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小人さんの妄想 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2009-02-01

ニュートンはすごい!

Q.地球のように巨大な物体の引力を、中心の一点に集まっているもの見なしても良いのだろうか?


この疑問について、以前エントリーを書いたのですが、 >> id:rikunora:20090126

考えてみればオリジナルのニュートンさんが、この問題を扱わなかったはずはありません。

ニュートンをなやましたのは、はじめ月までの距離が正しく測定されていなかったことと、地球の引力は全質量がその中心に集まったと考えて計算してよいことの数学的証明だったといわれている。この2つが解決されて、ニュートンは運動の法則と万有引力の法則とに自信をもって惑星の運動の解明に進むことができた。

   --「物理入門コース 力学」より。

そこで、ニュートンがどのように考えたのか調べてみました。

すると驚いたことに、ニュートンは「幾何学的に」この問題を解いたことがわかったのです。

考えてみればニュートンより前には(明確な形での)微積分が無かったのですから、

ニュートン自身は、微積分無しで問題を解いていたはずです。

以下は「チャンドラセカールのプリンキピア講義」という本を参考にしました。


まずは準備運動。

命題70.定理30

もし球面上のすべての点に向かって、それらの点からの距離の2乗比で減少する等しい求心力が働くならば、その面の内部におかれた1個の微粒子は、それらの力によって少しも引かれないであろう。

ニュートンはまず、内部の詰まった地球のような球体ではなく、内部が空っぽのピンポン球のような球面を考えます。

そして、球の内部に働く引力はゼロであることを見出します。

f:id:rikunora:20090201214709p:image

球の内部のある一点Pに働く引力を考えてみましょう。

球面上のある小さな領域dSと、点Pを直線で結んで、その直線が反対側で球面と交わる領域をdS’としましょう。

すると、dSがPに及ぼす引力と、dS’が及ぼす引力は、ちょうど正反対になって打ち消し合うことに気付くでしょう。

なぜなら、dSの面積は、PからKまでの距離の2乗に比例し、

dS’の面積は、PからHまでの距離の2乗に比例し、

引力もまた距離の2乗に比例するからです。

全球面をこのように、dSとdS’の組で埋め尽くせば、結局のところ全球面から受ける引力は全て打ち消し合ってゼロになるでしょう。


それでは、本題。

命題71.定理31

前と同じことを仮定すれば、球面外におかれた1個の微粒子は、球の中心へと向かってその中心からの距離の2乗に逆比例する力で引かれる。

ニュートンは、球面からの距離が異なる2つの点、Pとpを比較することによって証明を行っています。

f:id:rikunora:20090201214710p:image

f:id:rikunora:20090201214711p:image

上の図は点Pが球面から遠く離れていて、下の図は点pが球面の近くにあるものです。

上下の図では、HKとhk(赤色)、ILとil(緑色)の長さをそれぞれ等しくとってあります。

このとき、図のHI、あるいはhiの部分が点P(あるいは点p)に及ぼす引力の強さを比較してみます。

HIの部分というのは、球面上ではぐるっと一周、帯のようになっている部分のことです。

f:id:rikunora:20090201214712p:image

上の下の引力の比は、次のように表せます。


 上の引力   PI^2   (PS)(pf)  hi   iq
 -------- = -----・--------・----・----   --- 式(1)
 下の引力   pi^2   (PF)(ps)  HI   IQ

最初に出てくる PI^2/pi^2 は、重力が距離の2乗に比例することから出てくる項。

式の中程に出てくる (PS)(pf)/(PF)(ps) という項は、上下の△PSFと△psfの形が違っているため、それを補正する項です。

hi/HI は、引力を及ぼしている部分の幅、

最後の iq/IQ という長さは、球面上を帯状にぐるっと一周している、その半径ですね。


次に、緑色の弦の中点までの比について考えてみます。


 pf PI   df  RI   RI   HI
 --・-- = --・-- = ---- = ---   --- 式(2)
 pi PF   ri  DF   ri   hi

