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編集長の視点|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

吉野家の「牛丼の具3カ月で健康リスクは増えない」は、科学ではない

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2015年12月21日

 吉野家が9日、牛丼の具の長期摂取調査に関するプレスリリースを出して以降、いろいろなメディアがその内容を報じています。たとえば、朝日新聞は「牛丼、3カ月食べ続けたら… 吉野家が研究結果を公表」と書き、フジテレビも「牛丼を3カ月食べ続けても健康リスク増加の兆しなし 吉野家HD」と伝えました。

 これらの報道、二重に間違っている、と勝手ながら私は思います。一つは、「牛丼」を12週間(3カ月)食べ続けたのではなく「牛丼の具」だということ。もう一つは、吉野家のプレスリリースを読む限り、これはまともな研究とは言えず、そもそも報じる価値がない、ということです。この研究からは、健康影響はなにもわかりません。なのに、プレスリリースは、「健康リスクが増加する兆しはない」と断言しています。これは、一種のニセ科学でしょう。一般の方々には、プレスリリースをじっくり読んで、情報を読み取ってほしいと思うのです。

プレスリリースを解読して、見えてきたのは……

  (株)吉野家ホールディングスのプレスリリースによれば、平均年齢44.8歳±8.5歳(65歳未満)の成人男女24人に、日常生活の中で吉野家の「牛丼の具」を毎日必ず1食加えて食べることを12週間続けてもらい、開始前と12週後の体重やBMI、血圧、血液検査結果等を比較しました。その結果、数値に健康影響につながるような有意差はみられませんでした。
 プレスリリースの結論は、赤字でこう書かれています。

『私たちは吉野家の牛丼の具には生活習慣病を誘導もしくは増悪するリスクはないと推定していましたが、今回実際に吉野家の「冷凍牛丼の具」を食事とともに12週間摂取していただいた健常成人男女および、血糖値の高めな方々においても、摂取前と後でなんら健康リスクが増加する兆しは見られなかった事を皆様にご報告させていただきます』

 このプレスリリースを基に、メディアは「健康リスクは増えない」と伝えました。
 このリリースから読み取れること。まずは、研究で用いられたのは牛丼の具であり、牛丼ではありません。
 店の牛丼(並盛)は、試験に使った冷凍牛丼の具の同等品を、ご飯(茶碗約1.5杯分)に乗せて提供される、と書いてあります。牛丼を毎日1食食べ続けるのと、具を毎日、食事に組み込んで食べ続けるのでは、エネルギー摂取量や糖質摂取量がまったく異なります。それに、食生活全体に与える影響も異なることでしょう。牛丼であれば、「ああ、一食は牛丼か」となる。しかし、牛丼の具を渡されれば、なにと一緒に食べようか、と考えるのが普通。ご飯に乗せるだけでは飽きてしまうのは自明のこと。じゃがいもと合わせて肉じゃが風に、あるいは卵とじに、レタスやキャベツの千切りに乗っけて食べるのもおいしいかもしれないなあ、などと、いろいろ工夫しながら食べた人も多かったことでしょう。つまり、冷凍牛丼の具は、良質のたんぱく質である牛肉を含む味付け食材となるのです。

 加えて、これは研究とはとうてい言えない代物だと私は考えます。24人に食べてもらってその前後で比較、というのは対照群がない試験です。いわゆる“良い子ちゃん効果”を否定できません。こうした試験に参加すること自体が、被験者の生活に大きな影響を及ぼし、被験者を良い子ちゃんにしてしまい、食生活や運動などの改善を促してしまうのです。
 
 本当に、日常生活の食事に冷凍牛丼の具をプラスして食べているのであれば、摂取エネルギーがかなり増えることになります。冷凍牛丼の具のエネルギー量は、吉野家ウェブサイトによれば100gあたり249kcal。市販の冷凍牛丼の具は、1食の内容量が135gなので、336kcalです。これを、食事にプラスして食べ続けたら、体重増になって当たり前。 3 カ月なら、体重が3〜4kg増えても不思議ではありません。ところが、24人の体重平均値は摂取12週間後、統計的な有意差がありません。つまり、24人は牛丼の具のプラス分、なにか食べるものを減らしているか、あるいは運動量を増やしているか、なのです。

