「消えた子ども」――虐待や貧困などにより、自らの意思に反して社会から姿を消してしまった子ども。「不登校」として認知されていたり、保護者と連絡がとれていることで「無事」と判断されてきたこともあり、その実態はほとんど把握されてこなかった。NHKスペシャル「消えた子どもたち」取材班は児童福祉関係などの諸機関1377ヶ所を対象に、独自の大規模アンケート調査を行った。そこに浮かび上がってきたアウトラインとは? 『ルポ 消えた子どもたち』からアンケート結果をまとめた部分を転載する。
驚愕の実態
集計の結果、「消えた子どもたち」は、この10年の間に施設に保護されていただけでも、少なくとも1039人いたことが明らかになった。記録が残っていない施設や、未回答の施設があること、そもそも保護されていない子どもがいることを考えると、この結果は氷山の一角であり、相当数の子どもが社会との接点を失って姿を消し、危機に直面していることがうかがえる数字だった。
そこには、これまで様々な事件を取材してきた私たちでさえ、言葉を失う実態が記されていた。送られてきた一つひとつの記述に、それぞれの子どもたちの過酷な人生の一部が浮き彫りになっている。集計と分析結果の前に、保護されたときの子どもたちの様子をいくつか紹介したい。
●「ごみ屋敷で生活。笑顔はなく顔の表情筋が衰えている。服を着たことも、外へ出たこともない。泣くこともない」……最も表情豊かに過ごすはずの幼児期、4年間社会と断絶された。要因は「親の虐待・ネグレクト」。
●「親の知人宅に放置され、衣服も汚れて臭かった。便座を机代わりに勉強していた」……母親は夜の仕事で、保育所や学校に通わせてもらえずネグレクト状態だった。
●「中学生で保護されたが自転車にも乗れなかった。幼児期よりほとんど教育を受けていない。大人への言葉使い、学校での授業の受け方がわからず大声を出していた」……母親の意向で小中学校に通わせてもらえず。布団で寝たこともない様子だったという。
●「幼い兄弟だけで暮らしていた。保護時、体は垢まみれで相当不衛生な環境だった」……その後もコミュニケーションに問題を抱えている。
●「無戸籍。発達の遅れ、学習の遅れ」……保護されるまで一度も学校に通っていなかった中学生。母子家庭で水道も止められるような状態。小学生の弟はオムツをしていた。
●「家から一歩も出たことがない。髪は伸び放題。言葉が話せない。食事は犬のように押し込んで食べる。飢餓状態の子どものように腹が膨れている」……その後も体の発達と学力に課題を抱えている。
多数の回答によって、事件になって社会に表面化するケースはひと握りだということがあらためてわかった。そして、国の調査ではわからなかった、その背景や実態も見えてきた。集計の結果は次のようなものだった。
1 消えた要因
なぜ子どもたちの姿が、社会から消えていってしまうのか。アンケートでは、その要因を複数回答で尋ねた。詳しい状況について回答のあった813人分の結果を見ると、「ネグレクトを含む虐待」が最も多く512人。全体の6割強にあたる。次いで「貧困」や「借金からの逃避」といった経済的理由が249人、「通学への無理解」が224人、「保護者の障害や精神疾患」が220人と続いた。さらに、無戸籍によるという回答も25人いた。
2 消えていた時期
また、いつ消えていたのかについても聞いた。最も多かったのは、小中学校で義務教育を受けられなかった時期のある子どもで、623人と、時期を把握できたうちの77%を占めた。追加取材をすると、幼稚園や保育所など就学前は、行政の関わりに差があったり、幼いゆえに子ども本人の記憶があいまいであったりして、実態がつかみにくいという声を多く聞いた。
また、高校に通う年齢の子どもについては、退学や不登校が本人の意思か否か把握されておらず、義務教育に比べ学校の関与も薄れることで実態が見えにくいと感じた。(中略)それだけに、法律上教育を受けさせることが義務づけられている小中学校において、そのチャンスを生かして、子どもをしっかりと把握することが重
要だと強く感じた。
3 消えていた期間の長さ
社会との接点が絶たれた期間の長さについて詳細がつかめたケースは482人。そのうち、学校に行かせてもらえなかったり、親に連れられて住む場所を転々としていたりして社会との接点が絶たれた期間が1年以上に及んでいた子どもは262人。全体の4人に1人、期間が判明したうちの半数以上に上った。最も長いケースでは、生まれてから11年間、ずっと家に閉じ込められていた子どももいた。また短期間であっても、その間に極めてひどい虐待を受け、命の危機にあった子どももいた。【次ページにつづく】