それぞれ三角形の相似から来ています。

特に後半は、△RHI と △rhi が相似であることを用いています。


さらに、球の中心までの比を考えます。


 PI ps   IQ se   IQ
 --・-- = --・-- = ---   --- 式(3)
 PS pi   SE iq   iq

この式(3)は、△PIQ と △PSE(あるいは △piq と △pse)の相似から来ています。

式(2)と式(3)の積から、


 PI^2 (pf)(ps)   HI IQ
 ----・-------- = --・--    ---式(4)
 pi^2 (PF)(PS)   hi iq

式(1) と 式(4) を組み合わせると、


 上の引力   PS^2
 -------- = -----
 下の引力   ps^2

が得られます。


式だけ見ると、手品のようにあれよあれよと結果が出てきますけど、図を見て理解するのはとっても大変ですよ。

最初、私は全く理解できず、丸一日図とにらめっこしてようやくわかりました。

チャンドラセカールもこう書いています。

「余計なステップが全く無いことに着目してほしい。なんと無駄のない証明なのだろうか。」


そして、ピンポン球のような球面の引力が中心からの距離の2乗に逆比例することがわかってしまえば、

その球面をたくさん重ね合わせた、中身のつまった球体も同じ性質を有していることもわかります。

ひとたびわかってみると、微積分の計算を一切使わない、ニュートンの証明の鮮やかさには驚くばかりです。

さらに驚いたことに、プリンキピアは全て、このような幾何学的な証明で成り立っているのです。

プリンキピアの中で、小さな領域に分けて考える、といった発想が後の微分となり、

たくさん重ね合わせる、といったあたりが後の積分となってゆくわけです。

ニュートンはすごい!


どのくらいニュートンがすごいかって。

既に微積分や sin, cos の計算を知っている我々現代人は、例えて言うなら伝家の宝刀を有しているようなものです。

それに対して、ニュートンは素手で戦っているようなものです。

で、試しに刀で斬りかかってみたところ、素手のニュートンに軽くあしらわれた・・・そんな感じです。

プリンキピアを見てみると、刀どころか、コンピューターという戦車で挑んでも、なんかニュートンには勝てない気がします。

正に巨人です、、、いまさらですが。

ちなみに、私が参考にした本ではチャンドラセカールという刀の名人が、ニュートンの証明を全て現代風にやり直しています。

これはこれですごい偉業ですが、チャンドラセカールほどの天才が刀をもってして、ようやくニュートンと対等に渡り合えるのではないかと思えます。

(チャンドラセカールはノーベル物理学賞受賞者、2001年宇宙の旅に出てくるDr.チャンドラと言えば通じやすいか。)


ニュートンのすごさを垣間見るコンテンツとして、こんなものがありました。

* リンゴが落ちたって万有引力は発見できないさ

http://www.math.sci.hiroshima-u.ac.jp/~m-mat/NON-EXPERTS/SHIMINKOUEN1999/SUGAKUKAI/res5.pdf


あと、この問題の出所となった「とね日記」には、こんな記事があります。

* これがニュートンの質点の定理の証明だ- 重心と質点の話

http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8e99a18dc34282857900216178eba029

これは、既に微積分を知っている人の「現代風の」証明ですね。


とねとね 2009/02/04 11:06 ニュートン自身はどうやって証明したんだろうと、あれから気になっていました。プリンキピアを古書店に「立ち読み」に行こうかと思いながら日常の雑事に翻弄されてそのままになっていたところです。それにしても鮮やかな証明ですねぇ。。

もしよろしければ僕の「これがニュートンの質点の定理の証明だ」の記事からこちらにもリンクを張らせてください。

rikunorarikunora 2009/02/04 23:23 やはり開拓者は偉大だと感じました。
この話題は、学校でサラッと流すにはもったいないほど深かった。
プリンキピアという本は、あまり見かけないですね。
私はたまたま古本で見つけたのでラッキーでした。
それでも数千円しました。
リンクはもちろん、いつでも大歓迎です!

とねとね 2009/02/05 01:54 数千円というのはこの記事で紹介している「プリンキピア講義」の本ですね。ラッキーでしたね!アマゾンで検索したら新品で1万5千円もしました。(むぅ。。。高いなぁ)
本家のニュートン著のほうは中古で2万4千円!(\_\);
お値段も偉大です!