 変化がない体重データが実は、「牛丼の具」以外のところで大きな変化が起きていることを実証しています。
 「実験中はふだんと同じ生活を送ってもらい、牛丼の具材を食べる以外はとくに運動したり、食事制限を設けたりはしていない」という報道もありますが、被験者の“良い子ちゃん効果”は無意識の部分も大きく、吉野家が抑制できるわけではありません。
 変化の内容は、被験者それぞれに違うでしょう。もしかすると、牛丼の具の悪いところを、なにかの改善によりカバーして、結果的に「変化なし」になっている可能性もあります。結局、考慮すべき要因がありすぎて、「牛丼の具」のみの影響を取り出して論ずるのは無理、なのです。

 それに、食事の内容が、検査値等にすぐに反映するとは限りません。
 たとえば、食塩摂取の血圧への影響。世界32カ国から選んだ52の地域の食塩摂取と血圧の関係を整理した研究によれば、1日あたり1gの食塩摂取で、1歳年をとると0.058mmHgだけ血圧が上がる、ということが推定されています。1日あたり食塩を10g摂取している人の血圧は、10年で5.8mmHg上昇するだろう、ということ。

 「食塩の取り過ぎが血圧上昇を招く」というのは、非常に強い根拠があり、減塩に努めた方がいいのは言うまでもありません。しかし、その食塩と血圧の関係でさえ、これくらい緩やかなものです。「ちりも積もれが山となる」というのが、食事の健康への影響です。わずか24人の試験で、3カ月食べて変化がなかった、なんて言われても、それはなにも意味しません。

 表面的には「健康リスクが増加する兆し」は見られなかったとしても、よくよく内容を考えれば、この結果から健康リスクを語ることはできません。試験をするのは結構。「やってみたら、こういう結果になりました」だけで、十分に面白いではありませんか。そんな遊び心のあるプレスリリースにしてほしかった。この試験から過剰な解釈、評価を導き出して、科学を装ってはいけないのです。

 私が思い出したのは、やらせが発覚して終了したテレビ番組「発掘!あるある大事典」でした。3、4人を並べて「この食材を食べてもらったら、こんなに痩せた」というような「実験」「試験」と称するものをしょっちゅう、放映していました。吉野家の研究は、人数は少し多いけれど、レベルは「あるある」並みのずさんさです。

 もう一つ気になっているのは、どのようにして被験者24人を選んだのかということ。プレスリリースでは、まったく言及がありません。吉野家は「不健康イメージを払拭したい」という狙いで影響を調べた、とプレスリリースに明記しています。まさか、被験者にこんな意図を説明していないでしょうね。
 12週間毎日「牛丼の具」を1食食べてもらう、というのは、結構な難行苦行だと思います。プレスリリースには、「12 週間の期間中 24 名の被験者にドロップアウトはなく、摂取率は 99.6±1.1% だった」と書いてありますが、むしろこれは不自然。こうした介入試験の場合、実行できない人が出てくるのが普通で、そういう人のデータはきちんと理由を示して外す、というのが科学の作法です。

 落伍者がいないということは、よほどのインセンティブがあったのでは、と思われても仕方がありません。謝礼かな。まさか、全員吉野家の社員、なんてことはないでしょうねえ。いずれにせよ、インセンティブが強ければ強いほど、結果にも大きな影響をもたらします。

 私は、牛丼が悪いとか牛丼の具に健康リスクがあるなどとは、みじんも考えていません。牛丼が非難されるのは、丼めしの上に牛肉とわずかなタマネギと塩分というバランスの悪さ故でしょう。でも、多様な食生活のごく一部として牛丼を位置づければ、安くておいしくエネルギー量も高いよいメニュー。摂取頻度が過ぎなければ、すぐれた食品だと思います。1食は牛丼で済ませても、ほかの2食で減塩に努め、野菜や魚、乳製品、果物等を補えばいいだけですから。

 なのに、こんな研究もどきで、「健康リスクが増加する兆しは見られない」と発表してしまう。これはダメ。「不健康」というレッテルはりに閉口している気持ちはわからないでもありませんが、同じ土俵に乗ってしまっています。「吉野家って、こんなレベルの企業だったのか」と私は苦笑し、なおかつがっかりしています。
 「牛丼3カ月」と報じたメディアにも、おおいに失望しました。こうして、ニセ科学、疑似科学は広がってしまう。皆さん、ご用心を。報道に惑わされず、プレスリリースをじっくり読んでみましょうよ。
(12月10日発行の会員向けメールマガジンの内容を一部変更して掲載しています)

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