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「今までにない、新しいオーガニックビールを!」
リバースプロジェクトのメンバーたちの熱い思いを一つひとつ叶えるべく、世嬉の一酒造(岩手県一関市)四代目蔵元の佐藤航(44)と醸造長の後藤孝紀(35)は、何度も試作を重ねた。
有機栽培された麦芽とホップのみを使用し、国内でも数少ない有機認証を受けた醸造所で製造する品質のよさは、もちろん大前提だ。個性を楽しめるIPA(インディア・ペール・エール)だけに、ホップも麦芽も通常より多めに使う設定にした。
それでいてアルコール度数を上げ、「すっきり感」を出すのが今回のミッション。通常なら相反する要素を取り込むのに悩んだ末、製造の工程に工夫を凝らすことを考案した。余計な「澱(おり)」を落とすために、普通のクラフトビールよりも、熟成に時間をかけたのだ。
すると、「ここ数年で一番の出来栄え」と佐藤自身が太鼓判を押すぐらい、完成度の高い商品に仕上がった。
「この20年間に、何百種類ものクラフトビールをつくってきましたが、今回は試飲してもらう前に、自分から『いいでしょ?』と、思わず言ってしまうぐらい。(リバースプロジェクトから)あれこれオーダーしてもらったおかげで、僕の思考だけなら、決して考えつかないようなアイデアをカタチにすることができました」(佐藤)
一方、岩手で試作が重ねられていた頃に、東京都港区にあるリバースプロジェクトの事務所では、商品デザインの方向性を決める「ビール会議」が開かれていた。
会議中のホワイトボードにメンバーそれぞれが考える名前が挙げられ、数点にまでしぼった中から責任者に最終決定を託されたのだった。
プロデューサーの岡井一貴(41)は「つなぐ」というキーワードを頭に描いていた。絆を深めるべき現代日本の「いま」をあらわす言葉として。世嬉の一酒造の「継承」のストーリーを映す言葉として。
そして選ばれたのが『ヨイツギ』だった。
「想い」をつなぐ。「仲間」をつなぐ。そして、「酔い」をつなぐ――。
この「ヨイツギ(「酔い」+「継ぎ」)」という言葉のイメージをさらに発展させたのが、商品全体のデザインを手がけた、デザイナーの上野卓史(38)だ。
「酔うシーンを思い浮かべた時、みんなで楽しくワイワイとか、いろいろなイメージがありますよね。そんな中で、『よい次の日を迎える』っていう感じが浮かんできて。一日の終わりに飲んで、すっきりした気持ちで次の日を迎えられるような。そんなまっさらな感じを出すために、背景色は白に決めました」
商品デザインには、ユニークなアイデアも散りばめた。ラベルの真ん中に、つないだ手と手のイラストをどーんと配し、店頭に並んだとき、握手がずらっと並ぶ仕掛けだ。
「やっぱり、寂しく飲むよりは、みんなで乾杯して、文字通り『酔いをつないで』もらいたいと。それがラベルからも一発でわかるようにしたかった」(上野)
そもそも、世嬉の一酒造の蔵は、「世の人々がうれしくなる一番の酒造り」を目指して名づけられた。ビールにも、その精神が受け継がれている。だが、蔵元としては苦難もあった。
先々代にあたる佐藤の祖父の代で経営が傾き、祖父の死後、蔵を潰すかどうか、地元で議論になったことがある。当時はバブル期で、2~3千坪の敷地にホテルを建てる、あるいはスーパーを出すといった、様々なアイデアがたくさん持ち込まれたという。
「でも、うちの親父は『この蔵は町全体の景観の一つ。蔵の姿は町のものなんだから、あえて残そう』という決断をした。他に経営していた自動車学校を2つ手放して、再投資して。蔵を維持していくためにビール事業も始めました」
未来の世代まで考えて経営を判断していく。それは、口で言うほど簡単なことではない。佐藤の父親が莫大な借金を抱えながら始めたビール事業は、今のクラフトビール人気にあいまって好調に推移。2012年に佐藤が代を引き継ぎ、「蔵の景観」という町の文化そのものも継承する形となった。
コップに「注ぐ(つぐ)」ことが、何かを継いだり、つないだり。そんな想像をするだけでも楽しくなる。
佐藤は、職人らしい一徹さでこう語った。
「作り手としては、楽しくチャレンジしつつも、ブームに乗るのではなく、ビールのよさをきちっと出していく。次の世代へと継承できるような味を追求していきたい」
ラベルに記されたトレードマークの「つなぐ手」は、未来へのエールでもあるのだ。
=敬称略(おわり)(ライター 古川雅子)
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ヨイツギビール
http://rebirthproject-store.jp/?mode=f9p
http://www.sekinoichi.com/fs/sekinoichi/yoitugi
俳優、映画監督の伊勢谷友介が09年に株式会社リバースプロジェクトを設立。東京芸術大学の同級生らとともに、デザインで、社会的に利用価値が低いとされているものに新たな命を吹き込み、よみがえらせる「再生プロジェクト」を展開している。原発事故で見送られた卒業式を飯舘村の子どもたちにプレゼントするなど、社会貢献につながる「元気玉プロジェクト」なども活動している。
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