リンクを許可していただきありがとうございます!リンクではもったいない話題なので、近いうちにこちらの記事の絶賛紹介記事として書かせていただこうと思います。

僕のほうもニュートンの引力の話題で今日記事を投稿しました。今年に入って「引力ネタ」は2つ目です。相変わらず「半地球」から離れられません。(笑)

とねとね 2009/02/19 12:41 お久しぶりです。
僕のブログの「地球を8000万個に分割してみた」と「これがニュートンの質点定理の証明だ!」の記事の本文中にこちらの記事へのリンクを張らせていただきました。
ありがとうございます。

rikunorarikunora 2009/02/20 09:33 いえいえ、こちらこそありがとうございます。
このブログはそれほど有名ってわけでもないと思うのですが、、、
これからいっしょに有名になればいいんですよね、では。

とねとね 2009/02/21 10:55 記事の内容が交差すると相乗効果のようなものも生まれてくるかもしれませんね。

この質点定理の証明ですが「ファインマン物理学(1)力学」の第13章の190ページから数式による計算での証明が載っているのを見つけました。「球殻の質点」のところまでの証明になっています。

とねとね 2009/05/17 01:12 ガウスの定理を使って解くと「球状に一様分布する電荷による電界」がクーロンの法則同様にrの逆2乗法則に従うことがわかりますが、よく考えればこれってニュートンの質点定理の証明として使えますね。

「球状に一様分布する電荷による電界」の解き方はこのページの真ん中あたりに書いてあります。

http://www.ese.yamanashi.ac.jp/~itoyo/lecture/denkigaku/denki02/denki02.htm

rikunorarikunora 2009/05/17 20:09 なるほど、電気だって逆二乗の法則に従うのだから、重力と同じことが起こっているはずですね。
少し考えてみたのですが、周囲に何もないときは球対称でよいのですが、
別の電荷が近づいてきたときは球対称が崩れるのではないかという気がします。
分極を起こすというか、そんな感じで。
たとえば地球という+帯電した球に、月という−帯電した球が近づくと、
地球と月が向き合っている部分に電荷が集まってくるのではないでしょうか。
その場合には必ずしも電荷の中心=球の中心にならないような気がします。
重力の場合は、質量が一方に片寄るといったことが起きないので、
中心に代用できるのではないでしょうか。

とねとね 2009/05/18 00:42 > 別の電荷が近づいてきたときは球対称が崩れるのでは
> ないかという気がします。

そうなんです。クーロン力と重力はアナロジーとしてよくたとえられますよね。でも電荷は金属球の中を自由に動けまわれるから質点に相当する「電点」のようなものを電磁気学では考えられなくなるわけです。せいぜい「分極」のような偏りですんでしまうわけですね。

でもガウスの定理を使って解く方法って、逆2乗の法則に従う点電荷のクーロン力を前提にしていないように見えるから不思議です。

hirotahirota 2011/08/10 13:48 「逆2乗の法則」は「力線が切れずに続くから面積の増大につれて逆2乗で面密度が減る」という「力線不滅の法則」に等価ですから、表面だけ分かれば内部も分かるという結果になるんですよね。
「力線不滅の法則」と対称性を合わせれば、球対称質量分布から出る力線が質点から出る力線と同じになるのは自明。

rikunorarikunora 2011/08/13 01:31 いま1つ、新たな疑問が湧いてきました。
電荷の場合:
 2つの+と−の点電荷の間にある等電位面を鏡像法で解くと、
 等電位面はアポロニウスの円のように描かれる。
 このとき、電荷は必ずしも円(球)の中心ではない。
重力の場合:
 月と地球が重力で引っ張り合っているとき、
 星の重力は、それぞれの球の中心にあるものと見なして良い。
・・・ということは、電荷と重力とでは、中心の位置が異なるってこと?

rikunorarikunora 2011/08/13 01:37 それでも、地球も電荷も、ちゃんと「逆2乗の法則」=「力線不滅の法則」になっている。
言われてみると自明という気もするけれど、やっぱりすごいなあ。

hirotahirota 2011/08/16 10:21 力線が質点と同じになるのは球対称の場合だけです。
月と地球を合わせたら全然ーっ球対称じゃないし、力線も等方的じゃない。
これが 2 質点と同じ結果になるとしたら、多分ポテンシャルが存在して (力線が渦なし) 加法的ということが原因。(確認してないけど)

rikunorarikunora 2011/08/16 13:09 > 月と地球を合わせたら全然ーっ球対称じゃないし、力線も等方的じゃない。
その後考え直したところ、
「月が地球に近づいてくると、等ポテンシャル面は地球表面とは一致しない」
ということで自分なりに納得しました。だから潮の満ち引きがある。
なんか、説明がひどくややこしいですね。

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