次回「スティーブ・ジョブズと少年漫画が、私のスピーチのお手本です。」は12月24日(木)更新予定。
【cakes有料会員 限定!】高橋みなみさんのサイン入り書籍『リーダー論』を3名様にプレゼント! くわしくはこちらへ(応募〆切:12月中)
構成:大山くまお ヘアメイク:天野優紀 撮影:加藤浩