質問
やっぱり骨折予防には、何はともあれカルシウムですよね?
内閣府食品安全委員会の声明
先日、内閣府の食品安全委員会 *1 から、健康食品に関する情報が公開されております。
こちらの関連ブログでご紹介させていただいております。
この報告書の中で、カルシウムに関する最近のメタ分析が引用されていました。
ほかにも、最近のメタ・アナリシスの論文では、カルシウムについて、食事からの摂取量を増加させても骨折予防の効果はなく、サプリメントを摂取しても、骨折予防に寄与するという根拠は弱く一貫性がないものであり、高齢者に広く摂取されているカルシウムのサプリメントは、意味のある骨折の減少に結びつかないであろうとの報告がされている *2。
内閣府から健康食品についての声明が発表 - サプリメントの効果と害
ここで取り上げられている2015年のメタ分析を確認しておきたいと思います。
カルシウムは骨折予防になる?
メタ分析(Bolland, 2015年) *2
研究の概要
主に50歳以上の人が食事やサプリメントから積極的にカルシウムをとると、そうでない場合に比べて骨折が少ないか、を検討したランダム化比較試験または観察研究のメタ分析。
主な結果
ランダム化比較試験のメタ分析のみについて示す。
食事のカルシウム摂取についてはランダム化比較試験は2研究(262人)のみ。この2研究はいずれも小規模でミルクパウダーとハイドロキシアパタイトが用いられており、さらに1次アウトカムは骨密度となっている。
中国のミルクパウダーの研究 *3 では、骨折がミルクパウダー群で1例、対照群で3例みられている。(相対危険 0.33、95%信頼区間 0.04, 3.2)
カルシウムサプリメントのランダム化比較試験は26研究(69,107人)ある。このうち21研究は1日1000mg以上のカルシウムが摂取され、12研究ではビタミンDも使用された。
- 全骨折 (20研究, 58,573人) 相対危険 0.89 (95%信頼区間 0.81, 0.96)
- 脊椎骨折 (12研究, 48,967人) 相対危険 0.86 (95%信頼区間 0.74, 1.00)
- 大腿骨頚部骨折 (13研究, 56,648人) 相対危険 0.95 (95%信頼区間 0.76, 1.18)
- 前腕骨折 (8研究, 51,775人) 相対危険 0.96 (95%信頼区間 0.85, 1.09)
実態は骨密度の研究
全骨折についてまとめると、相対危険 0.89(95%信頼区間 0.81, 0.96)となっており、一見するとカルシウムサプリメントで11%骨折が少ない、という結果になりそうです。
しかし、骨折部位別でみると脊椎については少ない傾向となっていますが、大腿骨頚部や前腕についてはプラセボ群とほぼ同等、となっています。
さらに、これらのランダム化比較試験の多くは骨密度が1次アウトカムとなっています。つまり、本来骨折予防の比較検討を目的とした研究ではないものが、(おそらくやむを得ず)混在しています。*4
ここは重要な問題点であり、解釈する上で注意が必要だと思います。つまり、結果がこれでもまだやや過大評価されている可能性がある、ということになります。
また、研究の質によって結果にばらつきがみられ、一貫性がないものとなっています。質が高い4研究のみの結果を統合すると、全骨折の相対危険は 0.96 (95%信頼区間 0.91, 1.01) と、カルシウム群の効果がさらに小さくなり、有意差も消失してしまいます。
このような結果からは、カルシウムを積極的にとったところで骨折予防なるかどうかは科学的にはっきりしない、あるいは予想外に効果が小さい可能性がある、というところでしょう。
カルシウムは骨のためになるのか?
- カルシウムを積極的に食事からとることの骨折予防効果は、研究が少なくわかっていない。
- カルシウムサプリメントの効果については、全骨折が少なくなる傾向がみられるが、研究によって結果のばらつきが大きい。
- 大腿骨頚部や前腕の骨折予防については、あまり効果が期待できない。
- カルシウムで骨密度が高まるかについて検討した研究ばかりが多く、骨折予防を検討した質の高い研究は少ないという現実がある。
*2:Bolland MJ, Leung W, Tai V, Bastin S, Gamble GD, Grey A, Reid IR. Calcium intake and risk of fracture: systematic review. BMJ. 2015 Sep 29;351:h4580. doi: 10.1136/bmj.h4580. PubMed PMID: 26420387.
*3:Lau EM, Woo J, Lam V, Hong A. Milk supplementation of the diet of postmenopausal Chinese women on a low calcium intake retards bone loss. J Bone Miner Res. 2001 Sep;16(9):1704-9. PubMed PMID: 11547841.
*4:蛇足ですが、カルシウムやその他の骨粗鬆症についての臨床研究が、人の骨折予防ではなく、骨密度が高くなるかという視点で行われているという現実に直面することになります。カルシウムは骨のためにとるのでしょうか?